Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例155

テルネリン錠の増量処方を見落とし調剤

ヒヤリした!ハットした!

患者への処方が、テルネリン錠について『3錠1日3回毎食後』から『6錠1日3回毎食後』へ変更となっていたが、『3錠1日3回毎食後』のままで調剤してしまった。

<処方1>80歳代の女性。整形外科クリニック。処方オーダリング。

テルネリン錠1mg 6錠1日3回 毎食後28日分
メチコバール錠500µg 3錠1日3回 毎食後28日分
他併用薬あり

<効能効果>

●テルネリン錠1mg<チザニジン塩酸塩>
○下記疾患による筋緊張状態の改善
頸肩腕症候群、腰痛症
○下記疾患による痙性麻痺
脳血管障害、痙性脊髄麻痺、頸部脊椎症、脳性(小児)麻痺、外傷後遺症(脊髄損傷、頭部外傷)、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症

どうした?どうなった?

患者は頸部脊椎症で、これまで1年近く整形外科クリニックに通院し、門前の当該薬局で投薬を受けていた。
薬剤師(当該薬局に在籍して1年程度)は、処方せんを受け取ったとき、「いつもと同じテルネリンか」と感じた。患者が通っていた整形外科では、テルネリン錠はほとんどの患者に対して『3錠1日3回毎食後』で処方されるので、“いつもの整形外科、いつものテルネリン”と思い、『3錠1日3回毎食後』で調剤した。

集薬後、薬剤師が処方せんをよく見ると「6錠1日3回毎食後」と記載されていたため、あわてて調剤し直し、正しく調剤を行って薬剤を交付した。

なぜ?

ほとんどの患者に対して、テルネリン錠は『3錠1日3回毎食後』で処方されていたため、いつもの処方だと完全に思い込んで調剤した。

また、痙性麻痺の場合、添付文書上の用法用量は「チザニジンとして1日3mgより投与を始め、効果をみながら1日6~9mgまで漸増し、1日3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。」であるが、薬剤師は効果をみながら漸増することを認識していなかった。

ホットした!

「前回処方と同じか?相違しているか?」の確認は基本中の基本であり、変更されている場合には、患者への確認(疾患の変化、用法用量の変化など)と、疑義があれば医師への問い合わせを行う。

もう一言

添付文書の用法用量において、増量しながら治療を進めることが規定されている薬剤は非常に多い。増量が規定されている薬剤には二つのタイプがある。

(1)初回量から治療量であり、効果をみながら更に漸増するタイプ
例)チザニジン塩酸塩(本事例のテルネリン錠など)

(2)初回量は副作用を回避するためで、増量によって治療量になるタイプ
例)ドネペジル塩酸塩(アリセプトD錠など)
アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制に使用する場合の用法用量は、
『通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により適宜減量する。』
であり、加えて
『3mg/日投与は有効用量ではなく、消化器系副作用の発現を抑える目的なので、原則として1~2週間を超えて使用しないこと。』
との注意が喚起されている。

(2)のタイプであれば、原則として投与量の増量が必要であることから、薬剤師は処方せんチェックの対象として、例えば3mg→5mg(→10mg)と増量が行われているかどうか注視しているであろう。

しかし、(1)のタイプでは、用量の変更を見逃すことがある。その要因として、本事例の様に、これまで変更前の用量での処方がほとんどであったことや、変更後の用量で使用されることの認識がなかった(添付文書の用量について知らなかった)ことなどが考えられる。

[参考]
チザニジン塩酸塩錠(日本薬品工業株式会社)
2019年 6 月作成(第 1 版)

日本薬局方 ドネペジル塩酸塩錠(ニプロ株式会社)
2017年5月改訂、2019年3月改訂(第6版)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年2月8日

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