Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例196

医師の一言『効果の高い薬』で不安になった患者

ヒヤリした!ハットした!

めまいを伴う突発性難聴のため耳鼻科を受診した患者にプレドニゾロン錠が処方された。医師から『強い薬』を出すと言われて、患者は副作用の発現にかなり不安を抱いた。しかし、薬剤師の懇切丁寧な服薬指導で不安を軽減することができた。その後の当該医師への聴取で、実は『効果の高い薬』と説明していたとのことが判明した。患者は『効果の高い薬』を『強い薬』と誤解したと思われる。

<処方1>70歳台の男性。病院の耳鼻科。

プレドニゾロン錠「タケダ」5mg 8錠1日2回 朝昼食後4日分【第1から4日目】
プレドニゾロン錠「タケダ」5mg 6錠1日2回 朝昼食後4日分【第5から8日目】
プレドニゾロン錠「タケダ」5mg 4錠1日1回 朝食後2日分【第9から10日目】
*このほかに、【般】テプレノンカプセル、【般】ATP腸溶錠、メチコバール錠、【般】カリジノゲナーゼ錠が10日分で処方されている。

*めまいを伴う突発性難聴の治療を受けている。

*ほかの内科から血圧の薬(名称不明)、パナルジン、ビオフェルミンなどが処方されている。

<効能効果>

●プレドニゾロン錠「タケダ」5mg・散「タケダ」1%
急性感音性難聴をはじめ多数の効能効果がある(医療用添付文書参照)

どうした?どうなった?

患者は服薬指導に入る前から不安を口にしていた。

患者:「プレドニゾロンとかいう、強い薬が出ているんだよね?医師はそんなこと言ってたよ。大丈夫なのかな?ほかにも薬を飲んでいるし…。」

耳鼻科からプレドニゾロン錠が処方され、ステロイド薬であることに不安を抱いていた。さらに内科にて複数の薬を服用しているため、薬が増えること自体、また飲み合わせの問題があるのではないかと不安になっているようであった。

薬剤師:「プレドニゾロンとほかの薬との間では飲み合わせの問題はないですよ。
めまいの症状の改善には、プレドニゾロンによる早期の治療が必要です。医師が述べた様に確かに強い薬のため副作用(顔の浮腫など)が起こる患者はいます。長期服用の場合には副作用に気をつける必要があります。
しかし、患者さんの場合、短期間の服用でありますし、治療が終わって服用を止めるのも少しずつ減らしていきますので、特に問題ないと思います。重要なことは処方通りに錠数、服用期間を守ること、薬を飲み始めて何か不安を感じたら気軽に薬剤師に電話するようにしてくださいね」

患者:「安心しました。その様にします」

なぜ?

患者は医師の言葉に必要以上に不安感を募らせてしまったと考えられる。今回のことを医師へトレーシングレポートで連絡した。その後、昼時に病院前で偶然に医師に会った。

医師:「この間はレポートありがとう。患者さんには、『強い薬』という言い方はしていません。『効果の高い薬』と言いましたよ。患者さんは心配性なので、驚かさないように配慮しました」

薬剤師:「そうですか。おそらく患者さんは『効果の高い薬』が脳内で『強い薬』に変換されて心配になったのでしょうね」

患者は、薬の事なども含めた診断・治療に関して、医師も薬剤師も認識しているように、とても心配性であった。

ホットした!

既往歴があり複数の併用薬がある患者の場合、併用に問題があるかどうか正確に判断し、患者に説明する。さらに初めて服用する薬(本事例ではプレドニゾロン錠)に関しては、患者の性格などに配慮して服薬指導した後、『何か不安なことはないですか?』と確認する。
このような服薬に不安感を持つ患者に対しては、患者の同意を得て薬剤師から患者宅に電話すること(電話フォローアップ)も必要と考えられる。

もう一言

突発性難聴の薬物治療として以下が提案されている。
副腎皮質ステロイド薬として1)、入院の場合は点滴にて2)を用いる。めまいを合併し悪心・嘔吐を伴う場合には3)または4)を併用する。
1)プレドニゾロン錠5mg朝・4錠昼・2錠1日2回(不均等投与)
(上記の量から7~10日をかけて漸減投与する。また、胃腸薬などを併用処方する)
2)ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(ソル・コーテフ)静注用(500mg/V)1回1V1日1回点滴静注(生理食塩液などを用いて点滴投与、上記同様に漸減し、途中で退院の場合には経口薬に変更する)
3)メトクロプラミド錠5mg1回1錠頓用
4)ドンペリドン錠10mg1回1錠頓用

[参考文献]
今日の治療指針2023年版、第25章:耳鼻咽喉科疾患、医学書院

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供して頂いた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年10月17日

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