Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例213

介護施設入居者の朝食後薬を用法変更し本人とスタッフの負担軽減

ヒヤリした!ハットした!

介護施設に入居中の患者で、7種の薬剤を服用している。朝は、12錠+1カプセルと数が多く、嚥下困難で服薬に時間がかかり、さらに拒薬傾向にあった。薬剤師は、朝食後薬の一部を昼食後に変更することや、一部の剤形を変更することを提案した。
結果、朝食後薬は6錠+1カプセルに減り、入居者の服薬状況(飲みにくさなどのトラブル)は改善し、さらに、忙しい朝の服薬ケアの時間も短縮し介護スタッフの負担軽減となった。

<処方1>90歳台の女性。病院のリウマチ科。

プレドニゾロン錠1mg 3錠 1日1回 朝食後30日分
アムロジピンOD錠5mg 1錠 1日1回 朝食後30日分
L-アスパラギン酸K錠300mg 1錠 1日1回 朝食後30日分
エディロールカプセル0.75µg 1Cp 1日1回 朝食後30日分
プラケニル錠200mg 1錠 1日1回 朝食後30日分
ブレディニン錠50mg 6錠 1日1回 朝食後15日分(隔日)
プログラフカプセル0.5mg 1Cp 1日1回 夕食後30日分

<効能効果>

●ブレディニン錠25・50、同OD錠25・50<ミゾリビン>
○腎移植における拒否反応の抑制
○原発性糸球体疾患を原因とするネフローゼ症候群(副腎皮質ホルモン剤のみでは治療困難な場合に限る。また、頻回再発型のネフローゼ症候群を除く)
○ループス腎炎(持続性蛋白尿、ネフローゼ症候群または腎機能低下が認められ、副腎皮質ホルモン剤のみでは治療困難な場合に限る)
○関節リウマチ(過去の治療において、非ステロイド性抗炎症剤さらにほかの抗リウマチ薬の少なくとも1剤により十分な効果の得られない場合に限る

どうした?どうなった?

患者は介護施設に入居中である。全身性エリトマトーデスのため数年前より<処方1>を継続服用している(プレドニゾロン錠の量は減量中)。毎月、家族とともに施設外の病院のリウマチ科を受診し、投薬を受けている。1年程前までは、認知機能の低下もあまり進んでおらず、嚥下状態も悪くなかったため、<処方1>は問題なく服用できていた。
しかし、2ヵ月前より次第に嚥下状態が悪くなり、錠剤・カプセル剤が飲み込みにくくなってきた。特に朝食後薬は最大(隔日服用時)で12錠+1カプセルと数が多く、服薬に400mL以上の水分が必要であった。飲み込み確認まで介護スタッフがつきっきりで5分以上かかり、スタッフの少ない朝食後薬のほかの入居者への服薬介助に支障を来すこともあった。さらに、本人も薬が飲み込めないことに疲れて、時には吐き出しなどが見られ、介護スタッフは困っていた。
薬剤師は、介護スタッフからその対策について相談を受けたため、一度夕食後薬(プログラフカプセル)の服薬介助を行ったが、プログラフのような小さいカプセル1つであっても、水を含んでも1、2度では嚥下できず、口内にカプセルが留まり、舌で押しだそうとする行為も見られた。
粉砕や散剤への変更も考えたが、散剤を確実に服用できるかは不明であったため、介護スタッフと話し合い、もう少しこのままで服薬介助を頑張ることになった。
一方で、以下の点につき家族に説明した上で、担当医に現況説明と処方変更願いのトレーシングレポートを作成し、受診時に家族から手渡ししてもらった。
(1)ブレディニン錠をOD錠に変更すること
(2)特に朝食後薬の数が多く、服用困難のため、可能であればブレディニン錠の服用時点を昼食後に変更すること
その結果、隔日投与のブレディニン錠6錠はブレディニンOD錠に変更され、昼食後投与に変更となった。このことにより、朝食後薬は6錠+1カプセルに減り、入居者の服薬状況(飲みにくさなどのトラブル)も改善し、さらに、忙しい朝の服薬ケアの時間も短縮し介護スタッフの負担軽減となった。

なぜ?

介護施設外の病院からの処方であり、看護師をはじめ介護スタッフとは直接のコミュニケーションがとれておらず、用法変更や剤形変更をすることができるとは思っていなかった(通常は、介護施設へ在宅専門の医師が訪問しており、コミュニケーションがとれている)。また、両スタッフは、疾患から考えて服用数が多いのは仕方ない面もあると考えていた。
薬剤師は、嚥下状態が予想していたより悪くなっていること、看護師や介護スタッフが困っていることに気づかなかった。

ホットした!

当該患者のみならず、ほかの入居者でも嚥下状態は悪くなることが予測されるため、こまめに入居者の観察を行い、看護師・介護スタッフとの情報交換をきめ細かく行い、入居者の困り事などの情報を交換し、入居者に適した処方に変更する手間を惜しまない。

もう一言

介護施設での類似事例を以下に示す。

嚥下困難入居者の処方変更・剤形変更でコンプライアンス向上

<処方1>(変更前)

ランソプラゾールカプセル15mg 1Cap 1日1回 夕食後
ビオフェルミン配合散 3.0g 1日3回 毎食後
酸化マグネシウム 2.0g 1日2回 朝夕食後

<処方2>(変更後)

ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 1日1回 夕食後
ラキソベロン内用液0.75% 50mL 便秘時 1回5滴より開始

介護施設に入居中の70歳台の女性、胃食道逆流症、便秘である。
介護スタッフから薬剤師に対して、最近、モノを飲み込みづらいようで、食事も口にためこんでしまうとの報告があった。薬(カプセル剤と散剤)を服用してもらうのも大変なので、できれば薬を減らすなど対処をしてほしいと相談があった。
薬剤師は医師と相談して、整腸剤(ビオフェルミン)と便秘薬(酸化マグネシウム)をラキソベロン内用液へ変更、さらに、ランソプラゾールカプセルをOD錠に変更することになった。
結果、入居者の服薬コンプライアンスは改善し、介護スタッフの負担も軽減された。

[国試対策問題]

問題:在宅患者訪問薬剤管理指導を行っている患者である。患者の服薬を介助している家族から、錠剤やカプセル剤を飲み込むのが難しくなってきたが、どうしたらよいかとの相談を受けた。回答内容として適切なものはどれか。2つ選べ。

1 お湯で溶かし、冷ましたものを飲ませてください。
2 服薬補助ゼリー(ゼリー状のオブラート)を使うと、喉を通りやすくなりますので、購入して試してみてください。
3 錠剤は砕いて、カプセル剤はカプセルを外して、飲ませてみてください。
4 口の中で溶ける錠剤や散剤があるか確認し、処方変更できるか医師に相談させてください。
5 飲めない場合は、無理して飲ませなくて構いません。

【正答】2、4
1 医薬品によっては、溶けないもの、熱に弱いもの、徐放性製剤など溶かしてはいけないものなどがある。
3 医薬品によっては、徐放性製剤のように砕いたり、カプセルを外してはいけないものがある。
5 医薬品によっては、服薬の中断のリスクが大きいものがある。医師の指示なく、中断を促してはいけない。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2024年7月18日

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