Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例156

お薬手帳の外来がん化学療法施行記録から制吐薬の処方漏れを発見

ヒヤリした!ハットした!

外来がん化学療法を施行されたにもかかわらず、内服の制吐薬が処方されていなかった。

<処方1>60歳代の女性。病院の呼吸器内科。処方オーダリング。

調剤用パンビタン末 1g1日1回 朝食後24日分
ウルソ錠100mg 6錠1日3回 毎食後24日分

<処方2>

調剤用パンビタン末 1g1日1回 朝食後24日分
ウルソ錠100mg 6錠1日3回 毎食後24日分
デカドロン錠0.5mg 8錠1日2回 朝昼食後2日分

*お薬手帳に外来化学療法の施行記録あり。

<効能効果>

●デカドロン錠0.5mg<デキサメタゾン>
○抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)
他多数

どうした?どうなった?

患者は肺癌のため呼吸器内科を定期受診し、外来がん化学療法レジメンとしてPEM+CBDCA(ペメトレキセド+カルボプラチン)の投与を受けている。今回は処方1が出されたが、これまで当該患者の化学療法施行時には、制吐薬として内服のデカドロン錠0.5mg<デキサメタゾン>が院外処方されていた(処方2)。また、患者の薬歴には、白血球数低下のため、投与予定の外来がん化学療法を過去2回延期したことが記載されていた。

患者が持参したお薬手帳には、今回の外来がん化学療法の詳しい内容が記載されており、その内容や患者本人の話から、今回は外来がん化学療法が施行されていることを確認した。そのため、薬剤師は制吐薬が処方されていないことに疑問を持った。
そこで医師に疑義照会したところ、処方忘れであることが判明し、デカドロン錠0.5mgが処方追加となった(処方2と同じ)。

なぜ?

過去2回の受診では外来がん化学療法の延期によりデカドロン錠の処方も中止されていたため、今回、医師が追加するのをうっかり忘れてしまったものと思われる。

ホットした!

最近では、本事例のようにお薬手帳などを用いて、患者が病院内で受けた外来がん化学療法のレジメンを情報提供している医療機関が増えてきている。薬局の薬剤師も化学療法レジメンの内容を理解できるよう研鑽するとともに、提供される情報を処方チェックや服薬指導に活かしていく必要がある。

デキサメタゾン、アプレピタントなどの経口制吐薬は、外来で院外処方されることが多く、本事例のように、処方忘れとなることが少なくないので、注意する必要がある。

もう一言

非小細胞肺癌へのPEM+CBDCA(ペメトレキセド+カルボプラチン)療法の一例を以下に示す。

3週毎に3~6コース行われる。
<レジメン>
Day1 抗癌薬投与1時間半前にアプレピタントカプセル(125mg)1Cを内服
(1)生食500mLで血管確保 維持(20mL/時間)
(2)アロキシ注0.75mg+生食20mL 側管静注
(3)デキサメタゾン注4.95mg(1.5mL)+生食20mL 側管静注
  ◎メインの生食でフラッシュ
(4)アリムタ+生食100mL 点滴10分(600mL/時間)
  ◎メインの生食でフラッシュ
(5)カルボプラチン+5%ブドウ糖液250mL 点滴60分(280mL/時間)
  ◎終了後メインの生食でルート内フラッシュ

Day2,3 アプレピタントカプセル(80mg)1Cを1×朝に内服

Day2-4 必要時にデキサメタゾン錠4mgを1×朝に内服

[参考]
PEM+CBDCA 療法
福岡大学化学療法プロトコール審査委員会承認(平成 21 年 12 月 1 日)A0125

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年2月8日

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