ニトロペン舌下錠の保管方法に関する服薬指導不足
患者は、ここ数年間、循環器科を受診していた。半年以上前に一度、ニトロペン舌下錠<ニトログリセリン>を処方されたが、外出時にニトロペン舌下錠を携帯することなく、未使用のままそれ以来冷蔵庫に保管していた。
<処方1>70歳台の女性。病院の循環器科。
カルベジロール錠2.5mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 56日分 |
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ニコランジル錠5mg | 3錠 1日3回 毎食後 56日分 |
他7種類 |
<効能効果>
●ニトロペン舌下錠0.3mg<ニトログリセリン>
狭心症、心筋梗塞、心臓喘息、アカラジアの一時的緩解
患者は、高血圧、狭心症、心筋梗塞などで循環器科を受診しており(数年間の通院歴がある)、<処方1>の薬剤が処方されていた。薬剤師は、投薬時に胸痛や胸の圧迫感の発現状況や、半年以上前に一度だけ処方されたニトロペン舌下錠の使用状況を確認した。
患者:「これまで一回も胸が痛いとか重いとか感じたことはない。だからニトロペン舌下錠は一回も使ったことがない。大切な薬と聞いたので冷蔵庫にずっと入れているけど、いつまで持つのかしら?」
薬剤師は、患者にニトロペン舌下錠を常に携帯し、症状が出たら直ちに舌下投与できる状態にしておくよう指導した。また、薬の包装に使用期限が記載してあるので、確認するよう伝えた(薬局のニトロペン舌下錠の包装を見せて、使用期限の記載場所を伝えた)。
その後、患者から電話があり、使用期限までまだ1年あると連絡を受けた(ニトロペン舌下錠の使用期限は3年)。これ以降、患者は本剤をケースに入れて持ち歩いているとのことであった。
『いつ狭心症の発作が起きるか分からないため、普段から2~3錠は携帯するように』という服薬指導が不十分だったと思われる。
患者は、最近あまり遠出することもなく、『薬は家に置いておくもの』と漠然と思っていた。これまでほかの頓服薬を処方されたことがなかったこともあり、外出時に『薬を持ち歩く』という認識もなかったようである。
初めて処方された薬を説明するときには、薬の特徴や保管方法なども含めて、詳細に伝えることが大切である。薬剤師は、今回の事例を薬局内で情報共有して、適切な服薬指導が行えるようにした。
ニトロペン舌下錠のように重要な頓服薬については、定期的に使用状況や、使用期限の確認など行うことが大切である。薬歴のサマリーなどにニトロペン舌下錠に関する処方状況(例:ニトロペン舌下錠2021.9.27処方、2ヵ月毎に使用状況確認)を記載しておくことにした。
ニトロペン舌下錠が関係した不適正使用の事例を以下に示そう。
食後の胸焼けにニトロペン舌下錠を使用していた患者
<処方1>50歳台の女性。病院の内科。
ニトロペン舌下錠0.3mg | 1錠 頓用・胸痛時 20回分 |
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※その他定期薬(60日分)の記載省略 |
患者は高血圧症を合併した安定狭心症患者で、定期薬とともにニトロペン舌下錠を以前から使用していた。
今回、定期薬60日分とともに、ニトロペン舌下錠が20回分処方されていた。薬歴を確認すると、6ヵ月前から4回連続でニトロペン舌下錠が処方されていた。
薬剤師は、ニトロペン舌下錠の使用頻度が高いと感じたので、患者に残薬や使用状況などを確認したところ、患者は週に2~3回使うことがあり、一番よく使う時は食後で、特に食べ過ぎた後(食後の胸焼けのため)とのことであった(若い息子家族と同居しているので、脂の多い食事が多いが文句も言えないとのこと)。
薬剤師は、ニトロペン舌下錠は食後の胸焼けには効果がないこと、狭心症発作時あるいは、予め発作が起こると予想される労作(例えば食事、排便、歩行など)の前に使用するよう患者に説明した。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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