
オピオイド服用患者、痛みの強い波と眠気から転倒
オキシコンチンTR錠<オキシコドン塩酸塩水和物>で疼痛管理していた患者に、疼痛管理不十分でオキノーム散<オキシコドン塩酸塩水和物>が追加されていたため、自宅へ電話モニタリングを行ったところ、怪我に至る強い眠気が発現していたことが判明した。
その後、オキシコドン塩酸塩水和物以外の鎮痛剤としてカロナール錠(アセトアミノフェン)が処方追加され、疼痛はあるものの、突出痛の頻度は減少し、オキノーム散を服用する頻度が減り、強い眠気は起きていない。
<処方1>60歳台の男性。A病院の外科科。5月24日。
オキシコンチンTR錠5mg | 2錠1日2回 朝夕食後28日分 |
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オキノーム散2.5mg | 1包疼痛時 30回分 |
他 |
<処方2>A病院の泌尿器科。6月6日。
オキノーム散2.5mg | 1包疼痛時 30回分 |
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<処方3>A病院の泌尿器科。6月14日。
カロナール錠200mg | 4錠1日4回毎食後・就寝前 7日分 |
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<効能効果>
●オキシコンチンTR錠5mg・10mg・20mg・40mg<オキシコドン塩酸塩水和物>
○中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛
○非オピオイド鎮痛薬又は他のオピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛
●オキノーム散2.5mg・5mg・10mg・20mg<オキシコドン塩酸塩水和物>
○中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛
患者は前立腺がんで治療を受けていたが、オキシコンチンTR錠を服用していても強い痛みが発現することがあり、レスキューとしてオキノーム散が処方されていた<処方1>。
6月6日に、オキノーム散が追加処方された<処方2>。投薬時に、患者は以下の様に話していた。
患者:「オキノーム散を服用すると痛みは一時的に和らぐんです。多少眠気はありますが、気になるほどではないです」
しかし、オキノーム散が追加処方となっていたため、そのほぼ1週間後の6月11日に、自宅に電話モニタリングした。
患者:「痛みは波があるがひどいです。どうしても我慢できないときにオキノームを服用しています。多い時には1日5包くらい飲むが、多く飲んだ時は眠気もひどいです。一度は、トイレで無意識に寝てしまい、気付いたら転倒して肘をぶつけたようで、まだ痛いです」
患者の状態は、がん疼痛の第一目標である『痛みに妨げられない夜間の睡眠』が達成できていないこと、1日4回以上の突出痛があること、オピオイドにより日常生活に支障があるほどの眠気の副作用(転倒に至る)が発現していることから、患者には早めの受診勧奨を行い、また、患者の同意を得て6月12日に医師にトレースレポートを提出した。
この時点ではオキシコドン塩酸塩水和物以外の鎮痛剤・鎮痛補助剤が処方されていなかったため、6月14日にはカロナール錠(アセトアミノフェン)が処方追加された<処方3>。
その後、疼痛はあるものの、突出痛の頻度は減少し、オキノーム散を服用する頻度が減り、強い眠気は起きていないことを確認できた。
当患者にはがん性疼痛があり、治療のためのオピオイド(オキシコドン塩酸塩水和物)の使用により眠気の副作用、転倒などが惹起し、さらなる増量が困難となった症例である。副作用の発見には、オキノーム散の増量後の電話モニタリングが有用であった。
麻薬鎮痛薬が処方されている患者においては、薬剤師は、痛みの経過や副作用(眠気、転倒など)の発現状況、コンプライアンスなどについて、薬剤交付時のみならず、電話モニタリングなどで密な確認とケアが必要である。特に鎮痛薬が増量となったときには実施するべきであろう。
さらに、薬剤師は、トレースレポート、疑義照会などで医師との情報共有を行って、眠気などから最終的に転倒に至る状況を回避するための処方作成(薬剤選択)をサポートする。
転倒を引き起こす要因として以下がまとめられている(文献1)より一部改変。
<内因性因子>
<外因性因子>
<誘引となる因子>
これらの因子が複合して転倒が引き起こされることになる。
医療用添付文書には、オキノーム散:眠気(16.9%)、傾眠、眩暈、オキシコンチンTR錠:眠気(22.8%)、傾眠(18.7%)、眩暈が記載されている(括弧内は発現率)。
オピオイド鎮痛薬と転倒との直接的な関連については、有意ではないとする報告と、転倒リスクが上昇するとの報告があり、後者ではオピオイド鎮痛薬開始初期の転倒リスクが言及されている1)。
オピオイド鎮痛薬による眠気は、注意力低下の影響も含め、転倒のリスクになり得るが、数日で耐性ができることが多いとされている。実臨床では痛みの度合いと投薬による眠気、そして患者背景(他に転倒や眠気をきたすような要因があるか、予後)などを考えての判断になる1)。
疼痛のQOLに与える影響は大きく、適切な鎮痛が重要なのはいうまでもない。原田は、オピオイド鎮痛薬内服下で転倒の懸念が生じたのであれば、オピオイド鎮痛薬の減量の検討の前に「オピオイド鎮痛薬の関連はどれくらい考えられるのか」、「ほかに転倒のリスクとなる因子はないか」、「転倒時の骨折予防は必要か」の3つを考えるのがよいと思われるとしている1)。
[引用文献]
1)原田拓:薬剤性転倒のリスク評価、予防、対策、ペインクリニック、41(11):1459-1469(2020).
[国試対策問題]
問題:70歳台の男性。自宅で転倒して救急搬送され、大腿骨頚部骨折により病院に入院となった。患者は、高血圧症のためアムロジピン、糖尿病のためグリメピリド、脂質異常症のためオメガ-3脂肪酸エチル、慢性疼痛のためトラマドール、不眠症のためフルニトラゼパムを服用中であった。
薬剤師は、転倒と関連する患者の服用薬ついて医師から相談を受けた。転倒を起こしうる薬剤として、最も適切でないのはどれか。1つ選べ。
1 アムロジピン
2 グリメピリド
3 オメガ-3脂肪酸エチル
4 トラマドール
5 フルニトラゼパム
【正答】3
1 アムロジピンはカルシウム拮抗薬に分類される降圧薬であり、血圧の下がりすぎ(低血圧)により、めまい・ふらつきが生じ、転倒につながる可能性がある
2 グリメピリドはスルホニルウレア薬に分類される血糖降下薬であり、副作用である低血糖の症状として眠気、めまい、意識朦朧などが生じ、転倒につながる可能性がある
4 トラマドールはオピオイド鎮痛薬であり、副作用として眠気、めまいが生じ、転倒につながる可能性がある
5 フルニトラゼパムは中間型のベンゾジアゼピン系睡眠薬であり、副作用として眠気、翌日への持ち越しなどが生じ、転倒につながる可能性がある
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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