Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例221

ニトロペン舌下錠の処方で、患者を余計に待たせてしまった理由

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、ニトロペン舌下錠<ニトログリセリン>が毎食前で処方されていたため疑義照会したが、食道アカラシアに対する処方のため問題なかった。薬剤師は添付文書の効能効果を失念しており、また患者インタビューも不十分であった。そのため、不必要な疑義照会を実施することとなり、時間がかかり患者を余計に待たせてしまうことになった。

<処方1>40歳の男性。病院の消化器内科。

アドナ錠30mg 3錠 1日3回毎食後 3日分
[般]酸化マグネシウム錠330mg 3錠 1日3回毎食後 3日分
ニトロペン舌下錠0.3mg 3錠 1日3回毎食後 3日分

<効能効果>

●ニトロペン舌下錠0.3mg<ニトログリセリン>
狭心症、心筋梗塞、心臓喘息、アカラシアの一時的緩解

どうした?どうなった?

病院の消化器内科から、ニトロペン舌下錠が毎食前の指示で処方されていた。薬剤師は、ニトロペン舌下錠は胸痛時に頓服で服用するものと認識していたため、処方箋の記載ミスを疑い、処方元病院の薬剤部を介して疑義照会を行った。
病院薬剤師からの回答は「そのままでお願いします」とのことであった。薬剤師は疑問が残り、念のためニトロペン舌下錠の添付文書を確認したところ、効能効果に『アカラシアの一時的緩解』があり、食道アカラシアに対する処方であろうと初めて気が付いた。
処方箋通りに調剤して投薬したが、患者をかなり待たせてしまった。投薬時の聴取で、患者は胃・食道内視鏡と大腸内視鏡の検査後であり、しかも大腸ポリープを切除したことが分かった。患者は、大変疲れた様子で帰って行った。

なぜ?

薬剤師は、ニトロペン舌下錠がアカラシアに対して処方されることをかなり前に勉強したことがあったが、すっかり忘れていた。
また、疑義照会の前に患者にニトロペン舌下錠の使用目的などを聴取することを怠った(今回は疑義照会後に疾患などを確認している)。疑義照会前に使用目的を明らかにしていれば、疑義照会を行うことはなく、より迅速に薬剤が交付できたと思われる。
不必要な疑義照会をしてしまい、病院の薬剤師や医師に負担をかけてしまった。さらに、疑義照会に時間がかかったため待たせてしまい、患者にも負担をかけてしまった。

ホットした!

一度得た知識であっても、日々の薬剤業務の中でその知識を活用する機会がなければ、時間が経つと忘れてしまうことがあるので、時々見直す習慣も必要である。

もう一言

食道アカラシアは、下部食道括約部の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動障害と定義される[文献1)]。
20∼40歳の間に発症し、徐々に進行する。嚥下困難、未消化物の逆流、胸痛、体重減少、夜間咳嗽などの症状がある。食道筋の除神経に起因すると考えられているが、特定の腫瘍やシャーガス病により引き起こされることもある。
現時点で根本的治療法はなく、治療としては下部食道括約部(LES)を弛緩させ、LES圧を下げることが主体となる。一般的には、LES圧を下げる薬剤による薬物治療を行うが、効果は一時的であり、効果不十分であれば、内視鏡的治療や手術が考慮される。
LES圧を低下させる薬剤には、カルシウム拮抗薬、ニトロ化合物がある。LESでの通過障害のあるアカラシア患者には固形薬剤の内服は不向きであり、液剤(軟カプセルを噛み砕く方法も含む)や舌下投与ができるニフェジピン、硝酸イソソルビド、ニトログリセリンが用いられる。このうちアカラシアに対する保険適応はニトログリセリン(ニトロペン舌下錠0.3mg)に限られる。

[引用文献]
1)日本食道学会編、食道アカラシア取り扱い規約、第4版、金原出版2012.

[国試対策問題]

問題:ニトログリセリン舌下錠に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。

1 ニトログリセリンは細胞内で一酸化窒素に変換され、グアニル酸シクラーゼを介してcGMPを増加させる。
2 ニトログリセリンは血管平滑筋に作用し、低用量では静脈の、高用量では静脈及び動脈の拡張作用を示す。
3 舌下投与できない場合には、水で内服するように指導する。
4 めまいや失神などを起こすことがあるので、椅子に腰掛けるか、座って服用するように指導する。
5 初めて使用する際には一過性の頭痛が起こることがあるが、使用を続ける間に起こらなくなる。

【正答】3
ニトログリセリンは、消化管の粘膜よりも口腔粘膜からよく吸収され、また、肝臓で分解される。したがって、舌下投与のほうが作用の発現が速く、強力で、内服して消化管から吸収させたとしても効果はない。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月24日

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