患者が自己判断でリリカOD錠の服用を中止
患者は、リリカOD錠<プレガバリン>を服用すると目が曇る感じ(霧視と思われる)が出たため医師に話した。しかし、「リリカは関係ないよ」と言われ、自己判断で服用を中止した。薬剤師は、患者から本件に関して相談を受けたため、医師に『症状、眼障害について過去の報告、因果関係の可能性など』を記載したトレースレポートを提出した。その後、リリカOD錠は中止とはならなかったが、適宜調節しながら服用することになった。薬剤師は患者に眼科への受診を勧奨した。
<処方1>A病院の整形外科(8月ごろより受診開始)。12月9日。
リマプロストアルファデクス錠100mg | 3錠 1日3回 毎食後28日分 |
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リリカOD錠25mg | 4錠 1日2回 朝夕食後28日分 |
ロキソプロフェンNaテープ100mg | 35枚 1日1回 膝に貼付 |
<効能効果>
●リリカOD錠25mg・75mg・150mg/カプセル25mg・75mg・150mg
○神経障害性疼痛
○線維筋痛症に伴う疼痛
11月11日に消化器科の薬を交付時、患者から訴えがあった。
患者:「2週間位前から、どうも…リリカを飲むと、目が曇る感じがする。前回、整形外科の先生に相談したら、『リリカは関係ないよ』と言われた。どうしたものかね?ここ2~3日リリカを止めてみたら、曇る感じはない」
多剤併用中であり、なぜ眼の不調の原因がリリカだと判断したのか患者に尋ねてみたが、明確な回答はなかった。
薬剤師は、リリカによる視力障害の報告が比較的多いことを認識しており、またリリカを服用中止して、霧視症状が改善していることから、可能性は否定できないと判断した。患者の同意の下、11月14日に整形外科医にリリカによる視力障害に言及したトレースレポートを提出した。トレースレポートの内容は、患者に惹起した症状、眼障害について過去の報告、因果関係の可能性などをまとめたものである。
11月15日に、患者宅に電話モニタリングを行った。
患者:「痛みがあるのでリリカは1日1回、夕食後で服用しているが、多少目の曇りはあるが日常生活に支障ない程度なので、もともとの予約日(12月9日)に受診するつもりです。」
患者は12月9日に整形外科受診し、リリカによる目の曇りが気になり調節服用していることを相談したところ、医師は前回とは異なった意見を述べたとのことであった(薬剤師からのトレースレポートについて言及があったかどうか不明)。
医師:「たまに、そんな人もいるみたいだね。調節しながら飲んでもいいよ」
処方自体は変更なかった。そこで、12月9日の投薬時に念のため眼科受診を勧めた。
リリカを頻繁に処方している整形外科医が、視力障害の副作用が起きる可能性については、基本的知識を把握していなかったか、失念していた可能性がある。
薬剤師は、患者が事前に相談もなく、服用薬を自己判断によって急に中止しないように、注意喚起していなかった(離脱症状発現の可能性がある)。当該薬剤師はかかりつけであるにもかかわらず、事前に相談してもらえるような信頼関係が築けていなかった可能性がある。
薬の副作用について、医師が因果関係について否定的であった場合でも、薬剤師から見て可能性が否定できない場合には、口頭による疑義照会だけではなく、トレースレポート等で情報(症状、副作用発生の危険因子の有無、文献等の過去の報告など)を提供することが、医師に認識してもらえる点で有用である。
自己判断で急に中止してはいけない薬剤については、事前に離脱症状について患者に説明し、注意喚起しておくことが必要である。
●プレガバリンによる眼障害
・霧視、複視、視力低下(1%以上)
・視覚障害、網膜出血(0.3%以上1%未満)
・視野欠損、眼部腫脹、眼痛、眼精疲労、流涙増加、光視症、斜視、眼乾燥、眼振(0.3%未満)
・眼刺激、散瞳、動揺視、深径覚の変化、視覚の明るさ、角膜炎(頻度不明)
●プレガバリンによる離脱症状
本剤の急激な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安および多汗症等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に減量すること。
[参考文献]
リリカカプセル150mg/リリカOD錠25mgの添付文書
(ヴィアトリス製薬株式会社 2023年2月改訂(第4版))
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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