Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例211

プレドニン錠中止時の漸減を忘れる落とし穴

ヒヤリした!ハットした!

スプリセル錠<ダサチニブ>で治療中であったが、副作用の胸水のためスプリセルを一時休薬し、プレドニン錠<プレドニゾロン>を開始した患者である。プレドニン錠20mg/dayが21日分処方され<処方1>、すべて服薬することで胸水は改善したが、次の処方においてプレドニン錠の処方がなかった<処方2>。ステロイド離脱症候群が心配なため、疑義照会したところ、プレドニン錠の漸減のための処方が追加となった<処方3>。
*胸水:スプリセル錠の重大な副作用として体液貯留(胸水(17.3%)、肺水腫(0.6%)、心嚢液貯留(3.0%)、腹水(0.3%)、全身性浮腫(頻度不明)等)が報告されている。

<処方1>70歳台の女性。病院の血液内科。6月20日。

ファモチジンOD錠20mg 1錠 1日1回 朝食後21日分
フロセミド錠20mg 1錠 1日1回 朝食後21日分
スピロノラクトン錠25mg 1錠 1日1回 朝食後21日分
プレドニン錠5mg 4錠 1日1回 朝食後21日分

<処方2>7月11日。(疑義照会前)

ファモチジンOD錠20mg 1錠 1日1回 朝食後21日分
フロセミド錠20mg 1錠 1日1回 朝食後21日分
スピロノラクトン錠25mg 1錠 1日1回 朝食後21日分
スプリセル錠20mg 1錠 1日1回 朝食後21日分

<処方3>7月11日。(疑義照会後)

プレドニン錠5mg 2錠 1日1回 朝食後7日分(7/12~)
プレドニン錠5mg 1錠 1日1回 朝食後7日分(7/19~)
・・・ほかは、<処方2>と同じ・・・

<効能効果>

●プレドニン錠5mg<プレドニゾロン>
下記領域の各疾患
〇内科・小児科領域
〇外科領域
〇整形外科領域
〇産婦人科領域
〇泌尿器科領域
〇皮膚科領域
〇眼科領域
〇耳鼻咽喉科領域

どうした?どうなった?

慢性骨髄性白血病にて3年前ほどからスプリセル錠を服用中の患者である。もともと基準量の100mg/dayで服用を開始したが、2ヵ月服用した後、肝機能障害のため80mg/dayに減量された。
スプリセル錠を80mg/dayに減量して1年半服用していたが、胸水の副作用が発現したため、休薬になった。このときは、利尿薬+プレドニン錠20mg/dayを1週間の飲み切りが処方され、改善が見られた。
その後しばらくの間はスプリセル錠80mg/dayで継続していたが、胸水の副作用が頻発するため、さらに50mg/dayに減量となった。
スプリセル錠を50mg/dayに減量しても胸水がたまりやすくなり、6月20日、プレドニン錠20mg/dayの21日分が処方された<処方1>。
<処方1>をすべて服薬することで胸水は改善し、次(7月11日)の処方においてスプリセル錠が20mg/dayに減量となって処方再開されたが(20mg/dayでの投与に関しては医師確認済み)、プレドニン錠の処方がなかった<処方2>。
疑義照会にて、漸減が必要ではないのかと問い合わせをしたところ、プレドニン錠の処方が追加となり、<処方3>のように変更となった。

なぜ?

一定量以上のステロイドを3週間以上服用した場合、HPA(視床下部-下垂体-副腎系)抑制系が働くため副腎皮質機能低下や副腎の委縮が起こり、急性副腎不全に似たステロイド離脱症候群が生じる可能性があり注意が必要である。しかし、担当医師はプレドニン錠の漸減を忘れてしまった可能性がある。
要因の一つとして、この医師はこれまでR-CHOP療法(リツキシマブ+シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン併用療法)などでプレドニン錠100mg/day5日分(この場合、漸減は必要ない)などの短期間、大量のステロイドを使用する治療を多く行っていたことから、ステロイドの低用量、長期使用後の漸減措置が必要なことがうっかり抜けてしまっていた。

ホットした!

ステロイド(プレドニン錠など)を処方する医師、調剤・服薬指導する薬剤師は以下を理解する必要がある。
・過去の薬歴にて、これまでのプレドニン錠の服用歴(初期用量、使用期間、副作用症状など)をきちんと確認する。
・プレドニン錠を使用中の副作用、その中止後のステロイド離脱症状が起こる可能性を推測し、軽減・回避のための対処を事前に考案しておく。

もう一言

1.ダサチニブによる胸水1)
イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなどのBcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬には胸水貯留をはじめとした体液貯留の副作用が知られているが、特にダサチニブではその頻度が高い。
治療方法としては、まずは、被疑薬の中止である。原因にもよるが、薬剤の中止により自然軽快する症例もある。一般的に、薬剤性肺障害の治療方針と同様であり、アレルギー反応や過敏性反応では副腎皮質ステロイド薬をプレドニゾロン換算として0.5~1.0mg/kg/day投与する。細胞障害性ではステロイドパルス療法を行うこともある。

2.ステロイドの副作用と対策2、3)
大島らによってステロイド内服薬の使い方がまとめられている2)。初期投与量は、疾患並びにその程度により異なるが、プレドニゾロン換算で1日40mg/day以上は大量、20mg~39mg/dayまでが中等量、19mg/day以下は少量と言われている。投与法としては、短期大量、通常漸減、隔日投与移行、他治療併用がある。副作用としては、大量投与時において数時間から高血糖、不整脈、中等量では数日から、中等量以上では1~2ヵ月、少量では3ヵ月以上から種々の症状が発現すると言われている。短期大量では、漸減はなく、24時間モニターが必要となることはなく、自覚症状なども含めて1日3回程度のチェックで対処する。
一方、岩波により、ステロイド治療の心構えがまとめられている3)。ステロイドの副作用には用量の閾値、投与期間の閾値があり、両者の閾値を超えたときに副作用が発現する。副作用がいったん出現すると、用量閾値以下に減量しても副作用が持続する傾向にある。特に注意を払わなければならないのが視床下部-下垂体-副腎系(HPA抑制)であり、抑制されると短期間では中止できなくなる。
HPA抑制の用量閾値はプレドニゾロンで7.5mg/day、期間閾値は3週間が目安とされる。実際には副作用の発現には個体差があり、この閾値では約半数でHPAが抑制されると考えられている。
用量を問わず3週間未満の投与であれば長期間HPAが抑制される可能性は低い。また、高用量のプレドニゾロンでも隔日投与であればHPAが抑制される可能性は低くなる(半減期の長いデキサメタゾンでは隔日投与でも副腎機能は抑制される)。

3.ステロイド離脱症候群4)
ステロイド(副腎皮質ホルモン)過量の状態から急にステロイド不足の状態に陥り、副腎不全症を呈する状態である。症状として、全身倦怠感、血圧低下、微熱、関節痛などを認める。血液データでは、好酸球増多、高K血症、低血糖、高ACTH血症なども見られる。
本症を防止するためには、病態に合わせて適切に漸減し、最終的にステロイド薬を中止する。ステロイド薬の漸減は、自覚症状を目安に行うが、好酸球数の推移など、他覚的所見も参考にする。短時間作用型ステロイドを投与している場合は、早朝内服前採血を行うことで、内因性コルチゾールの回復の程度を評価することが可能である。

【引用文献】
1)厚生労働省、『重篤副作用疾患別対応マニュアル(胸膜炎、胸水貯留)』、平成21年5月(令和4年2月改定).
2)大島久二、田中郁子:『ステロイドの使い方のコツ、内服剤の使い方』、臨床研修プラクティス、5:21-29、2008年.
3)岩波慶一:『アウトカムを改善するステロイド治療戦略<新装改訂版>』、日本医事新報社、2022年.
4)日本内分泌学会ホームページ(2023年10月18日アクセス)
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=35

[国試対策問題]

問題:70歳台の女性。右耳の耳鳴りが酷く、さらに聞こえも悪くなったため、耳鼻咽喉科を受診したところ、突発性難聴と診断され、以下の薬剤が処方された。薬剤師が服薬指導する内容として適切でないのはどれか。2つ選べ。

(処方)
処方1 プレドニン錠5mg 1回4錠(1日8錠)
1日2回朝昼食後2日分
処方2 プレドニン錠5mg 1回3錠(1日6錠)
1日2回朝昼食後2日分
処方3 プレドニン錠5mg 1回2錠(1日4錠)
1日2回朝昼食後2日分
処方4 プレドニン錠5mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回朝昼食後2日分
処方5 アデノシン三リン酸二ナトリウム腸溶性顆粒10% 1回1g(1日3g)
1日3回毎食後8日分
処方6 メコバラミン錠500μg 1回1錠(1日3錠)
1日3回毎食後8日分
処方7 レバミピド錠100mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回毎食後8日分

1 プレドニン錠は、処方1、処方2、処方3、処方4の順番に服用してください。
2 プレドニン錠は副作用が現れることがあるので、いつもと違う症状が現れた場合には、すぐに服用を中止してください。
3 耳鳴りや難聴の症状が改善すれば、服用を中止しても構いません。
4 メコバラミン錠は光に弱い薬なので、光を避けるために赤いシートに入っています。
5 プレドニン錠は胃に負担をかけるので、胃薬のレバミピド錠が処方されています。

【正答】2、3
プレドニン錠などのステロイドでは、高用量での投与から急に中止すると、ステロイド離脱症候群が生じるおそれがあるため、徐々に減量・中止(処方1→処方2→処方3→処方4)する必要がある。患者の判断で急な中止を行うような指導は適切ではない。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2024年6月26日

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