処方意図が不明なため疑義照会を検討
頭痛時の頓服薬として、インフリーカプセル<一般名:インドメタシンファルネシル>が処方されたが、処方意図が不明であった。薬剤師が患者に質問したところ『一次性穿刺様頭痛』と医師が記載したメモを見せてくれた。
薬剤師は、当該疾患に対してインフリーカプセル<一般名:インドメタシンファルネシル>が処方されたと思わなかったので、処方の妥当性について国内外の過去症例や臨床試験結果などの調査が必要となった。
<処方1>10歳代後半の女性。病院の神経内科。
インフリーカプセル100mg | 頭痛時 1回1Cap 10回分 |
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ムコスタ錠100mg | 頭痛時 1回1錠 10回分 |
<効能効果>
●インフリーカプセル100mg・Sカプセル200mg<一般名:インドメタシンファルネシル>
下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群
患者は頭痛が続いており、10月28日にレルパックス錠20mg<一般名:エレトリプタン臭化水素酸塩>、11月11日にロキソニン錠60mg<一般名:ロキソプロフェンナトリウム>およびトラムセット配合錠<一般名:トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン>が処方されていた。
患者に処方されたインフリーカプセル<処方1>は、当薬局に在庫がなかったため、薬剤師は医薬品卸に発注をかけようとした。また、発注の前に、在庫のある他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)でも問題ないか、処方医に疑義照会しようと考えていた。
処方状況などの詳細を確認するため、疑義照会の前に患者へ質問したところ以下の回答を得た。
患者:「やっと頭痛のタイプがわかった。それに合った頭痛薬を出すと聞いている。」
さらに、患者は『一次性穿刺様頭痛』と医師が記載したメモを見せてくれた。
薬剤師は、インターネットで、日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会の「頭痛の診療ガイドライン2021」を閲覧し、一次性穿刺様頭痛にインドメタシンが有効であるとの記載を確認した。
最終的に、インフリーカプセルを医薬品卸から取り寄せ、翌日患者に交付した。
薬剤師は、『一次性穿刺様頭痛』という言葉自体を初めて聞いたので、頭痛の具体的な症状、治療方針などを理解できていなかった。患者から話を聞くまでは、一次性穿刺様頭痛に対してインフリーカプセル<一般名:インドメタシンファルネシル>が処方されたとは思わず、他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で代替できないかと安易に考えてしまった。
普段あまり処方されない薬剤が出された場合には、単に『在庫がないから他の薬剤に変更してもらう。』というような疑義照会を行うのではなく、患者への質問や医師への問い合わせで処方意図を確認する必要がある。これにより処方ミスが発見されることもある。
各疾患関連のガイドラインは、広く学ぶようにする。
一次性穿刺様頭痛は、局所構造物または脳神経の器質性疾患が存在しない状態で自発的に起こる一過性かつ局所性の穿刺様頭痛である。以下に診断と治療についてまとめる。(参考文献参照)
1.診断(参考文献参照)
A.BおよびCを満たす自発的な単回または連続して起こる穿刺様の頭部の痛みがある
B.それぞれの穿刺様の痛みは数秒まで持続する
C.穿刺様の痛みは不規則な頻度で、1日に1~多数回再発する
D.頭部自律神経症状がない
E.ほかに最適なICHD-3(国際頭痛分類第3版)の診断がない
2.治療(参考文献参照)
ランダム化比較試験は施行されていないが、一次性穿刺様頭痛の第一選択薬はインドメタシン(75~150mg/日)である。インドメタシン以外の治療薬としては、ニフェジピン徐放錠90mg/日、メラトニンを3mg/日から漸増、ガバペンチン400mg/日、COX-2阻害薬であるセレコキシブやetoricoxib(本邦未発売)が有効であった症例などに関する報告がなされている。なお、予後は比較的良好と考えられているが、再発や慢性の経過をとる症例も報告されている。
わが国で一次性咳嗽性頭痛に用いられてきたインテバンSP<一般名:インドメタシン徐放カプセル>は2018年に製造販売中止となり、その代替品としてはプロドラッグであるインフリーカプセル<一般名:インドメタシンファルネシル>とランツジールコーワ錠<一般名:アセメタシン>、ミリダシン錠<一般名:プログルメタシンマレイン酸塩>の内服薬が存在する。
[参考文献]
●頭痛の診療ガイドライン2021
(監修:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会、発行:医学書院)
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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