Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例173

腎臓疾患患者へのアスパラカリウム錠処方を疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

腎臓内科において、腎臓に疾患がありカリウムの摂取が制限されている患者に、ダイアモックス錠<アセタゾラミド>の副作用を防止するためアスパラカリウム錠<L-アスパラギン酸カリウム>が処方された。

<処方1>40歳代の男性。A病院の眼科。

ダイアモックス錠250mg 2錠 1日2回 朝夕食後7日分
アスパラカリウム錠300mg 2錠 1日2回 朝夕食後7日分
チモプトール点眼液0.5% 5mL 左目1日2回

<効能効果>

●ダイアモックス錠250mg<アセタゾラミド>
緑内障、てんかん(他の抗てんかん薬で効果不十分な場合に付加)、肺気腫における呼吸性アシドーシスの改善、心性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、メニエル病及びメニエル症候群、睡眠時無呼吸症候群
●アスパラカリウム錠300mg・散50%<L-アスパラギン酸カリウム>
下記疾患又は状態におけるカリウム補給
・降圧利尿剤、副腎皮質ホルモン、強心配糖体、インスリン、ある種の抗生物質などの連用時
・低カリウム血症型周期性四肢麻痺
・心疾患時の低カリウム状態
・重症嘔吐、下痢、カリウム摂取不足及び手術後

どうした?どうなった?

患者は目が見えなくなった(具体的な症状は不明)とのことでA病院の眼科を受診後、来局した。

患者:「眼圧が高く緊急で眼圧を下げた方が良いとのことで、効果が早く出る飲み薬を処方すると言われました。」

この患者の薬歴を確認すると、同じA病院の腎臓内科も受診しており、腎疾患があるためカリウム摂取の制限が行われていることが判明した。

薬剤師は、眼科の医師に疑義照会し、アスパラカリウム錠の処方が削除された。

なぜ?

眼科医は、同じ病院の他科のカルテをしっかりと確認していなかったため、この患者に腎疾患があってカリウムを制限されていることに気が付かず、カリウム製剤を処方してしまったと考えられる。

眼科、腎臓内科共に同じ病院であるため、眼科医は承知の上でカリウム製剤を処方しているのだろう、と患者は思っていた。従って、自分が腎臓内科にかかっていることを眼科医に報告する必要はないと考えていた。

ホットした!

薬剤部を通して、医師に同じ病院内の他診療科受診の有無と処方薬などのチェックを依頼する。

同じ病院の他診療科、他の医療機関にかかる場合には、お薬手帳(他の疾患名、処方薬などが判明する)を見せるように患者に指導する。

もう一言

ダイアモックス錠は優れた眼圧下降作用を示すが、重大な副作用として、代謝性アシドーシス、低カリウム血症、低ナトリウム血症等の電解質異常があらわれることがある。従って、失われたカリウムを補給するためにアスパラカリウム錠が処方されたと考えられる。

[参考]
●ダイアモックス末/ダイアモックス錠250mg 添付文書
(株式会社三和化学研究所 2021年11月改訂)

●アスパラカリウム錠300mg/アスパラカリウム散50% 添付文書
(ニプロESファーマ株式会社 2017年10月改訂)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年11月8日

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