Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例219

処方せんの用法の記載に問題あり!

ヒヤリした!ハットした!

グラニセトロン内服ゼリーの処方せんに記載された用法(放射線治療の30分前)が不適正であった。

<処方1>70歳の男性。病院の放射線科。

グラニセトロン内服ゼリー2mg「ケミファ」 1包 1日1回 朝 3日分 放射線治療の30分前

<効能効果>

●グラニセトロン内服ゼリー2mg「ケミファ」
抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与および放射線照射に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)

どうした?どうなった?

初めて来局した患者である。前立腺がんで放射線治療を行うことになり、グラニセトロンが処方されていた<処方1>。
患者は初めて服用する薬で、剤形が特殊であることや服用時間など、しっかりと薬の説明をする必要があった。

患者:「医師から聞いたから大丈夫です」
患者が説明を受けるのを拒みそうだったため、実際の薬を見せて引き留め、ゼリーの飲み方を説明した。
薬剤師:「ゼリータイプなので、飲み方だけ説明させてください」

次に、服用時点を説明しようとしたところ、添付文書上の用法は『放射線照射の1時間前に投与する』であるが、処方箋と薬袋は30分前と記載されており、用法に乖離があるにもかかわらず、処方箋を鑑査した薬剤師は疑義照会した形跡がなかった。そこで、患者に以下の様に伝えると、面倒そうに答えた

薬剤師:「服用時点に関して医師に問い合わせをさせてほしいです」
患者:「分かるからいい。早く会計して」
薬剤師:「放射線の1時間前でなくて30分前に飲むように言われていますか?」
患者:「はい、はい…」
薬剤師:「服用時点に関して何か変更があれば、あとで連絡します」

薬剤交付後、疑義照会を行ったところ、放射線照射の1時間前に服用することが正しいと確認できた。患者には、電話にて、薬袋・薬情には30分前と記載されているが、1時間前に服用するよう説明した。受診時には、医師から口頭で放射線の1時間前と正しく説明がなされていたようである。

なぜ?

医師は、患者に正しく口頭で説明していたようだが、処方箋の指示が誤っていた(その理由は不明である)。
薬局では、処方箋鑑査が不十分であった。鑑査した薬剤師は、医師が処方箋にわざわざ30分前と書いたのだから間違いないと思い込み、疑義照会しなかった(放射線照射1時間前の投与の規定を認識していなかった)。
患者は、医師から口頭で1時間前と説明を受け、1時間前に飲めばいいと思っており、あまり薬剤師の話を聞かず、適当に返事をしてしまったようである。しかし、薬袋・薬情には30分前と記載されているので、自宅でそのとおりに服薬する可能性があった。
一般的に、認知症などを合併した患者(当該患者ではない)を想定すると、医師とのやり取りを忘れて、薬袋の指示通りに服用する可能性もあるので、薬剤師は疑義照会の必要性をきちんと患者に伝えて、その場で疑義照会すべきであった。

ホットした!

今回のように患者が急いでいる時などは、きちんと薬剤師の話を聞いていない場合や、面倒だから適当に返事をする場合もあることを認識して、患者の様子を見ながら丁寧に対応することが大切である。どうしても患者の理解が得られない場合には、今回のように、帰宅後に連絡するなどの対応を行う必要がある。
さらに、基本的な事であるが、処方箋の記載内容については、医師のコメントなども含めて、一度は添付文書を確認する必要がある。

もう一言

グラニセトロンを放射線照射1時間前に投与するのは、経口投与時のTmax(約2時間)を考慮して設定された。即ち、Tmaxを超えてしまうと効果が減弱する可能性があり、Tmaxよりも前に設定されていると考えられる。本薬の効果を確認する臨床試験も、1時間前に投与する設定で実施されている。
なお、抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与および放射線照射開始の1時間前よりも後(例えば30分前など)に投与することは、臨床試験が行われていないので有効性と安全性は不明であると考えられる。

[国試対策問題]

問題:抗がん薬による悪心・嘔吐に対して用いる制吐薬に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。

1 グラニセトロンは、急性期悪心・嘔吐に有効な制吐薬の一つである。
2 グラニセトロンは、消化管の求心性迷走神経のセロトニン5-HT3受容体を遮断する。
3 アプレピタントは、遅発期悪心・嘔吐に有効な制吐薬の一つである。
4 アプレピタントは、中枢神経系のニューロキニンNK1受容体を遮断する。
5 ロラゼパムは、予期性悪心・嘔吐に有効な制吐薬の一つである。
6 ロラゼパムは、消化管のドパミンD2受容体を遮断刺激する。

【正答】6
ロラゼパムはベンゾジアゼピン系抗不安薬であり、予期性悪心・嘔吐の予防に有用である。ただし、保険適用外である。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月16日

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