患者の服薬不遵守を察知し、メトグルコ錠の処方変更
血糖値コントロール不良のため、メトグルコ錠<メトホルミン塩酸塩>(分3)が2倍に増量されたが、患者は昼の薬はほとんど飲んでいなかった。そのため、実質的には3倍に増量されたことになってしまった。
<処方1>70歳代の男性。病院の循環器科。
グラクティブ錠50mg | 1錠 1日1回 朝食後 56日分 |
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メトグルコ錠250mg | 3錠 1日3回 毎食後 56日分 |
他11種類 |
<処方2>
グラクティブ錠50mg | 1錠 1日1回 朝食後 56日分 |
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メトグルコ錠500mg | 3錠 1日3回 毎食後 56日分 |
他11種類 |
<処方3>
グラクティブ錠50mg | 1錠 1日1回 朝食後 56日分 |
---|---|
メトグルコ錠500mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 56日分 |
他11種類 |
<効能効果>
●メトグルコ錠250mg・500mg<メトホルミン塩酸塩>
2型糖尿病
ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る。
(1)食事療法・運動療法のみ
(2)食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用
今回、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.7%から7.1%に上昇したため、メトグルコ錠250mgを3錠(750mg/日)<処方1>から、500mg錠を3錠(1500mg/日)<処方2>に増量されていた。来局時、患者はメトグルコ錠の規格単位が変更されていることを認識しておらず、メトグルコ錠250mgが30錠残っているため残薬調整してほしいと申し出た。
薬剤師は、メトグルコの規格単位が変更されていることを患者に伝え、服用状況等を確認したところ、昼の薬はほとんど服用していないことがわかった。服用できていない理由については、飲み忘れではなく薬が多くて飲むのが嫌になるためであった。昼の薬を服用していないことは医師に伝えていないが、今回からはしっかりと昼も飲むと患者は言った。
患者は、メトグルコ錠を実質500mg/日(朝夕のみ)しか服用してなかったが、今回の処方では1500mg/日と3倍量になってしまうため、薬剤師は疑義照会が必要だと判断し、疑義照会を行った。
薬剤師:「患者さんは、メトグルコ錠を昼に服用していなかったようです。従って500mg/日しか飲んでおらず、今回1500mg/日の処方ですと一挙に3倍量になってしまいます。どうしましょうか?」
医師:「診察時に直接言ってくれないとわからないね。もとに戻して、750mgを分3にしてください。」
薬剤師:「患者さんは以前も昼の服用を忘れて、残薬が出ていた状況でした。検査値も悪いことから、少し増量して、1000mgを分2(朝夕のみ)にするのはどうでしょうか?」
医師:「それで結構ですよ。患者にはしっかり服用するように指導してください。」
薬剤師:「了解しました。状況はまたご報告します。」
薬剤師は、患者に疑義照会の結果(<処方3>に変更)を報告し、メトグルコ錠が増量になるため、低血糖、乳酸アシドーシスの副作用、生活上の注意点、朝夕の服用にすることなどを再度確認して交付した。今回は、残薬調整せず、500mg錠を服用することになった(残薬の250mg錠を1回2錠服用することになると患者が混乱してしまう可能性があったため)。
患者は病識が欠けており、自己判断で昼の服薬を怠っていた。処方1では、メトグルコ錠以外(他11種も含め)に昼に服用する薬剤はなかったため、忘れてしまった可能性がある。
薬歴から、前回も疑義照会にてメトグルコ錠の残薬調整をしていたが、患者の服薬アドヒアランス低下について詳細を把握し、対処する方法を薬剤師は考えていなかった。
医師は循環器系疾患を専門とする医師であり、糖尿病薬の服薬アドヒアランスをあまり注視していなかった。
薬剤師は、患者の服薬不遵守を発見すべきである。また、服薬不遵守を知らない医師は、今の処方では効果が得られないため薬を増量しようと考えるということを、薬剤師は認識する必要がある。
服薬不遵守の原因を把握し、今回のような昼の服薬アドヒアランスが悪い場合には、昼にも忘れることなく服用できる方法を考える。さらに、服薬状況が改善するような処方変更を医師に提案する。今回のような昼の服薬アドヒアランスが悪い場合には、朝・夕服用のみで対処できる処方設計を考える。
処方変更後の服用状況を確認するため、次回受診時までの間(可能であれば変更後早期の方が良い)に電話モニタリングを行う。
以下に類似事例を示します。
フロセミド錠の服薬不遵守により症状改善せず
<処方1>80歳代の男性。病院の消化器科。浮腫。
フロセミド錠20mg | 1錠 1日1回 朝食後 28日分、他9種類 |
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<処方2>
フロセミド錠40mg | 1錠 1日1回 朝食後 28日分、他9種類 |
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フロセミドが前回<処方2>の20mg/日から、今回<処方2>は40mg/日に増量されていた。
薬剤師が患者に症状などを確認したところ、「浮腫がとれない。」とのことであった。そこでフロセミドの服用状況を確認したところ、最近は全く飲んでいなかったことが判明した。服用していない理由は、フロセミドを飲むとトイレが近くなるため、仕事や車に乗る時には服用していないとのことだった。
患者は、医師には言いづらいため伝えていなかったとのことであった。
そこで、患者の同意を得て疑義照会を行ったところ、医師は服薬拒否を全く認識していなかった。
今回はフロセミドの処方が削除され、自宅残薬の20mg錠を服用するようにと医師からの指示を得た。
40mg/日で効果が無いと判定されれば、更に増量となりかねなかった。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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