薬の併用による副作用について疑義照会
患者は腰痛のため整形外科を受診していた。今回、サインバルタカプセル<デュロキセチン塩酸塩>が処方追加されたが、他院の心療内科でパキシル錠<パロキセチン塩酸塩水和物>が処方されており、薬物相互作用、重複作用によるセロトニン症候群などの副作用発現の可能性が懸念された。両医師へ疑義照会などで確認したが、処方継続となった。その後、薬剤師は電話フォローなどによって症状の変化を確認しているが、特に副作用の発現はないようであった。
<処方1>30歳台後半の男性。病院の整形外科。
サインバルタカプセル20mg | 1Cap 1日1回 朝食後14日分 |
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(他:ロキソニン、ムコスタ、ミオナール、モーラステープL) |
<処方2>心療内科クリニック。
パキシル錠5mg | 1錠 1日1回 夕食後28日分 |
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(他:ヒベルナ糖衣錠25mg、ロフラゼプ酸エチル錠1mg、エビリファイ錠3mg、ラミクタール錠25mg、リスペリドン錠0.5mg、エチゾラム錠0.5mg、エチゾラム錠1mg) |
<効能効果>
●サインバルタカプセル20mg・30mg<デュロキセチン塩酸塩>
○うつ病・うつ状態
〇下記疾患に伴う疼痛
糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症、変形性関節症
●パキシル錠5mg・10mg・20mg<パロキセチン塩酸塩水和物>
○うつ病・うつ状態
○パニック障害
○強迫性障害
○社会不安障害
○外傷後ストレス障害
患者は慢性腰痛症で、整形外科からロキソニン<ロキソプロフェン>等を処方されていたが、疼痛コントロール不十分のため、今回からサインバルタカプセル<デュロキセチン塩酸塩>が追加された<処方1>(診察時に、医師からは併用薬の確認はなかった)。投薬時にお薬手帳で併用薬を確認したところ、他院の心療内科からパキシル錠<パロキセチン塩酸塩水和物>が処方されていた<処方2>。
サインバルタカプセル<デュロキセチン塩酸塩>は、慢性腰痛症治療のための処方であると考えられたが、別の治療目的とはいえ、他科でのパキシル錠<パロキセチン塩酸塩水和物>との併用に関して、パロキセチンのCYP2D6阻害作用によりデュロキセチンのクリアランスが減少して血中濃度が上昇するという報告があるため併用注意であること、作用機序の重複(デュロキセチンはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:SNRI、パロキセチンは選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRI)のため副作用リスク(セロトニン症候群など)の上昇も懸念されることから、<処方1>の整形外科医に疑義照会を行った。しかし、医師からの具体的な説明なしに、処方箋どおりでよいとの回答を得た。
患者には、サインバルタカプセル<デュロキセチン塩酸塩>とパキシル錠<パロキセチン塩酸塩水和物>が類薬であることを説明して、心療内科クリニックにも連絡させてもらいたい意向を伝えたが、同日午後に心療内科を受診予定であり、自分で話すとのことだった。そこで、お薬手帳に心療内科医あてのコメントを記載して、受診時に提示してもらうようお願いした。次の来局時、患者に確認したところ、併用でよいとのことだった。その後も、両科医師了解のもと併用は継続されている。
薬剤師は、併用となった直後から患者の同意を得て電話フォローを実施し、セロトニン症候群などの症状が起こっていないかどうか確認しているが、特に症状に変化はなかった。
サインバルタカプセル<デュロキセチン塩酸塩>は、2016年3月に慢性腰痛症の適応が追加承認されて、整形外科から処方される機会が増えている。今回、整形外科医はサインバルタカプセル<デュロキセチン塩酸塩>を処方する際に併用薬を確認していなかった。また、相互作用や副作用リスク、精神科治療への影響などをあまり気にした様子はなかった。整形外科医は、薬剤師からの副作用発現の懸念に対しては、今後、注視するとのことであった。心療内科医の考えは、薬剤師が直接疑義照会していないので不明である。
併用薬や相互作用についての疑義照会では、医師がリスクを想定しやすいように、薬物相互作用(薬物代謝阻害による血中濃度の上昇)、副作用(セロトニン症候群など)について具体的に伝える。
薬局内においては、本事例のような治療目的の異なるSSRIとSNRIの併用について、薬歴サマリに記載したり、局内勉強会などで情報共有したりして、患者の症状経過を電話などによってフォローしていく。
デュロキセチン塩酸塩の使用上の注意を以下にまとめる。
1.薬物相互作用
デュロキセチン塩酸塩とセロトニン作用薬である炭酸リチウム、セロトニン・ノルアドナリン再取り込み阻害剤(SNRI)および選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、トラマドール塩酸塩、トリプタン系薬剤、L-トリプトファン含有製剤、リネゾリド、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品等との併用は注意する必要がある。
相互にセロトニン作用を増強することによりセロトニン症候群等のセロトニン作用による症状があらわれることがあるので、本剤およびこれらの薬剤の用量を減量するなど注意して投与すること。デュロキセチンはセロトニン再取り込み阻害作用を有するため、併用により、セロトニン作用が増強することがある。
2.重大な副作用
デュロキセチン塩酸塩により不安、焦燥、興奮、錯乱、発汗、下痢、発熱、高血圧、固縮、頻脈、ミオクローヌス、自律神経不安定等があらわれることがある。セロトニン作用薬との併用時に発現する可能性が高くなるため、特に注意すること。異常が認められた場合には投与を中止し、体冷却、水分補給等の全身管理とともに適切な処置を行うこと。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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