Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例220

中国の漢方薬、舒肝解郁胶襄とネキシウムの飲み合わせは大丈夫?

ヒヤリした!ハットした!

中国の医療機関でもらったという何の薬か分からない漢方薬『舒肝解郁胶襄』と今回処方されたネキシウムカプセル<エソメプラゾール>の飲み合わせについて患者家族から質問を受けたが、答えることができなかった。

<処方1>40歳台の女性。病院の消化器科。

ネキシウムカプセル20mg 1錠 1日1回 朝食後14日分

<効能効果>

●ネキシウムカプセル10mg<エソメプラゾールマグネシウム水和物>
・胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症、Zollinger-Ellison症候群、非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制
・下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

●ネキシウムカプセル20mg<エソメプラゾールマグネシウム水和物>
・胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群、非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制
・下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

どうした?どうなった?

日本語の理解がかなり難しい中国人患者に、胃潰瘍のためネキシウムカプセルが処方された<処方1>。数日後、患者の義母(日本人)が来局され、漢方薬を持参し、薬剤師に質問した。

義母:「中国の病院かどこかでもらっている漢方薬で、ずっと飲んでいるようです。先日いただいたお薬との飲み合わせは大丈夫でしょうか?」

漢方薬のパッケージには『舒肝解郁胶襄』と書かれていたが、何の漢方薬なのかまったく見当がつかなかったため、その場で質問に答えることができず、後ほど調べて電話連絡すると約束した。
インターネット等でいろいろ調べると、「胶襄」とは中国語で「カプセル」を意味することが分かったので、舒肝解郁を調べたところ英語表記がShuganjieyuであることは分かったが、それ以上は情報を収集できなかった。対応した薬剤師は、当薬局のほかの薬剤師に相談したところ、PubMed(米国国立医学図書館(NLM)が作成する、MEDLINEを含む医学分野の代表的な文献情報データベース)で検索してみるように指示された。そこで、ShuganjieyuをPubMedで調べると、成分としてセイヨウオトギリソウおよびエゾウコギが含まれていることが分かった。
ネキシウムカプセルの添付文書では、エソメプラゾールはCYP2C19および一部CYP3A4で代謝され、セイヨウオトギリソウはこれら代謝酵素を誘導し、エソメプラゾールの代謝が促進され血中濃度が低下する可能性があるので、併用注意となっていたため、そのことを患者の義母に伝えた。

なぜ?

当該薬剤師は、これまで海外の薬剤(医療用医薬品、市販薬)、健康食品などに接したことがなく、他剤(当方の医薬品など)との併用に問題があるかどうか情報検索を行ったこともなかった。即ち、漢方薬と思われる舒肝解郁胶襄の名前の読み方も分からず、どの様な薬か、ネキシウムとの相互作用に問題あるかどうか、リアルタイムで関連情報を収集できなかった。

ホットした!

本邦での取り扱いがない海外の漢方薬について調べる手段等(インターネット検索、文献検索など)について事前に検討しておく必要がある。

もう一言

●舒肝解郁胶襄とは

「舒肝解郁(疏肝解鬱)」は「鬱滞した肝気の流れをよくする」という意味である。成分としてセイヨウオトギリソウ(Hypericumperforatum)およびエゾウコギ(Acanthopanax)の抽出物からなり、ネオクロロゲン酸、シリンギンなど22の化合物を含有しており、軽度∼中等度の単極性うつ病に使用する1)。

[文献]
1.FengDDetal.,NeuropsychiatrDisTreat.12:2387-2402,2016.

[国試対策問題]

問題:かかりつけを担当している患者から、健康食品Aを使ってみたいと相談を受けた。薬剤師は、その健康食品Aについて知らなかったため、情報を収集することにした。次のうち、薬剤師の行動として適切でないものはどれか。1つ選べ。

1 健康食品Aの製造販売会社のウェブサイトを確認し、原材料や成分を確認する。
2 健康食品Aの原材料や成分が、患者の服用している医薬品と相互作用を起こさないかどうか調べる。
3 SNSで健康食品Aの評判を調べ、患者に伝える。
4 健康食品Aを用いた臨床試験が行われているかどうか調べる。
5 患者の了解を得て、主治医に相談内容をフィードバックする。

【正答】3
テレビ、雑誌、WEBサイト、SNSなどには、信頼できる情報からそうでない情報まで、さまざまな情報が溢れている。特に、使用者個人の感想などの評判の情報の信頼性は低く、患者からの相談対応の情報源として用いることは避ける。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月16日

バックナンバー

希望に合った求人を紹介します

リクナビ薬剤師の転職お役立ち情報

プライバシーマーク

リクナビ薬剤師を運営する株式会社リクルートメディカルキャリアは、プライバシーマークを取得しており、お客さまの個人情報を適切に管理し、目的に沿って正しく利用します。