
シクロホスファミド錠の適応外使用
添付文書に重大な副作用として間質性肺炎が記載されているエンドキサン錠<シクロホスファミド>が、特発性間質性肺炎の治療のために適応外で処方されていた。
<処方1>70歳台の男性。病院の呼吸器内科。
プレドニン錠5mg | 6錠 1日2回 朝昼食後14日分 |
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エンドキサン錠50mg | 2錠 1日2回 朝夕食後14日分 |
バクタ配合顆粒2g | 1日1回 朝食後(月水金)14日分 |
他、定期処方 |
<効能効果>
●エンドキサン錠50mg<シクロホスファミド>
○下記疾患の自覚的並びに他覚的症状の緩解
・多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(ホジキン病、リンパ肉腫、細網肉腫)、乳がん
・急性白血病、真性多血症、肺がん、神経腫瘍(神経芽腫、網膜芽腫)、骨腫瘍
ただし、下記の疾患については、他の抗腫瘍剤と併用することが必要である。
・慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、咽頭がん、胃がん、膵がん、肝がん、結腸がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、睾丸腫瘍、絨毛性疾患(絨毛がん、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)、横紋筋肉腫、悪性黒色腫
○細胞移植に伴う免疫反応の抑制
○全身性ALアミロイドーシス
○治療抵抗性の下記リウマチ性疾患
・全身性エリテマトーデス、全身性血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、高安動脈炎等)、多発性筋炎/皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組織病、および血管炎を伴う難治性リウマチ性疾患
○ネフローゼ症候群(副腎皮質ホルモン剤による適切な治療を行っても十分な効果がみられない場合に限る。)
以前より当薬局に来局していた患者である。前回(1ヵ月前)の来局時の薬歴を確認すると、近々、肺炎の治療のために入院する旨が記載されていた。
今回の処方内容は、定期処方に加えて、プレドニン錠<プレドニゾロン>、バクタ配合顆粒<スルファメトキサゾール・トリメトプリム>、エンドキサン錠が新規に追加されていた。患者から事情を聴取した。
薬剤師:「今回、お薬が追加となっていますね」
患者:「はい、肺炎で入院していました。今回は退院後の薬です。薬が追加されていることは聞いていますが、内容はよく分からないです」
薬剤師は、エンドキサン錠の添付文書を確認したが、効能効果に『肺炎』は記載されていなかった。アルキル化剤ということもあり、きちんと処方意図を把握しようと思い主治医に疑義照会をした。結果、疾患名は『特発性間質性肺炎』に対する適応外使用であることが分かった。
担当した薬剤師は、『特発性間質性肺炎』の治療内容についての理解が不足していた。ネットで『特発性間質性肺炎』をキーワードにして検索したところ、日本呼吸器学会から『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き2022(改訂第4版)、南江堂』が作成されていることが分かった。そこに特発性間質性肺炎に対するシクロホスファミドの投与についての記載があった。
もしこのまま処方意図を把握せずに服薬指導をしていたら、見当違いのことを説明し、患者の不安をあおることになっていたと思われるので、処方意図を確認するための疑義照会は必須である。
医療用添付文書に記載のない疾患に対して処方されているなら、医師の処方意図に関して疑義照会を実施することは必須である。その場合、当該薬に関して、事前に保険適応外で処方されることがあるかどうか、ある程度の知識を持って疑義照会するとスムーズに確認できる。
類似例として、間質性肺炎の副作用があるエンドキサン錠の肺疾患患者への処方に戸惑った事例を以下に紹介する。
<処方2>60歳台の男性。呼吸器科。
バクタ配合顆粒1g | 1日1回 朝食後 |
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プレドニン錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後 |
エンドキサン錠50mg | 2錠 1日1回 朝食後 |
タケプロンOD錠15mg | 1錠 1日1回 朝食後 |
スピリーバ吸入用カプセル18μg | 1日1回 朝1回1カプセル吸入 |
他2剤 |
携帯用酸素ボンベのカートを持った患者が、呼吸器科からの処方箋(<処方2>)を持って来局した。投薬を担当した薬剤師は、当薬局に勤務してまだ1ヵ月であり、当患者への投薬は初めてであった。患者は酸素ボンベを携帯しており、呼吸器科からの処方箋であったことから、肺に疾患があるのだろうと考えた。投薬前に処方内容を確認したところ、エンドキサン錠が処方されていた。エンドキサン錠の医薬品添付文書には、重大な副作用として「間質性肺炎、肺線維症(0.1~5%未満)」の記載がある。そのため、肺疾患のある患者にエンドキサン錠が処方されていることに疑問を感じた。
患者の薬歴を遡って確認したところ、以下のことが判明し、エンドキサン錠は特発性間質性肺炎への適応外使用であることが分かった。
4年ほど前の8月に咳が続いたため呼吸器科を受診し、初めはカフコデN配合錠のみが処方されていた。その1ヵ月後に入院し、入院中より上記<処方2>が開始された。さらに3ヵ月後の12月には、特定疾患として『特発性間質性肺炎』の認定を受けていた。それ以降、外来で上記<処方2>を現在まで4年間ほど継続していた。なお、当初より酸素ボンベを携帯し生活していた。このことは薬局の薬歴にも記載されていたが、不慣れなため気がつかなかった。以前から勤務している薬剤師に相談して、初めて経緯を認識するに至った。
薬剤師は、そもそも、特発性間質性肺炎の治療に適応外でエンドキサン錠を使うことがあることを知らなかった。また、エンドキサン錠には重大な副作用として間質性肺炎があることから、余計に戸惑ってしまった。
[国試対策問題]
問題:以下の状況のうち、医師への疑義照会をせずに、薬剤師の判断で行ってよいものはどれか。1つ選べ。
1 患者から聴取した症状や疾患と、処方された医薬品の効能効果に齟齬がある
2 患者から、錠剤を服用するのが苦手との申し出があったため、処方された医薬品と同一銘柄の顆粒剤に変更して調剤する
3 処方された散剤の1回量が少量であったため、服薬しやすくするために賦形剤を加えて調剤する
4 患者から、症状が改善しているので服用していないので不要であるとの申し出があったため、その医薬品を除いて調剤する
5 お薬手帳から、1週間前に別の医療機関から同一医薬品が30日分で処方されていることを確認したため、その医薬品を除いて調剤する
【正答】3
薬剤師法において、「薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない」(第23条2)、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」(第24条)とされている。
3 賦形剤を加えることは調剤学上当然の措置であり、薬剤師の判断で行うことができる
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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