Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例164

薬剤師の思い込みでジオトリフ錠40mgの数量を間違えて調剤

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、ジオトリフ錠40mg<アファチニブマレイン酸塩>を14錠(7錠が入っているピロー包装を2袋)で調剤するところ、7錠(ピロー包装1袋)しか調剤しなかった。

<処方1>70歳代の男性。病院の内科。

ジオトリフ錠40mg 1錠 1日1回 朝食後 2時間 14日間
コルドリン錠12.5mg 6錠 1日3回 毎食後 14日間
ロキソプロフェン錠60mg「EMEC」 6錠 1日3回 毎食後 14日間

<効能効果>

●ジオトリフ錠<アファチニブマレイン酸塩>
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌

どうした?どうなった?

患者は再発非小細胞肺癌で、イレッサ錠<ゲフィチニブ>を服用していたが効果が得られなかったため、アリムタ注射用<ペメトレキセドナトリウム水和物>に処方が変更となった。さらにその後、ジオトリフ錠へ変更となり、継続治療中である。

ジオトリフ錠は、ピロー包装1袋に7錠シート(図1の左)が1枚入っているが、薬剤師はピロー包装1袋に14錠入っているものと勘違いし、ピロー包装1袋のみピッキングしていた。鑑査で間違いを指摘され、正しく14錠(ピロー包装2袋)を調剤し直した。

なぜ?

薬剤師は、これまでにもジオトリフ錠を調剤した経験はあった(その時は間違わなかった)。しかし、当該患者の調剤直前に、別の患者のイレッサ錠(ピロー包装1袋に14錠入っている)を調剤していたため、ジオトリフ錠もピロー包装1袋に14錠入っていると勘違いしてしまった。

ジオトリフの個装箱には14錠(7錠PTP×2)と記載があるが、14錠という箇所しか見ていなかった。また、ピロー包装にも「7錠1PTP」との記載があるが、見過ごした。
ピロー包装に入っている薬は、外から錠数を正確に把握できないため袋へ記載されている錠数の確認が必要だが、よく確認せずに調剤してしまった。

ホットした!

ジオトリフ錠のようなピロー包装に入っていて錠剤が外からみえない場合は、袋に記載されている錠数を正確に確認してから調剤するようにする。

吸湿など安定性の問題*)からピロー包装にPTPシートが入っている医薬品は少なくないため、何錠(カプセル)のシートが入っているのか、表面の記載を必ず確認して調剤する必要がある。

*)例えば、プラザキサカプセル<ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩>は吸湿性があるので、服用直前にPTPシートから取り出すよう指導すること。また、ピロー包装(1ピロー包装中に28カプセル(14カプセル入りPTPシート×2)を含む)のまま調剤を行うことが望ましいとされている。

もう一言

類似事例を以下に示す。

<処方2>50歳代の女性。病院の外科。オーダー/印字出力。

グリベック錠100mg 6錠 1日1回 朝食後 20日分

薬剤師は、1箱が100錠入だと思い込み、1箱(未開封)と2シート(1シートは10錠)を調剤したが、グリベック錠は1箱が120錠入であるため、間違えて140錠(20錠過量)を投薬してしまった。

1箱が100錠入と思い込んでしまった理由は、ケースの表面に記載されている規格単位100mgの数字に惑わされてしまったことによる。

[参考資料]
ジオトリフ 添付文書
(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 2020年3月改訂)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年5月31日

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