前回のプレドニン錠45mg/日が処方中止となっていた
患者は間質性肺炎ため呼吸器科にかかり、前回までプレドニン錠<プレドニゾロン>が45mg/日で継続処方されていた。今回、プレドニン錠の処方がなく、急な中止は離脱症状を招く可能性があったため、病院に疑義照会したところ、プレドニン錠の処方箋も交付していることを確認した。最終的には、病院の会計係で、5枚ある処方箋の内、2枚(その1枚がプレドニン錠の処方箋)を患者に渡し忘れていたことが判明した。
<処方1>70歳台の男性。総合病院の呼吸器科。前回。
プレドニン錠5mg9錠 | 1日2回朝昼食後(朝:5錠、昼:4錠) 21日分 |
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ほか |
<効能効果>
●プレドニン錠5mg<プレドニゾロン>
下記領域の多くの効能効果(医療用添付文書を参照)
〇内科・小児科領域 〇外科領域
〇整形外科領域 〇産婦人科領域
〇泌尿器科領域 〇皮膚科領域
〇眼科領域 〇耳鼻咽喉科領域
患者は、間質性肺炎の治療のため、1年前からプレドニン錠5mg(10錠、50mg/日)を開始し、漸減して前回は<処方1>(9錠、45mg/日)で継続服用していた。ところが、今回、プレドニン錠が処方されておらず、急な服薬の中止は離脱症状を招く可能性があり危険と思われたため、患者に確認したところ、今回、プレドニン錠は9錠から8錠に減量すると医師からは説明を受けていた。
呼吸器科に電話で疑義照会を行い、病院事務職員(以下、事務員)に以下のように伝えた。
薬剤師:「今回、プレドニン錠の処方が出ていないのですが、患者は今回8錠に減量すると医師からは説明を受けているようです。急な中止はしない薬なので、確認してください」
事務員:「プレドニン錠の処方箋も渡しています。処方箋は全部で5枚渡しており、3枚がホチキス留めされており、ほかに2枚も一緒に渡しているはずです」
しかし、薬局が患者から受け取った処方箋は、ホチキス留めされた処方箋3枚のみであった。
患者が残りの2枚を持っていないか確認したが、病院の会計窓口で処方箋を受け取り、そのまま目の前の当薬局に出しており、ほかの処方箋は患者が持っていなかった。当該病院では、診察終了後、診察室の前で、患者が外来事務員より、「処方箋、次回予約票、会計票」が入ったファイルを受け取り、患者はそのファイルごと会計窓口にいったん提出し、会計後に処方箋と次回予約票を会計担当者から再度受け取るシステムである。また、1つの診療科で処方箋が複数枚あるときには、ホチキス留めされていた。
そこで、病院の会計窓口に連絡をして、患者の処方箋が残っていないかを確認したところ、会計票と一緒に処方箋が2枚残っていた。薬剤師は、処方箋を病院に取りに行き、直ちに調剤し、正しく薬剤が交付された。
今回、呼吸器科で処方箋が5枚交付されたが、ホチキス留めされた3枚の処方箋の通し番号は1/3∼3/3で、3枚目の最後には「以下余白」と記載されており、残りの2枚は、それぞれ通し番号が1/1、1/1となっていた。そのため、薬剤師も処方箋の交付漏れを疑うことなく、また病院の会計担当者も単科だけの受診であるし、ホチキス留めされた3枚の処方箋のみを誤って交付してしまったと思われる。
また、通常は、処方箋が複数枚あっても通し番号通りで発行されるものの、なぜか今回は、後から別に2枚の処方箋を別々に追加発行していた。
今回は、プレドニン錠の高用量の急な中止は想定できないことから処方漏れを疑うことができ、さらに患者の認識もしっかりしていたため、正しく薬剤を交付できた。しかし、前回処方と特に違和感がなければ、そのまま調剤され交付されたと思われる(しかし、後に、病院事務において残った処方箋は発見されるであろう)。
当然のことだが、前回以前の処方との比較は的確に行い、疑問点があれば必ず解決してから、薬剤を交付する。
交付された処方箋の最後に「以下余白」と記載されていても、同日にあとで処方が追加されて新たにもう1セット以上の処方箋(「以下余白」と記載)が発行されることがある。
病院の外来診療においても、今回のように複数枚の処方箋が発行される場合には、全て一緒にホチキス(あるいはクリップ)留めしてもらうように依頼する。
同一患者に複数枚数の処方箋がある場合にトラブルが起こった類似事例を以下に示そう。
XELOX療法なのにカペシタビン錠の処方がない?
事例:60歳代の男性。病院の消化器外科。
<処方1>4月1日 1/2
・・・アプレピタントカプセル、デカドロン錠・・・ |
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(次ページへ続く) |
<処方2>4月1日 1/1
・・・ビーソフテンローション、白色ワセリン、ザーネ軟膏、マイザー軟膏・・・ |
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(以下余白) |
<処方3>4月1日 2/2
カペシタビン錠300mg10錠 | 1日2回朝夕食後 30日分 |
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(以下余白) |
本病院では、新規で抗がん剤療法を行う患者のお薬手帳にそのレジメンを貼付することになっている。患者が提出した処方箋は2枚であった<処方1、2>。この2枚で調剤・鑑査を行った。しかし、お薬手帳を確認したところ、XELOX療法(カペシタビン+オキサリプラチン)のレジメンが貼付されていたが、提出された2枚の処方箋にはカペシタビン錠の記載がなかった。
患者に確認をしたところ、点滴日の夕食後から内服薬を朝夕5錠ずつ服用するように説明を受けたとのことだった。
しかし、肝心のカペシタビン錠の処方がなかったため、病院に問い合わせた。最中に、患者は「処方箋を1枚出し忘れていました」と処方箋を出してきた。その3枚目の処方箋に「カペシタビン錠」の記載があった<処方3>。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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- 家族への服用中止の指示は、電話連絡だけでは不十分
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- 事例199
- 酸化マグネシウム原末が義歯にはさまって効果減弱
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- 事例197
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- 医師の一言『効果の高い薬』で不安になった患者
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- 事例194
- 認知症患者の服薬状況の把握不足
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- アロプリノール錠の服薬状況の認識不足
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- 事例104
- 腎機能低下者に通常用量でシタグリプチンが処方
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- 事例102
- 患児の外見と記載の体重に違和感を覚え疑義照会
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- 事例101
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- 事例98
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- 漢方薬初回処方患者への副作用の説明不足
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- 事例96
- 視覚障害者に最適なうがい液へ疑義照会
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- 1回量と1日量を読み違えて誤調剤
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