ロゼレム錠8mgはレンドルミン錠0.25mgより強い薬?
患者は、ロゼレム錠<ラメルテオン>を全く服用せず、頓用のレンドルミン錠<ブロチゾラム>を毎日服用していた。その理由は「ロゼレム錠8mgはレンドルミン錠0.25mgより数字が大きいので強い薬と判断した。強い薬を避けたいので前者の服用を止めた」とのことであった。
<処方1>50歳台の男性。病院の内科。
アシノン錠75mg | 2錠 1日2回朝夕食後14日分 |
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ガスモチン錠5mg | 3錠 1日3回毎食後14日分 |
ロゼレム錠8mg | 1錠 1日1回就寝前14日分 |
レンドルミン錠0.25mg | 1回 1錠不眠時14回分 |
<効能効果>
●ロゼレム錠8mg<ラメルテオン>
不眠症における入眠困難の改善
●レンドルミン錠0.25mg・D錠0.25mg<ブロチゾラム>
不眠症、麻酔前投薬
患者は、睡眠薬の「mg数」が薬の効き目の強さを表していると考え、「8mg」と記載してあるロゼレム錠を強い薬だと思い込んでいた。強い薬は避けたいと考え、患者の自己判断で「0.25mg」と記載のあるレンドルミン錠のみを服用していた。
今回受診時に、レンドルミン錠のみを服用していたことを患者から処方医に伝えたところ、医師よりロゼレム錠を服用するよう指示を受けたとのことであった。
薬の名前(成分名)が同じであれば、「mg数」の大きい方が効き目が強いと言えるが、薬の名前(成分名)が違えば単に「mg数」だけで効き目の強弱を判断できないことを再度説明し、患者は納得したようであった。
初めての睡眠薬処方で、2種類の睡眠薬が処方されたにもかかわらず、その違いと使用方法を患者によく伝えていなかった。
睡眠薬をその規格単位(mg数)の大きさで効力を判断してしまう患者が存在することを想定していなかった。
睡眠薬に限らず、規格単位が異なる同効薬が初めて処方された患者に説明する際には、患者がしっかり理解しているか様子をうかがい ながら説明する必要がある。
ステロイドホルモンの軟膏についての類似事例を以下に示しましょう。
ロコイド軟膏がアンテベート軟膏に代わり過量塗布、なぜ?
<処方1>50歳台の女性。湿疹。(前回)
ロコイド軟膏0.1% | 5g 1日2回首に塗布(1回量1cmまで) |
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<処方2>(今回)
アンテベート軟膏0.05% | 5g 1日2回首に塗布(1回量1cmまで) |
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前回までロコイド軟膏<ヒドロコルチゾン酪酸エステル>を処方されていたが、今回からアンテベート軟膏<ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル>に変更になった。ところが患者は、効き目が弱い薬に変更になったと考え、指示された量の2倍をチューブから出して使用していた。
患者は、首の回りの湿疹のため通院している。今回処方が変更されたため確認した。
患者:「先生は、ロコイド軟膏より作用の強いアンテベートという軟膏を処方すると言っていました」
ところが、再来局時の患者インタビューで、上記の事実が判明した。理由を尋ねた。
患者:「アンテベート軟膏のチューブを見たら、『1g中0.5mg』と書いてありました。確かロコイド軟膏は『1g中1mg』でしたから、アンテベート軟膏はロコイド軟膏の半分しか薬が入っていません。だから今までより2倍の量を塗っていました」
幸いなことに、アンテベート軟膏の過量塗布による有害事象は起こっていなかった。患者には、両剤の特性について改めて説明したが、なかなか納得できない様子であった。
ロコイド軟膏は1g中にヒドロコルチゾン酪酸エステル1mg(0.1%)を、アンテベート軟膏は1g中にベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル0.5mg(0.05%)を含有している。患者は、医師が「ロコイド軟膏より強いアンテベートという軟膏を処方する」と言っていたことと、実際の軟膏に記載された有効成分の含量との間に乖離があると考え、2倍量塗布しなければだめだと判断したと考えられる。
ロコイド軟膏の抗炎症作用の強度はmedium(中程度)で、アンテベート軟膏はvery strong(かなり強力)に属するが、このことが患者によく認識されていなかった。薬剤師も、『作用が強い』とは単に有効成分の含量が多いと誤解する患者がいることを想定して、十分な服薬指導をすることを怠った。
ロコイド軟膏の薬効成分は、同じ副腎皮質ホルモン製剤であるが、抗炎症作用(薬効)の強度が異なる別の物質をそれぞれ含有していることを患者に正確に伝える必要がある。さらに、それに対して患者が理解しているかどうかの確認も怠ってはならない。
[国試対策問題]
問題:70歳台の男性。定期的に受診している内科クリニックで、「最近、寝付きが悪くなり、よく眠れない」との訴え、以下が処方されることになった。薬剤師の服薬指導の内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
<処方>
ラメルテオン錠8mg1回1錠(1日1錠)1日1回就寝前14日分
1.食事に関係なく服用できます。
2.眠くなるまで少し時間がかかるので、就寝する1時間くらい前に服用してください。
3.効果が次の日の朝まで残ることがあるので、自動車の運転などは控えてください。
4.夜中に起きる用事があるときには服用しないでください。
5.作用の緩やかな薬ですので、眠れないときは2錠を服用してください。
【正解】3、4
1.食後投与では血中濃度が低下することがあるため、食事と同時または食直後の服用は避ける。
2.就寝の直前に服用させる。
3.影響が翌朝以後におよび、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させない。
4.服用して就寝した後、睡眠途中において一時的に起床して仕事等をする可能性があるときには服用させない。
5.医師の指示どおり、1回1錠を服用する。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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