エフピーOD錠とアジレクト錠の併用?
エフピーOD錠<セレギリン塩酸塩>2.5mg服用中の患者に、処方期間内でアジレクト錠<ラサギリンメシル酸塩 >0.5mgが新規に追加された。両剤は併用禁忌であるために疑義照会したが、実は切り替えであった。しかし、両薬剤の切り替え時には2週間の休薬が必要であるが、医師には認識がなかったため、今回は両剤とも服薬 中止となった。
<処方1>60歳台の男性。A病院の神経内科。7月1日。
コムタン錠100mg | 1錠1日1回朝食後 14日分 |
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エフピーOD錠2.5 | 2錠1日2回10時と昼食前 14日分 |
ニュープロパッチ9mg | 14枚1日1枚貼付 |
ドパコール配合錠L100 | 5.5錠1日6回用法口授 14日分 (2回目のみ0.5錠、1回目、3-6回目:各1錠) |
ドパコール配合錠L100 | 0.5錠1日1回21時 14日分 |
レキップCR錠2mg | 1錠1日1回夕食後 14日分 |
<処方2>7月11日。手書き。
アジレクト錠1mg | 1錠1日1回朝食後 14日分 |
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<効能効果>
●アジレクト錠1mg、0.5mg<ラサギリンメシル酸塩>
パーキンソン病
●エフピーOD錠2.5<セレギリン塩酸塩>
パーキンソン病(レボドパ含有製剤を併用する場合:Yahr重症度ステージⅠ∼Ⅳ、レボドパ含有製剤を併用しない場合:Yahr重症度ステージⅠ∼Ⅲ)
患者は、これまでA病院の神経内科から<処方1>が処方されていた。しかし、7月11日にアジレクト錠 が手書き処方箋にて追加された<処方2>。
当薬局では、アジレクト錠はこれまで調剤経験がなく、添付文書の確認などもあり、処方入力等にも手間取った。また、薬局内に在庫がなく、医薬品卸に連絡し、薬剤は当日中に手配できることを確認したものの、薬剤の調達には時間がかかるため、患者には後から再来局していただくことになった。
薬剤師が、再度確認した添付文書によると、アジレクト錠は、ほかのMAO阻害剤が「併用禁忌」であり、さらに薬剤を切り替える際には、少なくとも14日間の間隔を置くことと規定されていることに気づいた。
そこで、医師へ疑義照会を行ったところ、併用ではなくエフピーOD錠からアジレクト錠への変更であることが分かった。しかし医師は、切り替えであっても間隔を空けることに対して認識がなかった。結果、両薬剤とも処方削除となり、処方削除の経緯については、医師から患者へ今後の治療方針も含めて直接(携帯電話で)説明していただけることとなった。
夕方、患者が来局したので、医師から連絡があったかどうか確認したところ、連絡はないとのことであった。そのため、薬剤師は処方削除になった経緯の説明を行った。患者は、医師から「これまでのお薬とは働きが異なる新しいお薬である」との説明を受けており、薬剤師からの処方削除の説明は医師から受けた説明と異なると訴え、不安そうであった。
薬剤師は、疑義照会の際も、医師から患者へ直接説明するとのことであったので、再度医師に連絡をとり、直接説明をしてもらう様に再度依頼した。その後、患者に医師から処方削除となった経緯の説明があり、患者は納得した様子であった。
薬剤師は、後日、患者宅に電話連絡し、エフピーOD錠を休薬後も体調に変化がないことを確認した。
医師が、エフピーOD錠とアジレクト錠は併用禁忌であることは認識していたが、切り替えの際の注意事項等の医薬品情報を見落としていたと思われる。
薬剤師も最初に処方箋を見たときは、これまで調剤したことがなく在庫がないアジレクト錠に関する医薬品情報が欠如しており、薬剤の手配にばかり目が向いてしまい、薬剤の情報確認に時間がかかってしまった。
さらに、エフピーOD錠の併用禁忌欄には「非選択的モノアミン酸化酵素阻害剤(サフラジン塩酸塩):高度の起立性低血圧の発現が報告されている。機序・危険因子の詳細は不明であるが、相加作用によると考えられる」とのみ記載されており、アジレクト錠(非可逆的かつ選択的なMAO-B阻害作用)に言及していないことも一因である。
これまで在庫しておらず処方箋を受け付けたことのない薬剤については、必要と思われる情報を早期から収集するよう心がける。特にこれまでエフピーOD錠の処方箋を応需していたことから、パーキンソン病治療薬の新薬を含めほかの薬剤についても情報(少なくとも医療用添付文書、インタビューフォームなど)を整理し、理解しておく必要がある。
アジレクト錠は非可逆的かつ選択的なMAO-B阻害作用を示し、線条体における細胞外ドパミン濃度を増加させる。ドパミン濃度の上昇により、ドパミン作動性運動機能障害を改善する。
ほかのMAO阻害薬(エフピーOD錠、エクフィナ錠<サフィナミドメシル酸塩>)との併用により、アジレクト錠のMAO-B選択性が低下する可能性が考えられ、MAO-A阻害作用により脳内のモノアミン濃度が上昇し、高血圧クリーゼ、セロトニン症候群等の重篤な副作用が発現するおそれがある。また、アジレクト錠の投与を中止してからほかのMAO阻害薬の投与を開始するまでに、少なくとも14日間の間隔を置くこと。また、ほかのMAO阻害薬の投与を中止してからアジレクト錠の投与を開始するまでに、少なくとも14日間の間隔を置く必要がある。両剤の相加作用によると考えられている。
アジレクト錠の医薬品添付文書、インタビューフォームより
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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