お薬箱の整理を指導したら、動物用医薬品が入っていた
未開封のエイベリス点眼液0.002%<オミデネパグイソプロピル>は冷蔵庫で保管するよう指導した患者から、薬の保管について薬剤師から説明されたのは初めてで、自宅にある家族の分も併せて薬の保管方法を教えてほしいと依頼され、一般的な保管方法を説明した。
後日、患者から薬の整理整頓ができたといって見せられた写真は、家庭救急箱に動物用医薬品や、期限切れのOTC医薬品、小児用と成人用の医薬品が混在して入っている等、薬剤師の視点からは予想外の不適切なもので、驚きとともに自らの指導不足を反省した。
<処方1>30歳台の女性。眼科クリニック。
エイベリス点眼液0.002%(2.5mL) | 2本 1日1回 1回1滴両眼 |
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<効能効果>
●エイベリス点眼液0.002%・ミニ点眼液0.002%<オミデネパグイソプロピル>
緑内障、高眼圧症
患者は当薬局に初めて来局した。会社の健康診断で高眼圧を指摘され眼科を受診し、緑内障と診断され、エイベリス点眼液0.002%が処方された<処方1>。
投薬を担当した薬剤師は、お薬手帳の情報から、エイベリス点眼液0.002%の使用が初めてであることを確認したため、一通りの使用方法等を説明した後に、未開封のエイベリス点眼液0.002%の保管は2~8℃であることから冷蔵庫で保管するよう指導した[文献1)]。
患者は、薬剤師から薬の保管方法について説明されたのは初めてだと述べた。普段、薬は家の中のあちこちに適当に置いており、保管方法を考えたことがなかったとのこと。ついでに、家族(夫、小学生の子ども2人、猫(飼猫のことは薬剤師は後から知った))の分の薬も併せて保管、整理整頓方法を知りたいと希望された。
当薬局は患者一家に調剤薬の交付や医薬品販売を行った記録がなく、家庭の薬の状況が不明のため「一般的には」と前置きした上で、薬剤師が指導した内容は以下である。
・買い置きのOTC医薬品は緊急時すぐに使えるように家族分をまとめて救急箱に入れる。
・OTC医薬品は箱のまま保管し、説明書は捨てない。期限を過ぎた薬は廃棄する。
・処方薬は家族分を一緒にまとめたりせず、薬袋に入れたまま誰の薬か、用法・用量、処方日が分かるようにする。
・残った処方薬は薬袋の日付を見て、原則1年を経過していたら廃棄する(適宜薬剤師に相談)。
・内服薬と外用薬は分ける。
患者は薬剤師の指導を受けて、早速、家庭の薬の整理整頓を行った。後日、整理整頓後の家庭救急箱の写真を見せに薬局に立ち寄ってくれた。
写真には、①動物用医薬品とヒト用医薬品が一緒に入っている、②期限切れのOTC医薬品が入っている、③小児も飲める薬と成人しか飲めない薬が混在しているなど、薬剤師の予想外の状態が写っていて大変驚いたのと同時に、薬剤師は自らの指導が不十分だったことを知った。
薬剤師は、写真を患者と一緒に見ながら、動物用医薬品はヒト用医薬品と別に保管するように、さらに期限切れのOTC医薬品は廃棄するよう、改めて指導した。
患者は、今回初めて薬の保管について知ったと言っていたので、「医薬品の保管」に関して薬剤師と患者の間には理解・解釈に大きさ差があったはずであり、それをふまえて整理整頓・保管方法を指導すべきであった。
薬剤師が、動物用医薬品とヒト用医薬品が救急箱の中で混在していることを指摘したところ、患者は以下のように述べた。
患者:「猫も家族だから、猫用の薬も救急箱に一緒にしておいたほうが良いと思った」
薬剤師はペットを飼ったことがなく、薬=ヒト用としか思いが至らず、家庭の中に動物用医薬品があることを想像できなかった。
期限を過ぎた薬は廃棄するよう指導したにもかかわらず、期限切れのOTC医薬品が入っていると指摘したところ、患者は以下のように述べた。
患者:「病院で処方された薬は薬袋に調剤された日付が入っているのでしょ。OTC医薬品もそれと同じで製造された日なのかと思っていました」
家庭救急箱の整理整頓を指導する際の注意点を考察し、今後の服薬指導を改善する。
具体的には、患者の薬に対する理解の程度を確認し、家族の状況(家族構成(今回、小学生がいることは聞き取れたが、猫のことまで聞き取れなかった)、どのような薬が家庭の中にあるのかなど(定期処方薬を使用している家族はいるか、OTC医薬品は買い置きしてあるかなど)を聞き取った上で、整理整頓・保管方法を指導する。
危険物である農薬、殺虫・防虫剤に加えて、動物用医薬品や、医薬品ではない健康食品(サプリメントなど)はヒト用の医薬品とは別に保管する。
さらに、OTC医薬品に書かれている『使用期限』を『製造年月』と誤判断する場合があることを認識する。
<薬の正しい保管方法>[文献2)]
日本OTC医薬品協会からの情報を以下に示す。詳細は、同協会のホームページを参照されたい。
ポイント1:涼しい場所で
ポイント2:子どもの誤飲に注意
ポイント3:説明書は大切に
ポイント4:年に一度は整理
ポイント5:移しかえない
ポイント6:危険な物とは別に
[引用文献]
1)エイベリス点眼液0.002%、医薬品添付文書、参天製薬、2022年5月改訂(第4版)
2)日本OTC医薬品協会ホームページhttps://www.jsmi.jp/book/keep.html(2023.10.09アクセス)
[国試対策問題]
問題:家庭での医薬品の保管に関して、薬剤師が患者に対して行う説明として適切でないのはどれか。2つ選べ。
1.特に指示がない場合は、湿気、直射日光、高温を避けて保管してください。
2.冷所とは2~8℃のことであり、冷所保存の医薬品は冷蔵庫に保管してください。
3.冷蔵庫に保管する場合は、送風口付近に置くと直接冷気があたり、凍結することがあるため避けてください。
4.緊急時にすぐに使えるように、誰でも手にしやすい場所に保管してください。
5.食品、殺虫剤、防虫剤などのお薬以外のものとは区別して保管してください。
【正解】2、4
2.冷所とは1~15℃である。常温は15~25℃、室温は1~30℃である。
4.家庭に乳幼児や小児がいる場合には、乳幼児や小児の手の届かない場所(高いところなど)に保管する。
本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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