患者が一包化薬の分包ごと服用していいかと質問
今回、プロテカンジン錠<ラフチジン>が1錠/回から0.5錠/回へ変更になり、分包して交付したところ、患者から「プロテカジン錠は、分包紙ごと服用するのか?」と電話があった。
<処方1>70歳台の男性。病院の内科。前回まで。
プロテカジン錠10mg | 1錠1日1回 朝食後 28日分 |
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他9種類も含めてPTPシートのまま交付。 |
<処方2>今回。
プロテカジン錠5mg | 1錠1日1回 朝食後 28日分 |
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本剤は分包し、他9種類はPTPシートのまま交付。 |
<効能効果>
●プロテカジン錠<ラフチジン>
○胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎
○下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期
○麻酔前投薬
前回まで、患者はプロテカジン錠10mgを1錠服用していたが<処方1>、今回、5mgに減量されていた<処方2>。当該薬局では5mg錠の在庫がなかったため、患者と医師の了解を得て、10mg錠を半分に割り、分包して交付した。
患者が帰宅後、薬局に電話で質問があった。
患者:「今日、半分の薬をもらったが、袋ごと飲んでいいのか?」
薬剤師は一瞬、何のことか分からなかったが、詳しく聞いてみると、どうも袋ごと服用するのかどうかを質問しているようであった。薬剤師は驚いたが、患者には、袋から出して、錠剤だけを服用するように説明した。
患者にはこれまでPTPシートの状態で全ての薬剤を交付しており、分包して交付するのは今回が初めてであった。
患者になぜ袋ごと服用すると思ったのかを尋ねた。
患者:「飴などを包んでいるオブラートと同じものでしょ。丸めて飲むのではないか?でも大きすぎて無理そうだ。」
患者が勘違いしていることが判明したが、分包紙には印字もされているのに、なぜそのように思ったのかは不明である。
薬剤師は、『分包紙ごと飲み込む』と患者が勘違いするとは想像もしていなかったので、投薬時に『袋から取り出して服用するように』との説明を行っていなかった。
患者にとって初めての薬剤が交付されるときや、新規の調剤方法が行われたときには、薬剤師にとっては当たり前のことであっても、患者が誤解しそうな場面や、間違いそうなさまざまな場面を予測して事前に説明する。
そのためには、患者の特性などに応じてどのような間違いを起こす可能性があるのかを日常的にシミュレーションしておく必要がある。
さらに、一方的に説明を終えるのではなく、投薬時の患者の表情などをよく観察して、今の説明で理解できたか、不明な点はないかなどの確認を薬局内で徹底する。
以下に、薬剤師が想像できなかった患者の不適正使用の他の事例を示そう。
イナビル吸入粉末剤を鼻から吸ってしまった患者
<処方1>70歳台の女性。内科診療所。
イナビル吸入粉末剤20mg | 2キット1日1回 吸入1日のみ |
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インフルエンザに罹患した患者が、イナビル吸入粉末剤<ラニナミビルオクタン酸エステル水和物>の処方箋を持ってきた。熱もさほど高くなく、しっかりしていた。患者向け指導箋を見せながら使用方法を説明した。デモ器にて吸入準備のためのトレーのスライドも練習してもらい、「ご不明な点はありませんか?」と聞いたところ、患者は分かったと答えた。
後日、患者がインフルエンザとは別の処方箋を持って来局した際に、「この間の吸入の薬は吸った後、粉が残っておかしいなと思っていたけど、説明書を見たら口で吸うものだったのね。私は鼻から吸ってしまいました。」と言った。
薬剤師は、服薬指導の際の説明が不足していたことをお詫びした。患者は幸い、インフルエンザからは回復しており、イナビル吸入を誤った使い方をしたための副作用もなかった。
薬剤師は、使い方については、指導箋とデモ器を使って十分に説明できたと思っていたが、特に「口から吸ってください」との注意は与えていなかった。
アレルギー性鼻炎の治療のための粉末を鼻に噴霧するタイプの製剤が普及しており(エリザス点鼻粉末200μg28噴霧用、ベクロメタゾン鼻用パウダー25μg「トーワ」)、これらの薬を使ったことのある患者は、イナビル吸入も同様の使い方をすると勘違いする可能性があるかもしれない。
また、製剤本体の吸入口が小さく、鼻腔に入りやすい構造であることが患者の誤使用につながったのではないかと思われる。
一回の使用で完結する薬なので、今後、服薬指導の際に薬局で吸入してもらうことを基本とする。患者の病状などにより、その場での吸入が難しい場合は、デモ器と患者向け指導箋にて丁寧に指導するとともに、必ず「口から吸入してください。」との言葉を添える。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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