ミヤBMより強ミヤリサンの方が宮入菌末量が多いと勘違い
薬局薬剤師は、患者がドラッグストアで購入した強ミヤリサン錠<宮入菌末(酪酸菌)>(1日9錠、宮入菌末として270mg)の方が、医療用医薬品のミヤBM錠(1日3~6錠、宮入菌末として60~120mg)より宮入菌末の含有量が多いことから、効果も高いと勘違いした。しかし、詳細を調べたところ、両剤はどちらも宮入菌であるが、そもそもの両剤の製法自体が異なるため、菌末の重量だけでは単純に比較できない。菌数で比較すると、ミヤBM錠は1錠当たり107個以上、強ミヤリサン錠は9錠あたり106個以上と異なっていることが分かった。
<処方>80歳の男性。病院の消化器科。
ラックビー錠 | 3錠 1日3回 毎食後30日分 |
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他10種類 |
<購入品>ドラッグストア。指定医薬部外品。
強ミヤリサン錠(330錠入) | 次の1回量を1日3回食後 [年齢:服用量(1回量)] 15歳以上:3錠 |
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<効能効果>
●ラックビー錠・微粒N<ビフィズス菌>
腸内菌叢の異常による諸症状の改善
●ミヤBM錠・細粒<酪酸菌(宮入菌)>
腸内菌叢の異常による諸症状の改善
●強ミヤリサン錠<酪酸菌(宮入菌)>
整腸(便通を整える)、軟便、便秘、腹部膨満感
患者は慢性下痢のため、病院から<処方>が処方されていたが、あまり改善しなかったため、ドラッグストアの薬剤師から勧められた強ミヤリサン錠(指定医薬部外品)を購入し服用開始したところ、下痢は少しずつ改善した。患者は強ミヤリサン錠の継続服用を希望したが、医療用の整腸剤で同じものがあれば、医師に処方してもらいたいと考え、かかりつけの薬局のA薬剤師に相談した。
A薬剤師が強ミヤリサン錠を調べたところ、医療用のミヤBM錠と同じ成分で、製造販売している製薬会社も同じであり、両剤の添付文書や服用方法を確認した。
[医療用のミヤBM錠]
1錠中に宮入菌末20mgを含有する。通常、成人1日3~6錠を3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
[市販の強ミヤリサン錠]
1錠中に宮入菌末30mgを含有する。15歳以上は1日9錠を3回に食後に分割投与する。
そこで、A薬剤師は患者が次回消化器科を受診するまでに、市販薬より含有量は少ないが、ミヤBM錠を処方してもらえないか医師に相談すると患者に約束した。この時点で、A薬剤師は市販薬の強ミヤリサン錠の方が、1日に摂取する宮入菌の含有量が多いと判断していた。
しかし、別のB薬剤師から、医療用より医薬部外品の方が1錠当たりの含有量が多く、1日摂取量が2倍以上も多いのは、どう考えてもおかしいのではないかと指摘を受けた。
そこでメーカーに詳細を確認したところ、ミヤBM錠と強ミヤリサン錠はどちらも宮入菌であるが、そもそもの両剤の製法自体が異なるため(いわゆる濃度に該当するものが異なる)、菌末の重量だけでは単純に比較できず、菌数で比較すると、ミヤBM錠1錠(20mg、菌数107個以上)、強ミヤリサン錠9錠(270mg、菌数106以上)になることが分かった。
A薬剤師は、医療用のミヤBM錠と同じ宮入菌製剤として、強ミヤリサン錠が市販されていることは認識していた。両剤の添付文書を確認し、菌末含有量に基づき単純に両剤の相当量を比較し、菌末の含有量が医療用に比べて医薬部外品の方が2倍以上もが多いことに驚いたが、用法用量に従って使用すればよいと考えるだけであった。
しかし、宮入菌の菌数まで気にすることはなく、それ以上の詳細を調べなかった。その後、B薬剤師から両剤の乖離を指摘されて初めてメーカーに詳細を確認し、菌末の重量だけでは単純に比較できず、菌数で比較する必要があることが判明した。
危うく、患者対応および医師への情報提供に誤りをおかすところであった。
当薬局は健康サポート薬局でもあるが、定期的な勉強会を薬局内でも実施して、患者の健康相談に対して的確なアドバイスが行えるように、一般用医薬品および医薬部外品、サプリメント、健康食品等の適切な知識をつける必要がある。
医薬品に関して、医療用であろうが一般用医薬品であろうが、少しでも疑問があれば、すぐに調べる習慣をつける。
表.宮入菌製剤一覧(ミヤリサン製薬)
分類 | 製剤名 | 含有成分 |
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医療用医薬品 | ミヤBM錠 | 酪酸菌(宮入菌)末 |
ミヤBM細粒 | 酪酸菌(宮入菌)末 | |
一般用医薬品(第3類) | 新ミヤリサンアイジ整腸薬 | 宮入菌(酪酸菌)末、 リボフラビン(ビタミンB2)、 ピリドキシン塩酸塩(ビタミンB6) |
指定医薬部外品 | 強ミヤリサン(錠) | 宮入菌(酪酸菌)末 |
指定医薬部外品 | ミヤフローラEX | 宮入菌(酪酸菌)末、 ウルソデオキシコール酸 |
[国試対策問題]
問題:要指導医薬品、一般用医薬品および医薬部外品に関する記述のうち、誤っているものはどれか。2つ選べ。
1 薬剤師のみが対応できるのが要指導医薬品で、薬剤師および登録販売者が対応できるのが一般用医薬品である。
2 要指導医薬品と第1類医薬品は共に、販売時に書面での情報提供が義務付けられている。
3 要指導医薬品はインターネット等での販売はできず、第1類医薬品はインターネット等での販売もできる。
4 第3類医薬品は、購入者からの相談があっても対応する義務はない。
5 医薬部外品は、薬剤師や登録販売者がいなくても購入できる。
【正答】1、4
1 一般用医薬品のうち、第1類医薬品は薬剤師のみが対応でき、第2類・第3類医薬品は薬剤師および登録販売者が対応できる。
4 購入者からの相談に応じる義務は、全ての一般用医薬品(第1類、第2類、第3類)にある
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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