Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例222

視力低下者に対する点眼指導が上手くできていなかった

ヒヤリした!ハットした!

左目はほとんど見えず、右目は視野欠損で見えにくい状態の緑内障患者が新しく開封したアゾルガ配合懸濁性点眼液<ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩>を点眼しようと容器を振ったらカサカサ音がする、液も入っていなくて、点眼できなかったと訴えた。しかし、メーカーに調査してもらったところ、異常はなかった。患者は、開封前の新しい容器と使い終わりの容器の区別ができていなかった(薬局には後者を持参した)可能性があった。薬剤師は、極度に視覚低下のある患者への服薬指導が不十分であったと考えられる。

<処方1>70歳の男性。診療所の眼科。

アゾルガ配合懸濁性点眼液 15mL 右眼1日2回点眼
アイファガン点眼液0.1% 15mL 右眼1日2回点眼
トラバタンズ点眼液0.004% 10mL 両眼1日1回点眼

<効能効果>

●アゾルガ配合懸濁性点眼液<ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩>
次の疾患で、他の緑内障治療薬が効果不十分な場合:緑内障、高眼圧症

どうした?どうなった?

患者は緑内障であり、3年前から左目はほとんど見えておらず、右目は視野欠損で見えにくい状態である。現在は3種類の点眼液が処方されており<処方1>、眼圧は右7mmHg、左10mmHgくらい(正常範囲)である。
もともと複数の点眼液を使用しており、アイファガン点眼液<ブリモニジン酒石酸塩>はドボドボ出てすぐになくなってしまうことや、アゾルガ配合懸濁性点眼液は出しにくかったりすることを訴えていた。即ち、点眼容器によって出にくかったり、出すぎたりするので、押す力加減が難しいとのことであった。
ある日、患者がアゾルガ配合懸濁性点眼液を薬局に持参した。

患者:「振ったらカサカサ音がした。液を出しにくい」

持参薬を見たところ、少量の白い粉が容器の下のほうに付いており、シュリンクラベルも外されていた。使用後で残液のない容器を持参したように思われたが、患者からさらに強い訴えがあった。

患者:「新しい容器で点眼しようしたが、液は目に入ってこなかった。振ったらカサカサ音がした」

そこで、最初から使えなかったと患者が訴える持参された容器をメーカーに提出し、検査してもらえば、患者は納得するのではないかと考え、メーカーに検査を依頼した。その結果、容器のキャップの内側とノズル周りに薬液の残留物が見られ、ボトル内には薬液が僅かに残っていることが確認された。また、液を再充填し、機能試験を実施したところ、液漏れは認められず、1滴ずつ滴下できることが確認された。メーカーの調査結果を患者に説明したが、あまり納得していない様子であった。

なぜ?

患者は、目が見えにくいために、開封前の新しい容器と使い終わった容器の区別ができていなかったと考えられる。即ち、新しい点眼液のつもりで、実は使い終わった点眼液を使用しようとしていた。
この様なトラブルがあることを薬剤師は想定できておらず、点眼容器を開封したら、容器本体に印をつけたり、開封日を書くなど、トラブルを回避するための工夫を考え、患者に提案していなかった。
点眼の方法について、容器をよく振ってから点眼すること、他の点眼液との点眼間隔をあけることなどを指導しており、患者も理解していたため、薬剤師は使い方に問題ないと考えていた。患者から時々点眼がうまくいっていない、使いにくいとの訴えがあったが、適切な対応ができていなかった。

ホットした!

目が見えにくい患者には、開封前と開封後の点眼容器を区別できるような工夫を指導することが大切と思われる。例えば、手の感触で理解できるように、未開封の点眼容器には調剤時に輪ゴムを巻きつけて渡し、開封して点眼開始したら輪ゴムを外してもらうなどのような工夫を伝えて、服薬指導する。
どれくらいの薬液が充填されているか、容器を一緒に確認して、その特徴を説明するようにする。懸濁している点眼液の容器を振る方法は、口頭だけでなく、実際に目の前で行ってみせることも大切と思われる。懸濁性点眼液は必ずキャップを上に立てて保管すること、逆さで保管すると先端に詰まって出にくくなることもしっかり説明する。点眼容器1本でどれくらいの日数点眼ができるかを説明することも大切と考えられる。
点眼の仕方について、初めての処方時に指導していても、定期的に何度も点眼方法を再確認していくことも重要と思われる。時間とともに忘れてしまうこともあるので、高齢者であることを考慮して繰り返し指導するなどの対応が必要と思われる。

もう一言

視覚障害者(ロービジョン者)への点眼指導について報告されている1)。 視野が狭い場合などは視力データだけでは分からないこともあり、患者によりものの見え方はそれぞれ異なり、個々に応じた点眼指導を行うことが大切である。薬剤師が介入するために確認しておく必要なチェックポイントを以下に記した。

①患者の見え方と生活背景を把握する。
□点眼するのは誰か(本人、家族、介護者など)。
□手先の痺れや感覚の麻痺がないか。全身の合併症はないか。
□保管場所や保存温度が分かっているか。
□薬剤名と見た目について認識しているか(カタカナが多くても理解しているか、キャップの色と容器の色や形が識別できているか)。

②点眼表を活用する。
□点眼表を作成することで点眼薬を整理する。
□点眼理由、用法・用量、保存方法を書いて説明する。
□必要性の低い点眼薬や効果が重複している点眼薬を整理できるか確認する。
□左右眼で投与回数や種類を揃えられるか、配合剤に変更して負担を減らせないか検討する。

③ロービジョンケアを行う。
□眼鏡の調整、拡大鏡の使用を勧める。
□点眼表を拡大コピーする。
□薬袋に大きい文字で書く。
□点眼薬の保存容器を工夫する。例えば、左右眼で点眼薬が異なる場合は、左右で異なる形状(丸、四角)の容器で保存する。「左」「右」を容器に大きく記す。
□容器をつかみにくい場合、指先に力が入らない場合は点眼補助具を紹介する。

④福祉を利用する。
□身体障害者手帳(視覚障害の認定)を所有しているか。初回から時間が経過していた場合、症状の進行によって対象となっていないか。
□視覚障害として認定されている場合、補装具の支給の対象となる。
□眼鏡、拡大読書器などの支援機器を紹介する。

補装具(視覚補助具)に関するガイドブック、ハンドブックについては以下を参照する。
・補装具費支給事務ガイドブック平成30年度告示改正対応版
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000307895.pdf
・障害者支援機器の活用ガイドブック
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000307902.pdf
・視覚補助具ハンドブック
https://www.jslrr.org/low-vision/hojogu

[引用文献]
1)渡辺芽里:眼科ケア、春季増刊号:41-46(2019).

[国試対策問題]

問題:アゾルガ配合懸濁性点眼液<ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩>に関する記述のうち、誤っているのはどれか。2つ選べ。

1 ブリンゾラミドは炭酸脱水酵素阻害薬であり、房水産生を抑制することで眼圧を下降させる。
2 ブリンゾラミドによって一時的に目がかすむことがあるので、機械類の操作や自動車等の運転には注意するように指導する。
3 チモロールマレイン酸塩はプロスタノイドFP受容体作動薬であり、ぶどう膜強膜流出経路からの房水の流出を促進することで眼圧を下降させる。
4 チモロールマレイン酸塩によって気管支が収縮するおそれがあるため、気管支喘息の患者には禁忌である。
5 チモロールマレイン酸塩によって虹彩や眼瞼への色素沈着による色調変化があらわれることがあるので、液が眼瞼皮膚などについた場合には、よくふき取るか、洗顔するように指導する。

【正答】3、5
3 チモロールマレイン酸塩はβ遮断薬であり、房水産生を抑制することで眼圧を下降させる。
5 ビマトプロストなどプロスタノイドFP受容体作動薬に関する記述である。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月24日

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