Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例172

薬剤師の聞き方で誤解を生んだ疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

前回の抗生物質の処方はビクシリンカプセル<アンピシリン>のみであったが、今回はそれに加えてダラシンカプセル<クリンダマイシン>が追加で処方された。薬剤師は、一方の抗生物質を服用し終えた次の日からもう一方の抗生物質を続けて服用するものと思い込んだ。しかし、実際は両抗生物質を同時に服用するよう処方されたものであった。

<処方1>40歳代の女性。病院の口腔外科。11月5日(今回)。

ビクシリンカプセル250mg 8Cap 1日4回 毎食後・就寝前 3日分
ダラシンカプセル150mg 6Cap 1日3回 毎食後 4日分
セレコックス錠200mg 2錠 1日2回 朝夕食後 7日分

*ビクシリンカプセルとダラシンカプセルの処方日数に違いがあるのは、前回処方のビクシリンカプセルの残薬が1日分あるためである。

*抗生物質2剤を服用させる処方意図は不明である。

<処方2>11月2日(前回)。

ビクシリンカプセル250mg 8Cap 1日4回 毎食後・就寝前 3日分
セレコックス錠200mg 2錠 1日2回 朝夕食後 3日分

<効能効果>

●ビクシリンカプセル250mg<アンピシリン水和物>
<適応菌種>
本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、淋菌、炭疽菌、放線菌、大腸菌、赤痢菌、プロテウス・ミラビリス、インフルエンザ菌、梅毒トレポネーマ
<適応症>
表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、骨髄炎、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、淋菌感染症、梅毒、腹膜炎、肝膿瘍、感染性腸炎、子宮内感染、眼瞼膿瘍、麦粒腫、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、中耳炎、副鼻腔炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎、抜歯創・口腔手術創の二次感染、猩紅熱、炭疽、放線菌症

●ダラシンカプセル75mg・150mg<クリンダマイシン塩酸塩>
<適応菌種>
クリンダマイシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌
<適応症>
表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、涙嚢炎、麦粒腫、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、顎骨周辺の蜂巣炎、顎炎、猩紅熱

どうした?どうなった?

患者は、顎の感染症で口腔外科を受診していた。前回(処方2)と比較して、今回はダラシンが追加されており(処方1)、セレコックス錠<セレコキシブ>の処方日数から考えると、2種類の抗生物質を順番に服用するのではないかと薬剤師は推測したが、服用方法が不明瞭であった。そこで、鑑査を担当した薬剤師Aが病院事務員を通じて疑義照会を行った。

薬剤師A:「ビクシリンとダラシンのどちらを先に服用するか、順番は決められていますか?」

事務員は医師に確認して、医師の言葉通り「どちらが先でも良い。」と薬剤師Aに伝えた。
薬剤師Aは、処方箋の備考欄に疑義照会内容として『ビクシリンとダラシンは、どちらを先に服用してもよい。同時に服用はしない。』と記載した。

投薬を担当した薬剤師Bは、処方箋の備考欄を見て『どちらを先に服用しても良い。』という記載を不審に思い患者に確認したところ、現在の抗生物質に一つ追加で2種類を一緒に服用するよう医師から聞いていた。

改めて疑義照会を行ったところ、抗生物質2種類は同時に服用であった。

なぜ?

薬剤師Aは、セレコックスの処方日数(7日分)から判断して、どちらか一方を服用した後(例えばビクシリンを3日間飲み終えてから)、残りを服用する(続けてダラシンを4日間服用する)のだろうと思い込んだ。

疑義照会時に薬剤師Aが「どちらを先に服用するか、順番は決められていますか?」と誤解を生む表現で聞いてしまった。事務員と医師は、同じ日に飲む前提でビクシリンとダラシンの服用順をどうするかの質問であると思い込み、「どちらが先でも良い。」という回答をしてしまった。

ホットした!

今回の事例であれば、以下の様に尋ねるべきである。

薬剤師A:「抗生物質が2種類処方されていますが、どちらか一方を日数分服用し、次の日から続けてもう一方を服用するのでしょうか?或いは、両剤を同じ日に同時に服用するのでしょうか?」

このように疑義照会を行っても回答が不明瞭であれば、さらに確認する必要がある。
変更内容や服用方法が明確でない場合、まず患者に医師から説明を受けているかどうかを確認したうえで疑義照会をする。

もう一言

もし処方1の意図が、どちらか一方を日数分服用し、次の日から続けてもう一方を服用するという意図であった場合、服用開始日を指示する必要があるため処方箋には以下のように記載されるはずである。

<処方3>40歳代の女性。病院の口腔外科。11月5日。

ビクシリンカプセル250mg 8Cap 1日4回 毎食後・就寝前 3日分
(11/5、11/6、11/7に服用)
ダラシンカプセル150mg 6Cap 1日3回 毎食後 4日分
(11/8、11/9、11/10、11/11に服用)
セレコックス錠200mg 2錠 1日2回 朝夕食後 7日分
(11/5~11/11に服用)
澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年10月03日

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