薬名類似による誤処方を発見し疑義照会
若い女性患者に強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏が処方されていたが、患者インタビューでは治療目的が湿疹などであるかどうか不明瞭であった。薬剤師は、薬名が類似している強力ポステリザン(軟膏)の処方間違いではないかと推測した。患者は自分が痔あることを告げにくかったようである。医師は、薬名の頭の部分の『強力…』が同じであることから、処方オーダー時に選択間違いをしてしまった。
<処方1>20歳台の女性。内科クリニック。
強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏10g/本 | 10本 1日2回 |
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<処方2>
強力ポステリザン(軟膏)2g/本 | 10本 1日2回 1回1本 |
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<効能効果>
●強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏<ヒドロコルチゾン酢酸エステル・フラジオマイシン・ジフェンヒドラミン>
〈適応菌種〉
フラジオマイシン感性菌
〈適応症〉
○深在性皮膚感染症、慢性膿皮症
○湿潤、びらん、結痂を伴うか、または二次感染を併発している次の疾患:
湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、ビダール苔癬、放射線皮膚炎、
日光皮膚炎を含む)、皮膚そう痒症、痒疹群(ストロフルスを含む)、
掌蹠膿疱症
●強力ポステリザン(軟膏)<大腸菌死菌・ヒドロコルチゾン>
痔核・裂肛の症状(出血、疼痛、腫脹、痒感)の緩解、肛門部手術創、
肛門周囲の湿疹・皮膚炎、軽度な直腸炎の症状の緩解
当薬局に初めて来局した患者であり、薬剤交付時に男性薬剤師が患者に対してインタビューを行った。
薬剤師:「今日はどの様なことでおかかりですか?」
患者:「お尻の調子が悪くて…」
薬剤師:「湿疹などですか?」
患者:「…ええ…」
薬剤師は、はっきりしない患者に対して、もしかしたら痔で、話しにくいのではないかと考えた。痔の場合、医師が強力ポステリザン(軟膏)のところ強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏を誤処方したのではないかと推測した。
薬剤師:「お薬の確認をしますので少々お待ちください」
薬剤師は調剤室に戻り、別の薬剤師(女性)に患者とのやり取りを伝え、痔であることが確認できないので、代わりに聴取してほしいと依頼した。女性薬剤師があらためて対応した。
薬剤師:「今回は、湿疹のお薬が処方されておりますが、どの様な症状でしょうか?」
患者:「先程の薬剤師さんには言いにくかったのですが、実は痔のために病院にかかったのです」
薬剤師:「そうでしたか。薬が病状に合っていないので、医師に問い合わせしますね。少々お待ちください」
疑義照会を行った結果、強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏ではなく強力ポステリザン(軟膏)の誤りであることが分かった。薬剤師は患者に処方の間違いがあったことを伝えた。
薬剤師:「今回の薬は、名前の頭の部分は強力と同じなのですが、強力ポステリザン(軟膏)の誤りでした。正しい薬に作り直しました」
患者:「ありがとうございました」
患者は若い女性であり、自分の疾患である痔について、特に男性薬剤師とは詳しい話をしたくないと考え、質問に対してあやふやな答えとなってしまった。また、ほかの患者に聞かれる可能性があることからも躊躇した。
もし、患者が薬剤師の質問に対して適当に(不正確に)答えて、特に薬剤師が疑問を持たなければ、間違った薬剤が交付されてしまった可能性がある。
医師は内科医であり、痔の治療や処方には慣れていなかった。強力ポステリザン(軟膏)ではなく、強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏を処方してしまった理由は、痔の治療薬として薬名の頭の部分が『強力…』であるイメージを持っており、そのあとのカタカナ部分の確認を行うことなく選択してしまった可能性がある。】
特定の患者に対するインタビューや服薬指導において、相手が不快に感じる内容になると考えられる場合には、十分に配慮する必要がある。また、周りのほかの患者には聞き取れない声で情報交換する。
薬剤師は、患者インタビューから疾患名について曖昧な情報しか得られない場合には、確実な情報が得られるまでは交付しない(医師の処方間違いを発見できない可能性がある)。
また、医師が専門外の薬剤を処方した場合には、処方間違いが発生する可能性があるので、十分に注意する必要がある。特に薬名が類似した医薬品のリストを作成して、該当した医薬品をチェックするとともに、患者の疾患名と効能効果の乖離があれば必ず疑義照会を行う。
医薬品名に『強力』が付く内服薬はなく、外用剤では本事例で取り扱った2剤のみである。その他、グリチルリチン・グリシン・システイン配合剤の下記の注射剤が販売されている。
・強力ネオミノファーゲンシー静注20ml/同静注5ml
・強力ネオミノファーゲンシー静注シリンジ20ml/同静注シリンジ40ml
・強力ネオミノファーゲンシーP静注20ml
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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