禁忌薬の認識不足で妻が自身への処方薬を夫と共用
妻が自身に処方された消化剤<ピーマーゲン配合散>を、透析患者である夫に服用させていた。
<処方1>70歳代の女性。病院の神経内科。
ピーマーゲン配合散 | 4.5g 1日3回 毎食後 28日分 |
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他5種類 |
<効能効果>
●ピーマーゲン配合散<成分は[もう一言]参照>
下記消化器症状の改善
食欲不振、胃部不快感、胃もたれ、嘔気・嘔吐
今回、透析患者である夫の定時薬を、代理で来局した妻に交付した。
その際に妻は「最近、夫の胃の調子が悪く、極端に食欲がない」と薬剤師に訴えた。
夫は以前よりセルベックスカプセル50mg<テプレノン>とタケプロンOD錠30mg<ランソプラゾール>を継続服用していたが、薬剤師は改めて次回の透析時に医師にも相談するよう妻に勧めた。
すると妻は「私の消化剤を飲ませているから、とりあえずは大丈夫です。消化剤だから大丈夫でしょ?」と答えた。
妻の薬も当薬局で交付していたため、薬剤師が処方内容を確認したところ、妻の言う“消化剤”はピーマーゲン配合散<処方1>であった。ピーマーゲン配合散は合成ケイ酸アルミニウムを含有しており、透析患者は禁忌である。
さらに、夫は高リン血症の治療のためにカルタンOD錠500mg<沈降炭酸カルシウム>も服用しているので、沈降炭酸カルシウムが重複することになる。
妻にとって<処方1>は単なる“消化剤”であり、“消化剤”は誰が飲んでも(透析患者でも)問題は無いという認識をしていたため、自己判断で夫の胃の不調時に何度も服用させていた。
家族であっても、自分への処方薬を勝手に他の人に飲ませたり、使用させたりしないよう指導する。また、その点は認識していても、消化剤程度なら問題ないであろうと考えている患者も少なくないことを認識すべきである。
透析患者に対しては、日々の生活で注意すべき事を患者本人と家族に前もって伝える必要がある。透析患者および患者の家族に対して、薬識のレベルアップを図る必要がある。
ピーマーゲン配合散の製剤1g中には、以下が含有されている。
○有効成分
ジアスターゼ100mg、合成ケイ酸アルミニウム400mg、炭酸水素ナトリウム200mg、沈降炭酸カルシウム200mg、ケイヒ末60mg、ウイキョウ末20mg、ショウキョウ末15mg、センブリ末2mg、サンショウ末1mg
○添加物
l-メントール
また、禁忌事項は以下である。
(1)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
(2)透析療法を受けている患者[長期投与によりアルミニウム脳症、アルミニウム骨症、貧血等があらわれるおそれがある。]
(3)ナトリウム摂取制限を必要とする患者(高ナトリウム血症、浮腫、妊娠高血圧症候群等)[ナトリウムの貯留増加により症状が悪化するおそれがある。]
(4)高カルシウム血症の患者[血中カルシウム濃度が上昇し、症状が悪化するおそれがある。]
(5)甲状腺機能低下症又は副甲状腺機能亢進症の患者[血中カルシウム濃度の上昇により病態に悪影響を及ぼすおそれがある。]
[参考資料]
ピーマーゲン配合散 添付文書
あゆみ製薬株式会社 2019年1月改訂(第10版)
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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