酸化マグネシウム原末が義歯にはさまって効果減弱
介護施設の入居患者で、酸化マグネシウム原末2g/日を服用中でも便秘が解消せず、プルゼニド錠12mgをほぼ毎日頓服服用しなければ排便がなかった。薬剤師は、看護師を経由した介護スタッフからの情報(当薬が義歯に残存、口から流出)により、酸化マグネシウムの効果が不十分であると判断した。そして酸化マグネシウム錠への変更を医師に提案した。その後、患者の状態をみて、マグミット錠を減量することによって、排便は適正な状態になった。
<処方1>80歳台の女性。内科クリニック。
酸化マグネシウム原末「マルイシ」 | 2g1日2回 朝夕食後14日分 |
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プルゼニド錠12mg | 1回2錠頓用 便秘時7回分 |
<処方2>
マグミット錠500mg | 4錠1日2回 朝夕食後14日分 |
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<処方3>
マグミット錠500mg | 2錠1日2回 朝夕食後14日分 |
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<処方4>
マグミット錠330mg | 1錠1日1回 朝食後14日分 |
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マグミット錠500mg | 1錠1日1回 朝食後14日分 |
<効能効果>
●酸化マグネシウム原末「マルイシ」<酸化マグネシウム>
○下記疾患における制酸作用と症状の改善
胃・十二指腸潰瘍、胃炎(急・慢性胃炎、薬剤性胃炎を含む)、上部消化管機能異常(神経性食思不振、いわゆる胃下垂症、胃酸過多症を含む)
○便秘症
○尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防
患者は介護施設に入居中である。便秘のため酸化マグネシウム原末2g/日を定期服用中であった(処方1、プルゼニド錠は頓用)。水分摂取量には問題はなかったが、自然排便がなく、数ヶ月にわたり看護師の判断によりほぼ毎日プルゼニド錠12mgを使用しなければ排便がなかった(本剤による排便コントロールは看護師に一任されていた。)。
最近、看護師経由で介護スタッフから薬剤師に相談があった。
看護師:「最近、介護スタッフから聞いた話なのですが、入れ歯を洗うときに、何か白い粉がついていることが多い(量は不明)、口から白い粉が流れ出していることもある。服用薬の中では、酸化マグネシウム原末が白い粉だが、どうしたらいいのか?」
薬剤師は、おそらく酸化マグネシウム原末が飲みにくく、入れ歯に挟まったり、流れ出していたりしていると考え、看護師と相談の上、成分量として等価のマグミット錠2g(500mg錠を4錠、服用時点未変更)を医師に提案し、変更となった(処方2)。
しかし、マグミット錠2gの服用を開始してから下痢が見られた。このことは薬剤師から医師に報告され、マグミット錠1g(500mg錠を2錠)への減量に変更された(処方3)。
その後、介護スタッフから、まだ軟便気味で、かつ早朝に便意があり患者本人が気にしているとの情報を得たため、薬剤師は医師に用量(1gから0.83gへ)・服用時点(朝夕から朝へ)の変更を提案し、更に減量となった(処方4)。
1週間後、順調に排便していることが確認できたため、医師にフィードバックして定期処方となった。
酸化マグネシウム原末が用量通りに服用できていなかった。原因は、口腔内に残存したり、口から漏れ出ていたりすることが考えられた。従って、同量を錠剤に変えて服用したところ、十分量が嚥下され、便秘解消から下痢に至った可能性がある。
その後、1g/日への減量では未だ軟便気味、早朝排便となっていたが、0.83g/日を朝服用のみに変更したことによって改善した。以上のことから、本患者においては0.83g/日、朝のみの服用が最適な使用法と考えられる。
看護師から薬剤師への相談内容は、白い粉(酸化マグネシウム末)の入れ歯への残存、口からの白い物体の流れ出しに関する困り事のみであり、便秘の持続との関連については殆ど看護師の念頭になかった。従って、薬剤師への報告が遅れてしまい、排便のコントロールが遅れてしまったと考えられる。便秘持続の原因がわかっていれば、看護師の判断によるプルゼニド錠の使用は短期間にとどめることができたであろう。
高齢者では、粉薬が義歯、歯茎に残存したり、嚥下出来ず口から溢れでることがあり、薬剤の治療効果に影響する可能性があることを認識する必要がある。
実際に服薬介助を担当している介護スタッフからの情報(今回のような酸化マグネシウム末の嚥下の問題など)を看護師だけでなく、薬剤師も能動的にリアルタイムに収集・把握する必要がある。
以下の様な事例も報告されている。
義歯に薬が残存していた脳血管障害患者
脳血管障害後、右側に麻痺が残った70歳台の男性。自歯は一本もなく、食事、服薬時は総義歯を装着している。食後の義歯の状態を観察したところ、食事の一部だけでなく、明らかに粉薬などが付着していることがわかった。
患者は、日中でもベッド上で座位を保った生活が主体で、介助により車椅子に移乗する状態であり、食事や服薬には介護が必要である。初診時には、歯科医師が、食物残渣が総義歯(入れ歯)の麻痺側である右側および義歯の不適合部分(内面)に滞留していることを発見していた。
医療・介護の現場では、口腔内に2~3食分、ひどい場合では2~3日分の食物残渣が存在し、その中から錠剤や顆粒剤などの粉薬がみつかるケースが結構認められる。当然そのような部位の口腔粘膜には潰瘍が形成されていることが多い。本ケースのように脳血管障害により麻痺が残っている患者では、麻痺側に食物残渣が留まりやすく、通常食事・服薬介護には健側から摂食・嚥下させるのがよいとされている。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供して頂いた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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