包数の多い散剤処方に介入して服薬の煩わしさの改善
処方箋の記載通りに調剤を行うと、朝食後4包、夕食後6包の散剤を服用することになる。患者は1歳の幼児であるため、服薬しやすさや服薬管理の利便性を考慮し、可能な限り服用時点ごとに混合して調剤することにした。
<処方1>1歳の女児。A病院の小児科。10月10日。
フロセミド細粒4% | 12mg 1日2回朝・夕食後 30日分 |
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アルダクトンA細粒10% | 12mg 1日2回朝・夕食後 30日分 混合してください。 |
アーチスト錠2.5mg | 1.8mg 1日2回朝・夕食後 30日分 粉砕してください。 |
ワーファリン顆粒0.2% | 0.3mg 1日1回夕食後 30日分 |
アスピリン | 1.5mg 1日1回朝食後 30日分 |
オプスミット錠10mg | 1.5mg 1日1回夕食後 30日分 粉砕してください。 |
ファモチジン散2% | 4mg 1日2回朝・夕食後 30日分 |
カンデサルタン錠4mg | 0.8mg 1日1回夕食後 30日分 粉砕してください。 |
<効能効果>
●フロセミド細粒4%「EMEC」<フロセミド>
○高血圧症(本態性、腎性等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、末梢血管障害による浮腫、尿路結石排出促進
●アルダクトンA細粒10%<スピロノラクトン>
○高血圧症(本態性、腎性等)
○心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、特発性浮腫、悪性腫瘍に伴う浮腫および腹水、栄養失調性浮腫
○原発性アルドステロン症の診断および症状の改善
●アーチスト錠2.5mg<カルベジロール>
○次の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者
虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全
○頻脈性心房細動
●ワーファリン顆粒0.2%<ワルファリンカリウム>
○血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の治療および予防
●アスピリン<アスピリン>
○慢性関節リウマチ、リウマチ熱、変形性関節症、強直性脊椎炎、関節周囲炎、結合織炎、術後疼痛、歯痛、症候性神経痛、関節痛、腰痛症、筋肉痛、捻挫痛、打撲痛、痛風による痛み、頭痛、月経痛
○下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
○川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)
●オプスミット錠10mg<マシテンタン>
○肺動脈性肺高血圧症
●ファモチジン散2%<ファモチジン>
○胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による)、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群
○下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善
急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期
●カンデサルタン錠4mg<カンデサルタンシレキセチル>
○高血圧症
○腎実質性高血圧症
○下記の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与が適切でない場合
慢性心不全(軽症~中等症)
患者は小児肺高血圧症であり、これまで<処方1>と同様の処方が院内にて交付されていた。院内薬局での待ち時間がとても長く、子どもと一緒に長時間待つことが困難なため、今回から院外(当薬局)処方に切り替えてもらったとのことである。
お薬手帳で、前回の処方内容や調剤方法を確認した。院内薬局では、処方箋の記載通りにRpごとに分けて調剤が行われ、1包が少量のため、各包に乳糖による賦形が行われていた。
薬剤師は、処方箋の記載通り調剤を行うと、1回に服用する散剤の包数が多くなってしまい、1歳の幼児に毎回多くの包数を服用させることは、患者、家族共に労力を要し、服用ミスの原因になるだろうと考え、服用時点ごとに混合して調剤してはどうかと考えた。
上記処方薬間での配合変化について確認したところ、唯一アルダクトンA細粒10%とフロセミド細粒4%との配合変化試験(それぞれ1.0gと2.0gを混和し、25℃、75%RHで保存し、直後~30日後の変化を観察)において、外観に変化が認められなかったというデータは存在したが、その他の薬剤間の配合変化のデータは存在しなかった(メーカー確認済み)。
そこで、患者の両親に服用時点ごとに混合して調剤することも可能である事を伝え、以下の提案を行った。
薬剤師:「処方医の意向もありますが、ご希望であれば、今回から調剤方法を変更して良いか処方医に確認しましょうか?」
両親:「子どもが薬を服用するのを嫌がることはないので助かっているが、確かに沢山の包を服用させるのは大変だった。包数が少なくなることは、とても助かる。よろしくお願いします」
両親の回答を受けて、薬剤師は調剤方法の変更の可否について、医師に疑義照会を行うことにした。
ワーファリン顆粒、アスピリンは、顆粒であることと配合変化の可能性を考慮して別包とすることにし、その他の薬剤は服用時点ごとで混合して調剤して良いか疑義照会を行い、医師の承諾を得た。
調剤方法を工夫したことで、朝食後2包、夕食後2包の薬剤を服用するだけで良くなり、服薬の煩わしさの改善および服薬ミスの軽減に貢献できた。
院内薬局での調剤が見直されなかった理由として、子どもが嫌がることなく服用していたため要望が出されなかったこと、両親の服薬介助が大変であったことについての申告がなかったため考慮されていなかったことなどが推察される。
一方で、院外薬局では、上記のことを両親から聞き出した。さらに、包数が少なくなることはとても助かるとの両親の考えを把握した。
日頃から患者背景をよく聴取し、患者の日常生活で問題が起こっていないかを考慮し、必要に応じて新たな提案ができるように備える。問題が起こりそうな患者については、スタッフ間で情報交換し、常に薬局内で問題点を共有する。
小児の場合、育児の経験があった方が、状況の把握・判断や、解決策の提案力が高いと考えられるので、スタッフに育児経験者がいれば、相談する。
在宅や認知症患者への服薬支援の場合には、介護経験者など、状況に応じて適切と考えられるスタッフに相談する。
これまでの調剤方法や内規にとらわれず、患者に寄り添った服薬を助ける工夫が提案できる行動が必要である。
配合変化に関しての試験は、唯一アルダクトンA細粒10%とフロセミド細粒4%の組み合わせにおいて行われていた(外観変化がなかったとの報告)。その他の薬剤間の配合変化のデータは存在しなかったからといって、問題が発生しないという証拠はないことから、今後、配合変化の試験は行う必要があるだろう(少なくとも薬局では、色調や形状変化を確認する必要がある)。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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