介護施設入居中の患者、スルピリド錠を中止しQOLが改善
看護師・介護スタッフから、入居者(腎機能低下患者)が日中傾眠しており、口も開けられない(うがいや服薬が困難)ことがあると聴取した。薬剤師は、長期に服用しているスルピリド錠が原因ではないかと考え、疑義照会を行った。結果、漸減しながら中止となり、2~3ヵ月を経て入居者のQOLが改善した。
<処方1>80歳台の女性。内科クリニック。
シロスタゾールOD錠50mg | 2錠 1日2回 朝夕食後14日分 |
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スルピリド錠50mg | 2錠 1日2回 朝夕食後14日分 |
ランソプラゾールOD錠15mg | 1錠 1日1回 朝食後14日分 |
バイアスピリン錠100mg | 1錠 1日1回 朝食後14日分 |
ミカルディス錠40mg | 1錠 1日1回 朝食後14日分 |
<効能効果>
●ドグマチールカプセル50mg、同錠50mg・100mg・200mg、同細粒10%・50%<スルピリド錠>
◯胃・十二指腸潰瘍(50mg製剤、細粒のみ)
○統合失調症
○うつ病・うつ状態
介護施設に入所中の患者である。施設の看護師・介護スタッフから薬剤師は、日中ほぼ車椅子に座ったまま傾眠状態(就床後も目覚めず朝まで就寝)であること、数日前より嚥下障害の傾向があり、口も開けられないこと、車椅子上で座位が保たれず常に傾いており、うがいができない状態であることの報告を受けた。さらに、粉砕可能な薬剤は粉砕して服薬介助していること、表情も乏しく発語も見られないことを聴取し、薬の影響ではないかとの相談を受けた。
薬剤師は、慢性腎不全の既往があること、入所前の入院時にうつ病傾向があり、食欲低下も見られたのでスルピリド錠が処方されていたことも看護記録から確認した。
スルピリド錠は減量した投与量になっていると考えられたが、一部腎排泄の寄与がある(未変化体排泄率:約30%、高度腎障害患者においては、最高血中濃度が約1.7倍、半減期が6倍に延長し蓄積性が認められる)ため、慢性腎不全により血中濃度上昇、半減期の延長の可能性も考えられた。
医師に減量か中止の提案のために疑義照会を行った。結果、スルピリド錠は中止となったが、安全のため2週間毎に1/4量ずつ減量を行うことを提案し、2ヵ月かけて中止とした。
中止後約2ヵ月の現時点では、日中の車椅子に座ったままの傾眠も見られず、座位を保てており、食事も8割程度は摂取し、職員との会話も少しずつ見られるようになってきた。
入所者の状態は変化しているにもかかわらず、入所時の処方が継続されていた。今回は、最終的にスルピリド錠の減量から中止によって症状は改善したが、看護師や介護スタッフから薬剤師への報告が早期に行われ、処方変更へとつなげるべきであった。即ち、看護師や介護スタッフも処方変更ができるとは思っておらず、長期間QOLが低下している状況を目にしていても解決する方法が見い出せなかった。
介護施設の看護師・介護スタッフは患者の日々の状態の変化を確実に捉え、医師や薬剤師に報告するとともに、特に困り事はリアルタイムに報告する必要がある。
薬剤師は、看護師・介護スタッフとのコミュニケーションを良好にし、患者に起こった困り事について聴取して、薬剤関係の問題であれば、医師に処方変更などの提案を行う。
スルピリド錠の副作用について以下にまとめる。
<重大な副作用>
●悪性症候群
●痙攣
●QT延長、心室頻拍
●無顆粒球症、白血球減少
●肝機能障害、黄疸
●遅発性ジスキネジア
●肺塞栓症、深部静脈血栓症
<その他の副作用(中枢神経系のみ)>
〈効能効果:胃・十二指腸潰瘍〉
*錐体外路症状:
パーキンソン症候群(振戦、筋強剛、流涎等)、舌のもつれ、焦燥感
*精神神経系:
不眠、眠気、めまい、ふらつき
〈効能効果:統合失調症、うつ病・うつ状態〉
*錐体外路症状:
パーキンソン症候群(振戦、筋強剛、流涎等)、ジスキネジア(舌のもつれ、言語障害、頸筋捻転、眼球回転、注視痙攣、嚥下困難等)、アカシジア(静坐不能)
*精神神経系:
睡眠障害、不穏、焦燥感、眠気、頭痛、頭重、めまい、浮遊感、興奮、躁転、躁状態、しびれ、運動失調、物忘れ、ぼんやり、徘徊、多動、抑制欠如、無欲状態
スルピリド錠の医療用添付文書より
[国試対策問題]
問題:薬剤性パーキンソニズムに関する記述のうち、誤っているものはどれか。2つ選べ。
1 薬剤を原因として発症するパーキンソン病である。
2 ドパミン受容体遮断作用をもつ薬剤で起こりやすい。
3 抗精神病薬で起こりやすい。
4 脳内の線条体におけるドパミンの作用が減弱されることで症状が発現する。
5 症状が発現したら、レボドパの投与を第一に考える。
【正答】1、5
1 パーキンソン病に類似した症状を呈するが、疾患であるパーキンソン病とは異なる。
5 原因薬剤の減量・中止、代替薬への変更を考える。レボドパの効果はないか、限定的であるとされている。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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