Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例191

ワーファリン錠とカロナール錠の併用で眼球結膜に出血

ヒヤリした!ハットした!

A病院の循環器内科でワーファリン錠<ワルファリン>を処方されていた患者に、B病院でカロナール錠<アセトアミノフェン>が処方された。その結果、INRが上昇して右眼の結膜に出血がみられた可能性があった。患者はお薬手帳(ワーファリン錠やカロナール錠の処方は記載されていた)を提示したが、患者への説明はなく、さらに処方への対応はなされていなかった。

<処方1>80歳台の女性。A病院の循環器内科。
8月10日(56日分)当薬局にて調剤。
10月5日(63日分)他薬局Cにて調剤。

ワーファリン錠1mg 3錠 1日1回 夕食後56日分

*ほかにメインテート錠5mg、ニューロタン錠25mg、パリエット錠10mg、リピトール錠5mgを各1錠併用

<処方2>B病院。
10月7日(7日分)、10月14日(14日分)、10月28日(30日分)
他薬局Dにて調剤。

カロナール錠200mg 6錠 1日3回 毎食後7日分

<処方3>A病院の循環器内科。
12月7日(63日分)当薬局にて調剤。

ワーファリン錠1mg 2錠 1日1回 夕食後63日分
ワーファリン錠0.5mg 1.5錠 1日1回 夕食後63日分

*併用薬に変更なし。

<効能効果>

●ワーファリン錠0.5mg・1mg・5mg/顆粒0.2%
血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の治療および予防

●カロナール錠200mg・300mg・500mg/細粒20%・50%/原末
○各種疾患および症状における鎮痛
○下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
○小児科領域における解熱・鎮痛

どうした?どうなった?

患者はワーファリン錠を継続服用中で、以前は当薬局で調剤していた。しかし、10月5日の<処方1>は、自宅近所の薬局Cにて調剤を受けた。
また、体中が痛む(病名不明)ためB病院を受診し、10月7日、14日、28日にカロナール錠が処方され、薬局Dにて調剤を受けた<処方2>。

12月7日に患者は<処方3>を当薬局に持参し、確認したところワーファリン錠が減量になっていた。患者の右眼結膜に出血が起きており、医師からは、『ずっと1~2で安定していたINRが2.25に上昇した。原因が分からない。』と説明を受けたとのことであった。薬物相互作用が気になり、薬剤師がお薬手帳を確認したところ、B病院で<処方2>を継続処方されていたことが判明した。

1200mgという比較的高用量のカロナール錠との併用がINR変動と結膜出血の原因ではないかと考えられたので(添付文書上は併用注意)、患者に説明し同意を得て、A病院の循環器内科医に疑義照会を実施した。結果、ワーファリン錠の用量を減量のまま、カロナール錠を服用中止するように指示された。薬剤師は患者に報告したが、患者自身が整形外科医へカロナール錠の服用中止を伝えるとの意向だったため、薬剤師から整形外科医へのフィードバックはしていない。その後の経過は観察中である。

なぜ?

患者は、医療機関(B病院)および薬局Dにお薬手帳(ワーファリン錠の処方が記載されている)を持参し提示したが、ワーファリン錠との併用で出血リスクが高くなるとの説明はなく、また処方への対応は一切行われなかった。
カロナール錠の処方は10月7日からであったので、8月10日の当薬局、10月5日の薬局Cでのワーファリン錠の調剤時には、薬剤師は併用の問題は知り得ないことになる。

ホットした!

ワルファリンとアセトアミノフェンの相互作用については、その程度も含めて再認識し、INRのチェックが必要である。
さらに、本事例では、アセトアミノフェンの中止とともに、ワルファリンの用量は減量されているため、用量をそのままにしていると逆にINRが低下する可能性があり危険である。従って、INRを確認しながらワルファリンの用量は徐々に増量される必要がある。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年8月14日

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