Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例195

グラクティブ錠とジャヌビア錠が同時に処方されていた

ヒヤリした!ハットした!

グラクティブ錠<シタグリプチン塩酸塩水和物>やグリミクロンHA錠<グリクラジド>などを服用している患者がほかの医療機関に転院となったとき、グリミクロン錠からジャヌビア錠<シタグリプチン塩酸塩水和物>に変更となった。同一薬の併用となったため疑義照会を行った。結果、ジャヌビア錠からルセフィ錠<ルセオグリフロジン水和物>に変更となった。

<処方1>70歳台の男性。A病院の神経内科。

ジャヌビア錠50mg 1錠1日1回 朝食後28日分
グラクティブ錠50mg 1錠1日1回 朝食後28日分
メトグルコ錠250mg 3錠1日3回 毎食後28日分

<処方2>お薬手帳より。他院。

グリミクロンHA錠20mg 1錠1日1回 朝食後28日分
グラクティブ錠50mg 1錠1日1回 朝食後28日分
メトグルコ錠250mg 3錠1日3回 毎食後28日分

*他院からA病院の神経内科へ転院となっている。

<効能効果>

●ジャヌビア錠12.5mg・25mg・50mg・100mg、
グラクティブ錠12.5mg・25mg・50mg・100mg<シタグリプチン塩酸塩水和物>

2型糖尿病

どうした?どうなった?

患者は当薬局に初めて来局した。今回、<処方1>でジャヌビア錠とグラクティブ錠が同時に処方されていた。薬剤師は不審に思い、お薬手帳を確認したところ、前回までは他院でグリミクロン錠(20mg/日)が処方されていたが(<処方2>)、A病院へ転院となり今回からグリミクロン錠が中止されて、代わりにジャヌビア錠(50mg/日)に変更になっていた。
そこで、薬剤師は患者に今回の処方変更について聴取した。

患者:「医師は、『HbA1c、ずいぶんと高いね。古い薬を飲んでいるんだね、新しい薬に変えようね』と説明を受けた」

医師は、何らかの勘違いをしている可能性があった。そこで、薬剤師は疑義照会を行った。

薬剤師:「ジャヌビア錠とグラクティブ錠が同一成分品でまったく同じ薬です。薬の成分としては1日100mgまで使えますが、どの様に致しましょうか?」

結果、ジャヌビア錠は中止となり、ルセフィ錠(2.5mg/日)に変更された。

なぜ?

今回の処方ミスの要因として以下が考えられる。

(1)医師は、SGLT-2阻害薬であるルセフィ錠を処方するつもりが、誤ってDPP-4阻害薬であるジャヌビア錠を処方した可能性がある。SGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬は、ブランド名からは区別しにくい。特に糖尿病用薬を処方した経験の少ない医師においては混乱する可能性があるので、注意する必要がある。

(2)A病院ではジャヌビア錠が採用品であったために、医師はグラクティブ錠に馴染みがなく、同一成分薬であることを認識していなかった可能性がある。

(3)A病院は、処方箋はオーダリング出力である。医師が処方箋入力した際に、同一成分品が2種類処方された場合、コンピューター上のチェックがかからなかったか、かかっていても見逃した可能性がある。

ホットした!

薬剤師としては、医師は、SGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬間、併売医薬品間で、重複処方などのミス((1)、(2))を起こす可能性があることを認識する。
SGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬間、併売医薬品の一覧表(タイプ別、効能効果、用法用量、重大な副作用など)を作成し、医師、病院事務職員(処方箋の入出力を担当する場合)に提供する。
医療機関が変更となり、処方が引き継がれる場合には、転院前の紹介状の記載ミス、転院後の処方ミスが起こるリスクが発生するので十分に注意する必要があり、患者へのインタビュー、お薬手帳などの確認などは必須である。

もう一言

異なるブランド名で併売されている主な薬剤リスト

一般名 商品名(メーカー名)
アムロジピンベシル酸塩 アムロジン(住友) ノルバスク(ヴィアトリス)
アルプラゾラム コンスタン(武田テバ) ソラナックス(ヴィアトリス)
アレンドロン酸ナトリウム水和物 フォサマック(オルガノン) ボナロン(帝人)
イミダフェナシン ウリトス(杏林) ステーブラ(小野)
イルベサルタン アバプロ(住友) イルベタン(塩野義)
エトドラク オステラック(あすか) ハイペン(日本新薬)
オメプラゾール オメプラール(太陽) オメプラゾン(田辺三菱)
クラリスロマイシン クラリシッド(日本ケミファ) クラリス(大正)
シタグリプチンリン酸塩水和物 グラクティブ(小野) ジャヌビア(MSD)
ナテグリニド スターシス(アステラス) ファスティック(EA)
フルボキサミンマレイン酸塩 デプロメール(MeijiSeika) ルボックス(アッヴィ)
ミノドロン酸水和物 ボノテオ(アステラス) リカルボン(小野)
ミルタザピン リフレックス(MeijiSeika) レメロン(オルガノン)
メキタジン ゼスラン(旭化成) ニポラジン(アルフレッサ)
モンテルカストナトリウム キプレス(杏林) シングレア(オルガノン)
リセドロン酸ナトリウム水和物 アクトネル(エーザイ) ベネット(武田)
リマプロストアルファデクス オパルモン(小野) プロレナール(住友)

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供して頂いた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年10月17日

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