指導不足によるタリビッド点耳液の不適正使用
2日前にタリビッド点耳液0.3%<オフロキサシン>が処方されていた患者から、「次回受診まで点耳液が足りない」と電話があった。患者に詳細を聞いたところ、キャップの開け方が不適正であることが判明した。
<処方1>40歳台の女性。病院の耳鼻科。
タリビッド耳科用液0.3% | 5ml 右耳1日2回 1回6滴 10分間耳浴 |
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<効能効果>
●タリビッド耳科用液0.3%<オフロキサシン>
〈適応菌種〉
本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、緑膿菌
〈適応症〉
外耳炎、中耳炎
今回、中耳炎で<処方1>のタリビッド点耳液が処方された。交付2日後の夜8時に患者より電話があった。
患者:「次回の受診が1週間後だが、点耳薬がもう半分以上なくなった。もたない」
詳しく尋ねていくと、最初に液がでなかったため、容器の先をハサミで切ってしまったから、1回で大量に出るとのことだった。滴下しようと容器を逆さにしても液体が出ず、点耳容器に穴が開いていなかったため、患者は、ハサミで点耳容器の先をハサミで切ってしまった。
電話対応した薬剤師は、処方元の病院(救急病院なので夜も外来は受け付けている)に電話をして相談したが、夜は耳鼻科医がいなくて、耳鼻科の薬は出せないので、明日、耳鼻科を改めて受診するように、と指示を得た。
患者に改めて電話し、明日受診して改めてタリビッド点耳液を処方してもらうよう説明したが、患者は翌日の受診が困難であった。その後、いろいろ相談した結果、薬剤師が患者宅に持参することになった。
患者からは特にクレームはなかったが、投薬時の説明不足から、大変な迷惑をかけてしまった。
<処方1>を投薬した薬剤師は、患者が当然理解できていると思い込んでしまった。その理由としては、点眼容器や軟膏容器では、初回にキャップをしめて穴をあけて使用するものがあるが、薬剤師には当たり前という認識があり、患者も理解できているものと勘違いしていた。
また、タリビッド点耳用液の保存袋に、「キャップの開け方」が記載されている。投薬した薬剤師は、保存袋にキャップの開け方が記載されていることを認識しており、そこに記載してあるから大丈夫であろうと、キャップの開け方をまったく説明していなかった(当該患者にかかわらず、普段から説明していなかった)。
本事例を検証し、当然の薬剤師業務を怠った場合に、患者にどれほどの迷惑をかけてしまうかを薬局内で周知した。また、特殊な開封の仕方をする薬剤など、使用上の注意が必要な薬剤の説明を徹底することを局内で申し合わせした。
また、本点耳液の開封方法については、具体的に説明する(ボトルのキャップを右方向へ止まるまで回し、キャップを完全に閉める ことで初めて点耳口が開くようになっている)。場合によっては、デモンストレーションとして、薬局において薬剤師が開封して交付することも考えられる。
外用薬について患者の不適正操作の類似事例も参照されたい(参考文献(1)、(2))。
誤った指導で、セレベント50ディスカスのマウスピースに穴をあけてしまった
<処方1>78歳、男性。
テオドール錠100mg | 2錠 1日2回 朝食後と寝る前14日分 |
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ムコソルバン錠15mg | 3錠 1日3回 毎食後14日分 |
ムコダイン錠500mg | 3錠 1日3回 毎食後14日分 |
セレベント50ディスカス | 1個 1日2回 朝と寝る前吸入 |
患者は、昨日の初診時に軽い喘息と診断され、<処方1>の薬剤が初めて処方された。薬剤師は、「お薬が吸入されると、わずかな甘味や粉の感覚を口の中に感じます。感じない場合は、うまく吸入できていない可能性もありますので、レバーを動かさずに1~2回吸い込んでください。」とセレベント50ディスカス<サルメテロールキシナホ酸塩>の吸入方法について、製剤見本を用いて説明書どおりに説明していた。
薬剤を交付した翌日、患者から電話があり、「昨日もらった薬を吸入したのですが、薬がでてきません。どうすればよいのでしょうか?」と尋ねられた。電話を受けた薬剤師は、患者が交付されたのはロタディスクであると勘違いし、ロタディスクに穴をあけずに吸入したと思い込んでしまった。
そして、「吸入する前にまず、穴をあける必要があります。穴はあけましたか?」と患者に尋ねたところ、「いいえ。穴をあけるんですね。分かりました」とすぐに納得した様子だった。
薬剤を交付してから3日後の朝、患者が薬剤部のお薬渡し口にみえ、「薬を吸入してもでてこないのでどうしたらよいかと薬剤部に電話で聞きました。薬剤師さんは、吸入する前に穴をあけてくださいと説明されたので、穴をあけましたが、やはりうまく吸入できません。吸い込んでも説明書に書いてあるように、粉の感覚を口の中に感じることができませんでした。穴のあけ方が悪いのでしょうか?」と語った。そして、持参したセレベント50ディスカスを薬剤師に見せた。ディスカスのマウスピースには大きな穴があけられていた。
患者に対し、電話で対応した薬剤師がほかの薬剤と勘違いして間違った指導をしてしまったことを深くお詫びし、持参されたセレベント50ディスカスを交換した。また、患者に吸入方法を再度指導した。本日はまだ吸入していないということだったので、新たに交付したセレベント50ディスカスを使って実際に吸入してもらった。
指導不足でベクロメタゾン点鼻液を振ってしまった
<処方1>10歳台の女性。病院の小児科。
ベクロメタゾン点鼻液50μg「DSP」 | 全1瓶 1日2回 点鼻 |
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薬を交付した2日後、噴霧量が少なくなって、薬が噴霧できなくなったと患者が来局した。
薬局では、薬剤交付時に、使用法の説明を行っていなかった。また、患者は、薬剤の容器や携帯袋に記載されている使用上の注意を読んでいなかった。
ベクロメタゾン点鼻液50μg「DSP」は、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル製剤のうち、使用前に振らないタイプの製剤である。患者は、以前からベクロメタゾンプロピオン酸エステルの点鼻製剤を使用していた(商品名は不明)が、それは使用前に振るタイプの製剤であった。そのため患者は、ベクロメタゾン点鼻液50μg「DSP」が振らずに使用する製剤であるとは思わず、以前から使用していた製剤と同様に容器を振ってから使用していた。
薬局でのナイスピー使用法の説明が不十分であったことを謝罪するとともに、ナイスピーは振らずに使用するよう説明し、新しい製剤をお渡しした。幸いなことに症状の悪化は見られていなかった。
[参考文献]
(1)アイフィス事例(i-phiss)、ヒヤリハット(プレミア)事例その115
(2)アイフィス事例(i-phiss)、ヒヤリハット(プレミア)事例その132
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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