抗がん薬の服用サイクルと来院・来局スケジュールが異なっていたため混乱
患者のカペシタビンを含む化学療法レジメン(ラパチニブ・カペシタビン併用療法)の服薬サイクル(カペシタビンを2週間服薬・1週間休薬)と来院・来局スケジュール(4週間隔)が異なっていたため、薬剤師、医師ともに服薬期間・休薬期間の把握で混乱してしまった。
<処方1>50歳台の女性(身長:147cm、体重:55kg、Cr値:0.66mg/dL)。病院の乳腺外科。9月25日
ゼローダ錠300mg | 8錠 1日2回朝・夕食後14日分 |
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タイケルブ錠250mg | 5錠 1日1回朝食前14日分 |
食事の1時間以上前に服用する デノタスチュアブル配合錠 |
2錠 1日1回朝食後30日分 |
<処方2>10月9日
ゼローダ錠300mg | 8錠 1日2回朝・夕食後7日分 |
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タイケルブ錠250mg | 5錠 1日1回朝食前14日分 |
食事の1時間以上前に服用する 親水クリーム「ホエイ」 |
30g 1日1∼2回患部に塗布 |
<処方3>10月23日および11月20日
ゼローダ錠300mg | 8錠 1日2回朝・夕食後21日分 |
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タイケルブ錠250mg | 5錠 1日1回朝食前28日 |
食事の1時間以上前に服用する デノタスチュアブル配合錠 |
2錠 1日1回朝食後28日分 |
<効能効果>
●ゼローダ錠300<カペシタビン>
○手術不能または再発乳がん
○結腸・直腸がん
○胃がん
患者は再発乳がん、骨転移の治療のため、9月25日よりラパチニブ(商品名タイケルブ)・カペシタビン(商品名ゼローダ)併用療法を開始した(<処方1>∼<処方2>)。また、院内でデノスマブ皮下注(商品名ランマーク)が4週間隔で投与されていた。
<処方3>の監査時、薬剤師は、患者のレジメンはラパチニブと併用するカペシタビンのC法であると考えた。C法における体表面積(1.47m2)に基づく初回投与量は1回1,500mg(3,000mg/日)であり、腎機能(Ccrは86.57mL/min)は悪くなく減量の必要がないにもかかわらず、2,400mg/日と減量処方になっていることに疑問を持った。何らかの理由で1段階減量して開始した可能性も考えられたが、前薬歴には減量に関する記載がなく、医師からの減量説明の有無は確認できなかった。
また、C法は2週間服薬、1週間休薬であるが、10月23日の<処方3>はカペシタビンが21日分処方されており、さらに、<処方1>∼<処方2>を投薬時の前薬歴にも服用方法に関する特記がなかったため、カペシタビンが3週間連続処方されたのではないかと勘違いしてしまった。
来局していた患者家族に、カペシタビンの服用方法(何週服薬、何週休薬しているのか)と、初回服用開始時に1段階減量して開始する等の説明があったかを確認しようとした。しかし、患者家族は詳細を把握しておらず、病院内に一人で待っている患者が気になるようで、「服用方法も確認してくる」と病院に戻られた。薬剤師は、患者家族が戻ってくるのを待って疑義照会を行うと患者の待ち時間が増えると考え、この時点で疑義照会を行おうと考えた。
ラパチニブ併用療法に関して、カペシタビンの販売元に確認を行った。メーカーからは、ラパチニブ・カペシタビン併用療法は、ラパチニブの添付文書の記載を参照することと、ラパチニブ併用療法は、カペシタビンC法以外は認められていないとの回答を得た。そこで、ラパチニブの添付文書を確認したところ、次の記載があったが、わかりにくかった。
【用法および用量】
通常、成人にはラパチニブとして以下の用量を1日1回、食事の1時間以上前または食後1時間以降に経口投与する。(中略)カペシタビンとの併用:1,250mg(後略)
【臨床成績】<カペシタビン併用療法での成績>
(前略)ラパチニブは1日1回1,250mgを朝食の前後1時間以内を避けて連日経口投与し、カペシタビンは1,000mg/m2を1日2回14日間投与し7日間休薬するレジメンにより投与した。(後略)
この時点で、患者家族から連絡があり、「医師からは、減量の説明は特になかったと思う」と曖昧で、「服用は、2週間服薬、1週間休薬している」とのことであった。ここで薬剤師は、実際の服薬日・休薬日を口頭で確認し、10月23日の処方<処方3>が、10月9日の処方<処方2>の継続分(サイクル2の残り7日分)と、次のサイクル(サイクル3の14日分)であることが判明した。続いて、処方医に減量処方になっている処方意図を確認すべく、疑義照会を行った。
結果、医師からは「サイクル2の途中であることから、今回は用量変更せず処方通りの用量で継続し、次回診察時、用量の増量を検討する」との回答があり、今回はそのまま薬剤交付を行った。
次の来局時(11月20日)、当該患者は前回と同じく再び<処方3>を持参した。カペシタビンが増量されていなかったので、再度疑義照会を行った。医師は「現在の用量でも効果が認められている(乳がんの代表的な腫瘍マーカーであるCA15-3が下がっている)ので、増量せずこのまま2,400mgで継続することにした」との回答が得られた。減量処方になっていた理由として、患者本人に軽度の発育遅延があり、治療強度の高い治療選択は控えたいとの判断であったことが判明した。
さらに、カペシタビンが3週間処方となっていた。次回、12月19日(来院日)には5サイクル目が開始となるが、11月20日時点で12月19日からの1週分を処方するのか疑問になり、疑義照会を行った。結果、前回の10月23日処方をDo処方してしまったとのことで、21日分から14日分に変更となった。12月19日には、カペシタビンは2週間分が処方されることになった。
初回(9月25日)処方受付時、薬剤師によるレジメンの確認や体表面積、腎機能に基づく用量チェックができておらず、さらに、処方作成・チェックと服薬における混乱を回避するために服薬日・休薬日の確認、分かり易い記録も行えていなかった。
薬剤師は、カペシタビンの処方日数を連続して投与する日数と思い込んでしまい、服用スケジュールについて冷静な判断ができず、混乱してしまった。
医師も混乱して、次回の来院時の処方分まで余計に入力してしまった。
上記トラブルの原因は、当該患者は、ランマーク皮下注を投与しているため、4週毎の来院・来局スケジュールとなっており、内服薬の服薬・休薬サイクル(1サイクル3週がセット)と違いが生じているためであると考えられる。
薬歴の患者特記として、下記のコメントがポップアップされるように設定する。
「CAP:C法(2投1休)。ラパチニブ1,250mg併用療法。ランマーク併用中のため来局は4週毎です。→ゼローダ 錠の服薬日・休薬日を薬袋に具体的に記載してあげてください」
さらに、タイケルブ 錠の医薬品情報設定で、下記がポップアップされるように設定する。
「ゼローダ<カペシタビン>との併用:カペシタビンC法(2投1休)です。体表面積、腎機能などにより用量チェックすること! 」
本事例を薬局内ミーティングでスタッフ全員に周知し、用量チェックの重要性を共有した。薬局独自に作成したカペシタビン投薬時チェックシートを毎回必ず使用することを徹底した。
服薬期間・休薬期間がある抗がん薬の処方において、来院日が関係したトラブル事例を以下に示す。
ティーエスワンの休薬期間の記載がない処方箋で薬剤師混乱!
<処方1>60歳台の男性。病院の内科。5月6日
1)ティーエスワン配合カプセルT20 | 4Cap 1日2回朝夕食後35日分 |
---|---|
2)ベリチーム配合顆粒 | 1.5g 1日3回毎食後35日分 |
3)セルベックスカプセル50mg | 3Cap 1日3回毎食後35日分 |
ティーエスワン配合カプセルT20の用法・用量『朝食後および夕食後の1日2回、28日間連日経口投与し、その後14日間休薬。これを1クールとして投与を繰り返す』が遵守されていないことが分かった<処方1>。
患者は直腸がんであり、別の病院から転院してきた新患である。代理人が処方箋を持って来局した。代理人のため、今回の薬の服用方法などについて一切が不明であった。
ティーエスワン配合カプセルT20の35日分の処方は、医師からの特別な指示もないため、投与期間確認のための疑義照会が必要である。
内科医への問い合わせの結果、患者は前の病院のときから1回2Capを1日2回、4週間服用後、2週間休薬という通常の服用方法であった。今回も同様に服用するように指示されていた。しかし、患者の都合(7週間後にしか来院できない)により、今回は2週間休薬した後の1週間分まで処方されていることが分かった。
さらに、ベリチーム配合顆粒、セルベックスカプセルは、ティーエスワン休薬中も胃腸機能調整に必要ということで継続処方が必要であったことから、服用日数を49日分に変更となった。患者には以下のメモを作成して交付した。
(ティーエスワンの服薬スケジュール)
*5月6日∼6月2日服薬(4投)
*6月3日∼6月16日休薬(2休)
*6月17日∼6月23日服薬(1投)
*6月24日来院
[国試対策問題]
問題:70歳台の男性。入院中の患者である。進行結腸がんに対して、カペシタビン/オキサリプラチン/ベバシズマブ療法を開始し、その後は退院して外来化学療法で治療を継続することになった。薬剤師が患者に対して行う説明として適切でないのはどれか。2つ選べ。
1.治療効果を高めるために、カペシタビンは1日も休まずに服用を続けてください。
2.手のひらや足の裏に、ピリピリ感、チクチク感、赤く腫れるなどの症状が出ることがあります。
3.手足や口の周りに、しびれや痛みなどの症状が出ることがあります。
4.血圧が高くなることがあるので、自宅で血圧を測るようにしてください。
5.副作用の症状が現れても、できるだけ我慢して治療を続けましょう。
【正解】1、5
1.カペシタビンは服薬期間と休薬期間を繰り返します。
2.カペシタビンにより手足症候群が発現することがあります。
3.オキサリプラチンにより末梢神経障害が発現することがあります。
4.ベバシズマブにより高血圧が発現することがあります。
5.治療方針の変更や、支持療法が追加されることもあるので、我慢せずに医師や薬剤師に相談するように指導します。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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