Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例225

終末期在宅患者がザイボックス錠とメジコン錠を併用しセロトニン症候群を起こした可能性

ヒヤリした!ハットした!

メジコン錠<デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、以下DXM>が処方され、4日後にザイボックス錠<リネゾリド、以下LZD>が処方された。在宅訪問時に、薬剤師は患者本人および家族(姉)へ「LZD服用中はDXMを併用しないように」と服薬指導していたが、咳嗽が頻発し、症状がとてもつらかったため、患者は両剤を服用してしまった。結果、セロトニン症候群と思われる精神症状が起こってしまった。DXM中止後、症状は回復している。

<処方1>70歳代の男性。A在宅クリニックの内科。X月4日。

メジコン錠15mg 3錠 1日3回 朝昼夕食後 10日分

<処方2>X月8日

ザイボックス錠600mg 2錠 1日2回 12時間毎に服用 5日分

<処方3>X月10日。

マグミット錠330mg 3錠 1日3回 昼夕食後・就寝前 30日分
アレロックOD錠5 2錠 1日2回 朝夕食後 30日分
レバミピド錠100mg 3錠 1日3回 朝昼夕食後 30日分
タケキャブ錠20mg 1錠 1日1回 朝食後 30日分
ロラゼパム錠0.5mg 1錠 1日1回 就寝前 30日分
含嗽用ハチアズレ顆粒 84g 1日3回(1回2g) 含嗽する
カロナール錠300 3錠 1日3回 朝昼夕食後 15日分
カフコデN配合錠 6錠 1日3回 朝昼夕食後 15日分
プルゼニド錠12mg 1錠 1回1錠便秘時 10回分

<効能効果>

●メジコン錠15mg・散10%<デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物>
〇下記疾患に伴う咳嗽
感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)
〇気管支造影術および気管支鏡検査時の咳嗽

●ザイボックス錠600mg<リネゾリド>
○〈適応菌種〉
本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
〈適応症〉
敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷および手術創等の二次感染、肺炎
○〈適応菌種〉
本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
〈適応症〉
各種感染症

どうした?どうなった?

患者は、急性骨髄性白血病の終末期で在宅治療中であり、発熱性好中球減少症(FN:Febrileneutropenia)に近い状態であった。在宅クリニックから、咳症状のためDXMが処方され(処方1)、その4日後にLZDが処方された(処方2)。
薬剤師Aは、LZDとDXMの添付文書を確認し、両薬剤は併用禁忌の関係ではないが、①LZDが非選択的、可逆的MAO阻害作用を有していること、②DXMが選択的MAO-B阻害剤と併用注意であることを確認し、相互作用が起こる可能性があると考えたが、併用した場合にどの程度の影響が起こり得るのかまでの判断はできなかった。添付文書で併用禁忌や併用注意とされていないため、医師への疑義照会を行う必要はないと判断し、疑義照会は行わなかった。
在宅訪問時、患者本人および家族(姉)に「LZD服用中はDXMを服用しないように」と服薬指導した。薬袋、医薬品情報提供書にも同様の内容を記載し、患者本人および家族(姉)はきちんと理解できている様子であったので、DXMの回収等は行わなかった。
その2日後に、定時薬を含む<処方3>を受け付けた。当日中に、薬剤師Bが在宅訪問したところ、患者の容態は急変しており、意識はあるが、大変苦しそうで、発熱があり、点滴(ゾシン配合点滴静注用バッグ4.5<タゾバクタム・ピペラシリン>、ファンガード点滴用150mg<ミカファンギン>+生食100mL)を受けていた。
在宅医もちょうど往診中であったので、状況を聴取したところ、在宅医は前日も患者宅に往診していた。

医師:「患者は、一昨日の夕方から熱発しており、最高39.6℃まで上昇した。昨日の訪問時、患者は『身の置き所がない様子』であった。ザイボックスは中止し、ファンガード点滴用を開始した。患者は、ザイボックスとメジコンの併用がいけないことを認識していたようであるが、咳嗽が頻発し、症状がとてもつらかったため、メジコンも内服してしまった様子であった。高熱が出ている状況の中、ザイボックスとメジコンを内服してしまったため、セロトニン症候群が惹起されたものと考えられる。薬剤中止後に症状が復調しているので、矛盾はないものと考えている」

状況から判断すると、一昨日の夜と昨日の朝の2回LZDとDXMを併用したようであった。
LZDとDXMは中止となり、咳の症状に対してはカフコデN配合錠が新たに処方された(処方3)。薬剤師Bは、同じ事が起きる可能性を防止するために、LZDとDXMを回収した。

なぜ?

患者は、免疫力の低下および体力の低下が認められている状態において、LZDとDXMを併用したことを契機に『身の置き所のない感じ』といった不安症状や、40℃近い発熱が起こった。これらは、FNの臨床症状とも類似するが、LZD服用開始後に発熱の増悪が認められている点、中止後24時間以内に症状が消失している点、不安症状を伴っている点などから、医師はセロトニン症候群と判断したと思われる。
<処方2>の在宅訪問を行った薬剤師Aは、DXMが『選択的MAO-B阻害剤投与中の患者に併用注意であること』および、LZDが『非選択的、可逆的MAO阻害作用を有すること』を添付文書で確認し、両薬剤を併用した場合、セロトニン症候群の徴候および症状が現れるおそれがあることを理解していたが、在宅訪問時に、当該患者に対して適切な服薬指導ができていなかった。
薬剤師Aは「飲み合わせが悪いので……」という説明だけで、両薬剤を併用した場合にセロトニン症候群が起こる可能性についての説明や、セロトニン症候群が具体的にどのような症状であるのかの説明を行わなかった。併用しないようにとの口頭での指導だけで済ませ、薬剤の回収を行わなかった。
また、併用禁忌でなくても、医師へ疑義照会もしくは情報提供を行うべきであったかもしれない。ただし、症例報告など信用できる相互作用情報がほとんど得られなかったため、医師への疑義照会が難しかった。
在宅訪問時、当該患者や家族(姉および兄)からは、DXMを見て、「自分たちもこれまで服用したことがある薬だ」「咳によく処方される薬だ」という発言があり、咳の症状が悪化した当該患者は軽い気持ちで服用してしまったのでないかと考えられる。

ホットした!

LZDとDXMが併用となった場合は、医師や患者家族にセロトニン症候群のリスクについて、きちんと説明を行った上で、併用を回避する必要がある。
セロトニン症候群の初期症状について、具体的な説明(不安、混乱する、いらいらする、興奮する、動き回る、発汗、発熱、下痢など)を行う。
DXMは、選択的MAO-B阻害剤(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)、セロトニン作用薬(SSRI等)、CYP2D6を阻害する薬剤(キニジン、アミオダロン、テルビナフィン等)と併用注意であり、併用薬のチェックを徹底する。
DXMは広く用いられる薬剤であり、残薬等があることを聴取した場合には、お薬手帳を活用して併用注意の薬剤があること注意喚起する。具体的な商品名等を挙げて、お薬手帳に「〇〇とは一緒に服用しないように!」と記載するような取り組みが重要である。

もう一言

1.セロトニン症候群について(参考文献1)
三環系抗うつ薬やセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などのセロトニン作動性の強い薬物を服用中に出現する副作用である。発生頻度は1%未満とされているが、症状の進展が早く、重症例では死に至る可能性もあることから、重篤な副作用として位置づけられている。
臨床症状は多彩で、大きくは神経・筋症状(腱反射亢進、ミオクローヌス、筋強剛など)、自律神経症状(発熱、頻脈、発汗、振戦、下痢、皮膚の紅潮)、精神症状の変化(不安、焦燥、錯乱、軽躁)である。服薬開始数時間以内に現れることが多く、服薬を中止すれば、通常は24時間以内に症状は消失する。薬の開始時や服用量の増量時に、急に精神的に落ち着かなくなったり、体が震えてきたり、汗が出てきて脈が速くなるなどの症状が見られた場合は、副作用を疑うことが必要である。

2.セロトニン症候群を起こす代表的な医薬品(参考文献1)
セロトニン神経系への機能亢進作用を有する薬剤はすべて原因薬剤となる。
・SSRI
・三環系抗うつ薬
・MAO阻害薬とSSRIや三環系抗うつ薬との併用(重篤な結果になる例が多い)
・炭酸リチウム(セロトニン機能を増強させる)
・タンドスピロン(5-HT1A受容体作動薬)
・頻度は少ないが、ペチジン、ペンタゾシン、トラマドールなどの鎮痛薬や、鎮咳剤であるDXMなどと抗うつ薬の併用
・サプリメントとして使用されるセント・ジョーンズ・ワート(セロトニン活性を亢進)と抗うつ薬の併用
・MRSA感染症に使用されるLZDとSSRIとの併用

[参考文献]
1)重篤副作用疾患別対応マニュアルセロトニン症候群、平成22年3月(令和3年4月改定)、厚生労働省、 https://www.pmda.go.jp/files/000240114.pdf

[国試対策問題]

問題:50歳台の男性。以前からうつ病の治療を行っている。本日の診察において、気分の落ち込みが激しくなるなど、症状の悪化が認められたため、これまでの抗うつ薬が1カプセルから2カプセルに増量された。
(処方)
ベンラファキシン塩酸塩徐放性カプセル75mg
1回2錠(1日2錠)1日1回夕食後14日分

ベンラファキシンの重大な副作用であるセロトニン症候群を早期発見するために、薬局薬剤師から患者にあらかじめ説明する事項として、適切でないのはどれか。1つ選べ。

1 汗が出て脈が速くなることがあれば、お知らせください。
2 尿が出にくくなるようであれば、お知らせください。
3 体が勝手にピクピク動くことがあれば、お知らせください。
4 精神的に落ち着かなくなるようであれば、お知らせください。
5 高熱が出たら、お知らせください。

【正答】2
セロトニン症候群(セロトニン作動性の副作用)の症状ではない。ベンラファキシンなどのSSRIは、セロトニン再取り込み阻害作用により、交感神経系の活性を亢進させると同時に副交感神経系を抑制することで、排尿困難や尿閉を起こすおそれがある。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月24日

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