Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例194

認知症患者の服薬状況の把握不足

ヒヤリした!ハットした!

患者の服薬介助にヘルパーが週4回(月・水・金・日の17時から訪問)入り、服薬コンプライアンス良好と報告を受けていた。ある日、薬剤師(訪問は月2回)が午前10時すぎに患者へ電話したところ、朝分だけではなく、既に昼分の薬も服用していたことが判明した。ヘルパーは夕方訪問なので、朝昼分の服薬時点については把握できていなかった。

<処方1>80歳台の男性。病院の循環器科。

パナルジン錠100mg 2錠 1日2回 朝夕食後56日分
ワーファリン錠1mg 2錠 1日1回 夕食後56日分
シグマート錠5mg 3錠 1日3回 毎食後56日分
他4種類、一包化

どうした?どうなった?

患者は認知症で独居であり、服薬に強い不安を抱えていたことから、ヘルパーによる週4回(月・水・金・日の17時から訪問)の食事提供と服薬介助が実施されていた。さらに、薬は日付、服用時点を記載して一包化しており、かかりつけ薬剤師が月2回程度訪問し、必要時にはケアマネジャーと連絡を取り合っていた。

患者は服用後の空の分包紙を廃棄用のボックスに入れ、ヘルパーが1日おきの訪問時にその服用状況を確認して、朝・昼・夕の服薬ボックスに2日分をセットする、という流れで服薬管理を行っていた。
薬剤師が患者宅訪問時(業務終了後の午後7時すぎの訪問が多い)には、日誌に「きちんと薬は服用」というヘルパーのコメントが毎回記載されており、コンプライアンスは良いと認識していた。

しかし、ある水曜日の午前10時すぎに患者宅に電話し、服薬状況を確認したところ、すでに当日分の朝と昼の一包化の中身が空であり、夕はまだ薬が入っていると患者が答えた。尋ね方を変えて3回質問したが、3回とも同じ回答であった。
そこで、同日の午後12時に再度電話をし、昼食後の薬を服用しないようにと伝え、午後5時すぎにも電話をして、昼食後は薬を服用していないことを患者に確認した上で、ヘルパーに電話を代わってもらい確認したところ、「朝・昼の薬は“しっかりと問題なく”服用できています」と答えた。

そこで患者に詳細を尋ねると、食欲不振のため朝食(午前7時30分 ごろ)を中断して朝食後の薬を服用し、その後、少し食欲が出たので朝食の残りを食べて(午前8時30分ごろ)、その後に昼の分の薬を飲んでしまったのかもしれない、と答えた(患者は認知症のため真相は不明である)。

なぜ?

ヘルパーは週4回患者宅を訪問しており、午後5時の訪問時点で朝・昼の一包化薬が空であればきちんと飲めていると判断していた。薬剤師もヘルパーの報告を信じていたが、本事例から必ずしも“きちんと飲めている”わけではないことを薬剤師、ケアマネジャーおよびヘルパーが認識した。
即ち、服薬時点が正しくないにもかかわらず、辻褄が合っていれば、ある時点では服薬コンプライアンスが良好であると判断してしまう場合がある。

ホットした!

薬剤師は月2回程度の訪問では十分ではないと考えて、その後は、患者宅に頻繁に電話をして(2~3日に1回程度)、患者の不安状況、服薬コンプライアンス、体調変化などチェックするようにしているが、電話だけではまだ不十分だと考えている。

本事例から、夕方訪問時点で同日の「朝・昼分の一包化薬が空」が、正しく服用できている証拠にならないことを関係者が認識したので、より丁寧な服薬ケアを行うとともに、医師にも情報提供し最小限の服薬で済むように医師との協議を行うことが必要である。
特に、可能であれば、服薬時点(朝・昼・夕・就寝前など)の種類を少なくする工夫を行う。

もう一言

昼の服用を回避する処方設計として、以下が考えられる。

1)1日3回服用を1日2回へ変更する。

例:1日2~3回に分けて服用することが可能な薬剤を選択する。
・ザイロリック錠50・100<アロプリノール>
・メトグルコ錠250mg・500mg<メトホルミン>
・プリンペラン錠5<メトクロプラミド>

例:1日3回服用の普通剤を同じ薬で1日2回か1回服用可能な徐放性製剤に変更する。
・ムコソルバン錠15mg(1日3回)
→ムコソルバンL錠45mg<アンブロキソール>(1日1回)
・レキップ錠0.25mg・1mg・2mg(1日3回)
→レキップCR錠2mg・8mg<ロピニロール>(1日1回)
・ペルジピン錠10mg・20mg・散10%(1日3回)
→ペルジピンLAカプセル20mg・40mg<ニカルジピン>(1日2回)

2)処方を見直して減薬を考える。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年9月14日

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