Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例212

患者家族から「先生から言われたことと違う!」とクレーム

ヒヤリした!ハットした!

今回、ゲーベンクリーム<スルファジアジン銀>からプロスタンディン軟膏<アルプロスタジルアルファデクス>への切り替えが行われた患者である。薬剤師は、処方箋記載内容および患者家族からの情報をもとに、使用方法を淡々と説明した。その後、自宅で薬情を見た患者家族から「医師から言われたことと違っている!」と、薬局にクレームの電話がかかってきた。

<処方1>70歳台の男性。A総合病院の形成外科。

プロスタンディン軟膏0.003% 30g 1日1回 塗布
ヘパリン類似物質クリーム0.3% 125g 1日2回 塗布

*併用薬:アズノール軟膏、プレタールOD錠、アムロジンOD錠、グラクティブ錠

<処方2>前回処方。

ゲーベンクリーム1% 50g 1日1回 足の裏の傷に塗布
ヘパリン類似物質クリーム0.3% 125g 1日2回 塗布

<効能効果>

●ゲーベンクリーム1%<スルファジアジン銀>
〈適応菌種〉
本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌、カンジダ属
〈適応症〉
外傷・熱傷および手術創等の二次感染、びらん・潰瘍の二次感染
●プロスタンディン軟膏0.003%<アルプロスタジルアルファデクス>
褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、糖尿病性潰瘍、下腿潰瘍、術後潰瘍)

どうした?どうなった?

患者は、糖尿病、脳血栓、肝臓がんで定期通院中である。薬局には主に患者の娘が来ており、娘に投薬し、服薬指導を行っている。
患者は糖尿病が原因による足壊疽が起きたため、A総合病院へ入院して皮膚移植の手術を行った。手術後、足の裏にゲーベンクリームを塗布しており、なかなか良くならないとのことであったが、退院後も継続処方されていた<処方2>。
今回、ゲーベンクリームからプロスタンディン軟膏へ変更になった<処方1>。娘に今回から薬が変更になったことを確認した。
娘:「足の裏の皮膚ができてきたので、先生がもっと良い薬に代えると言っていた。プロスタンディン軟膏は足の裏に、ビーソフテンクリームは全身に使うように言われている」
<処方1>にはそれぞれの塗布部位の記載はなかったが、娘からの情報をもとに医師の指示どおりで塗布するよう指導した。その後、娘から薬局に電話があった。
娘:「薬の説明書に書いてある内容が、先生の指示と違う!間違っているのではないか!?」
詳細を尋ねると、以下2点の疑問、質問であった。
(1)プロスタンディン軟膏は「足の裏に塗る」と医師から聞いているのに、薬情の効能効果の欄には「床ずれや皮膚潰瘍を治療する」と記載されている。床ずれはあるが、そこに使うとは聞いていない。
(2)プロスタンディン軟膏の薬袋には『1日1回塗布』と印字されているのに、薬情は『1日2回』と記載されている。
薬局で薬情を再印刷して記載内容を確認したところ、確かに娘からの訴えのとおりに記載されていた。
上記2点の疑問、質問に対して次のように返答し、医師からの指示と薬情の記載内容に齟齬があったことを謝罪した。
(1)床ずれや皮膚潰瘍にも使用できる薬だが、今回は医師の指示どおり、投薬時にお伝えしたとおり足の裏の皮膚移植後の傷に塗布するようにする。
(2)1日2回で使用することの多い薬であるが、今回は1日1回が正しいのでそのように塗布する。
その後の来局はないため、経過は不明である。

なぜ?

<処方1>には塗布部位の記載がなく、塗布回数のみの指示であった。娘が医師からの指示をきちんと把握していたため、その情報をもとに「塗布部位は医師の指示どおりに」と説明し、さらに処方箋記載の塗布回数をそのまま薬袋に印字して説明してしまった。薬情の記載内容の確認が不十分であった。
薬情に記載されているプロスタンディン軟膏の効能効果「床ずれや皮膚潰瘍を治療する」という文章を、娘は当該患者にとっては間違った使用目的として捉えた可能性が考えられる。患者は以前、臀部に傷(おそらく褥瘡だが、詳細は不明)があり、アクトシン軟膏<ブクラデシンナトリウム>を使用していた。症状が改善し、現在は中止していたため、薬情の「床ずれや…」という記載を見て、「治癒しているのに、なぜ、継続して別の薬であるプロスタンディン軟膏を床ずれ治療に使うのか!?患者(父親)の治療すべき部位とは違う」という思いが強まったと推察される。
また、薬情の注意事項の欄に、「通常は1日2回使用します」と記載されていた。「1日1回塗布」と医師から指示があった娘にとっては、不安を与える文章となっていた。
薬剤師は、投薬時に娘と塗布部位を確認したにもかかわらず、薬情中の効能効果の内容や塗布回数の修正を行わなかった。

ホットした!

患者や家族が自宅で薬のことを確認するとき、薬情は大きな情報源である。薬情の重要性を再認識する必要がある。また、口頭での説明は、患者や家族が帰宅後に忘れてしまう危険性があり、薬情は極めて重要である。
薬情に記載されている文章は画一的(平均的)であり、薬剤師は個々の患者に即した服薬指導のために処方箋内容や患者からの情報を重要視してしまう可能性があるため、薬情との齟齬がないように患者に手渡す時点でよく確認する。
服薬指導の際に薬情を活用して投薬すれば、処方箋内容や患者からの情報の齟齬を発見できるし、患者の疑問をその場で解決することができる。
薬情の文章の見直しを行う。プロスタンディン軟膏に関しては、患者の混乱を招くため医師に確認した後、「通常は1日2回使用します」の文章を「通常は1日2回使用します今回は1日1回使用してください」に書き換える。

もう一言

薬情の記載が原因した患者に発生したトラブルは少なくない。その中の一事例を示そう。

薬情の記載が患者ごとにカスタマイズされておらずトラブル発生

<処方1>70歳台の女性。病院の内科。

ザイロリック錠100mg 1錠 1日1回 夕食後14日分

*同一処方せん内に、バイアスピリン錠、ヘルベッサーRカプセル、ミカルディス錠、アダラートCR錠、ウルソ錠が処方されている。

ほかの病院からの引き継ぎの処方であり、当薬局では初めて薬剤を交付した。1週間後、医師から、ザイロリック錠<アロプリノール>の薬情の内容に対して、「患者は勘違いして2リットルの水を毎日飲んでいた。この患者は、心疾患があり、そのような行為は心臓への負担となる。足に浮腫がでていた。このような記載は問題がある」とクレームがあった。
ザイロリック錠の薬情に「この薬を飲んでいる間は水分を多めに摂取し、1日の尿量が2リットル以上になるように心掛けてください」(根拠は本剤の医療用添付文書である)との記載があり、患者は、勘違いして1日2リットルもの水を服用していた。
患者は薬情の「水分を多めの摂取」と「尿量が2リットル以上になるように」より、水分の体内バランス(入水=出水)のためには水摂取は2リットルと判断したと思われる。
今後、患者が誤解しないように薬情の記載は「この薬を飲んでいる間は、水分を多めに摂取してください。ただし、心臓の疾患などで水分摂取に制限がある場合には、医師か薬剤師に相談してください」と修正した。

[国試対策問題]

問題:薬剤情報提供文書に関する次の記述のうち、適切でないのはどれか。2つ選べ。

1 薬剤の名称、用法、用量、効能、効果、副作用および相互作用に関する主な情報などの情報が書かれた書類である。
2 薬剤情報提供文書を患者に交付すれば、服薬指導を省略してよい。
3 患者に薬剤の服用に関する基本的な説明を行う際に利用する。
4 服薬管理指導料の算定要件として、患者に交付しなければならない。
5 薬剤ごとに統一された記載内容にしなければならない。

【正答】2、5
2.患者への説明を省略するためのものではなく、患者が説明を忘れた場合に参考にするためや、何かあったときに参照するために患者に交付するものである。
5.今回の事例のように複数の効能効果があったり、ある薬剤の副作用と、患者の疾患の症状が同じであったりする場合があり、患者に不安を抱かせることもあるので、個々の患者に応じた記載内容とすることが望ましい。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2024年6月26日

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