Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例180

アボルブカプセルを素手で触っていた女性介護スタッフ

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、処方薬を持ち訪問した介護施設で、女性の介護スタッフがアボルブカプセル0.5mg<一般名:デュタステリド>を一包化の袋から素手で取り出して与薬しているのを発見した。薬剤師は、本剤の適正な取り扱いと服薬ケアについて説明した。

<処方1>80歳代の男性。病院の内科。

アボルブカプセル0.5mg 1Cap 1日1回 28日分

*患者が介護施設へ入居する前からの処方であり、本剤を含めて全ての処方薬が一緒に一包化されていた。

<効能効果>

●アボルブカプセル0.5mg<一般名:デュタステリド>
前立腺肥大症

どうした?どうなった?

薬剤師は、今回初めて担当する介護施設の入居者に処方薬を持ち訪問した。当該入居者は最近入居してきたため服薬状況を確認したところ、これまでの服用薬は一包化されており、女性の介護スタッフが一包化の袋から薬を素手で取り出して与薬していたことが判明した。素手で与薬していたものの中にアボルブカプセルも含まれていた。

薬剤師:「触ると危険という程のことではないのですが、アボルブカプセルは一包化不可でして、女性には投与禁忌となっています。カプセルから漏れた薬には決して触らないようにしてください。今回からの薬にもアボルブカプセルがありますが、飲ませ方などの注意事項はこれから説明します。」

介護スタッフ:「え!素手で触れてはいけない薬があるなんて知らなかった。」

なぜ?

アボルブカプセル0.5mg<一般名:デュタステリド>は、入居前から処方されていた持参薬(調剤は別の薬局)であり、介護スタッフは、以前の薬局の薬剤師や医師、家族から、服用時の注意事項など詳細を聞かされていなかった(家族がどこまで認識していたかは不明である)。

入居の際の紹介状に薬の情報がどこまで記載されていたのか、介護スタッフにどの程度伝わっていたのかは不明であるが、結果として介護スタッフは何も知らされていなかったようである。

ホットした!

薬の専門的な知識を持たない介護スタッフに対して、薬剤師は薬の取り扱い上の注意などについて情報提供を行い、入居者の服薬管理を適切にできるようにする。
また、薬剤師は、介護スタッフからの相談を受けたり、投薬上必要な工夫などを提案したりすることが必要である。

今回の場合、以下の取り扱い上の注意を説明した。
『アボルブカプセルはPTP包装のまま、他の薬剤は一包化して調剤しています。介護スタッフが服薬ケアする時には、分包紙からアボルブカプセル以外の薬は底の浅いお茶碗などに入れ、アボルブカプセルはカプセル本体に手が触れないように注意してお茶碗に落とし込むようにしてください。それを入居者に渡して、入居者自身で一個ずつ摘んで服用するように服薬ケアを行ってください。さらに、使用後のお茶碗は通常通り洗浄してください。万が一カプセルに手が触れた場合には直ちに石鹸と水で洗ってください。』

もう一言

1.アボルブカプセルの取り扱い上の注意
アボルブカプセルは『経皮吸収されることから、女性や小児はカプセルから漏れた薬剤に触れないこと。漏れた薬剤に触れた場合には、直ちに石鹸と水で洗うこと』と注意喚起されている。

上記の注意喚起の理由を以下にまとめる。

・デュタステリドの女性への投与は禁忌となっている。
ラット及びウサギにデュタステリドを経口投与した結果、雄胎児の外生殖器の雌性化が認められた。本剤の曝露により血中ジヒドロテストステロンが低下し、男子胎児の外生殖器の発達を阻害する可能性がある。(引用文献参照)

・デュタステリドは経皮吸収される。
ウサギに貼付した際の血清中に未変化体が検出され、経皮吸収されたことが報告されている。また、毒性試験において、ラット及びウサギの雄胎児の外生殖器の雌性化がみられ、ともに奇形に対する無影響量が求められていない。さらに、本剤の消失半減期が長い(健康成人における単回投与時の消失半減期:89~174時間)。これらを勘案して、取り扱いには十分に注意する必要がある。

2.他の注意すべき薬剤
同一成分で、男性脱毛症に適応があるザガーロカプセル<一般名:デュタステリド>も同様の注意が必要である。

ザガーロカプセル<一般名:デュタステリド>と同じ5α還元酵素阻害薬で男性脱毛症に適応があるプロペシア錠<一般名:フィナステリド>では、フィルムコーティングされているので、割れたり砕けたりしない限り、通常の取扱いにおいて有効成分に接触することはないが、粉砕・破損した場合、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳中の婦人は取扱わないように注意喚起されている。また、分割・粉砕は不可である。

[引用文献]
アボルブカプセル0.5mgの医薬品インタビューフォーム
(グラクソ・スミスクライン株式会社、2021年10月改定)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年2月7日

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