プラリア皮下注には天然型のデノタスが必須と勘違い
プラリア皮下注<デノスマブ>が投与されている患者に対して、これまではデノタスチュアブル配合錠<沈降炭酸カルシウム・コレカルシフェロール(天然型ビタミンD)・炭酸マグネシウム>が処方されていたが、副作用を訴えたためにエディロール<エルデカルシトール>とアスパラ-CA<L-アスパラギン酸カルシウム水和物>に変更となっていた。
薬剤師は、プラリア皮下注の場合には、活性型ビタミンD製剤のエディロールではなく、天然型ビタミンD製剤を併用しなくてはいけないと思い込んでおり、医師に疑義照会を行ったが、処方変更されなかった。
<処方1>60歳の女性。病院の整形外科。処方オーダリング。
エディロールカプセル0.75µg | 1Cap 1日1回 朝食後 28日分 |
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アスパラ-CA錠200 | 2錠 1日1回 朝食後 28日分 |
<効能効果>
●エディロールカプセル0.75µg<エルデカルシトール>
骨粗鬆症
●デノタスチュアブル配合錠<沈降炭酸カルシウム・コレカルシフェロール・炭酸マグネシウム>
RANKL阻害剤(デノスマブ(遺伝子組換え)等)投与に伴う低カルシウム血症の治療及び予防
患者には、前回初めてデノタスチュアブル配合錠<以下デノタス>が処方された。病院内でプラリア皮下注を注射したことと、腎障害がないことを確認して投薬した。
ところが、今回、デノタスが中止され、<処方1>のエディロールとアスパラ-CAに変更されていた。変更理由は、前回のデノタスを服用して気分が悪くなったためであるということを患者に確認した。
薬剤師は、血中のCa濃度が上がりすぎる可能性があるため、デノスマブには天然型ビタミンD製剤を併用するべきで、活性型ビタミンD製剤は適切ではないと理由も伝えて疑義照会を行った。しかし、処方変更はされなかった。
その疑義照会を聞いていた他の薬剤師から、「デノスマブに活性型ビタミンDを併用するのはよくあることで、特に問題がないはずだ。」と助言があった。念のためメーカーにも確認したところ、血中Ca濃度が適切に管理されていれば、活性型ビタミンD製剤の併用は問題ないことが分かった。
担当した薬剤師は、プラリア皮下注と同一成分薬であるランマーク皮下注120mg<デノスマブ>のブルーレターにおいて、「天然型ビタミンDとして400IUの投与を行う」と記載されていたのを、天然型ビタミンDでなければいけないと勘違いして記憶していた。
さらに、薬剤師はデノタスを詳しく勉強しており、開発の経緯([もう一言]参照)も認識していたため、デノスマブにはデノタスが必須であると、更に強く思い込んでしまった。
プラリア皮下注は薬局で直接扱っていないこともあり、情報収集が不十分であったと思われる。
直接取扱いのない注射剤であっても、特に薬局で取り扱う製剤に関連するものに関しては、勉強会を行う/勉強会に参加するなど、正確な医薬品情報を収集して理解する。
●ランマーク皮下注のブルーレター(一部抜粋)
本剤による重篤な低カルシウム血症の発現を軽減するため、血清補正カルシウム値が高値でない限り、毎日少なくともカルシウムとして500mg及び天然型ビタミンDとして400IUの投与を行ってください。ただし、腎機能障害患者では、ビタミンDの活性化が障害されているため、腎機能障害の程度に応じ、ビタミンDについては活性型ビタミンDを使用するとともに、カルシウムについては投与の必要性を判断し、投与量を適宜調整してください。
●デノタスチュアブル配合錠の開発の経緯(インタビューフォームから一部抜粋)
Q.プラリアを投与する上で、低カルシウム血症の予防には、天然型ビタミンDと活性型ビタミンDのどちらを使用したほうがよいですか?
A.プラリアの国内第III相臨床試験では、全ての患者に対して、治験期間中に毎日少なくとも600mgのカルシウム及び400IUの天然型ビタミンDが補充されていました。
腎機能障害患者さんや、既に活性型ビタミンDを使用している患者さんにおいては、適宜、活性型ビタミンDを使用するとともに、カルシウムについては投与の必要性を判断し、投与量を調整してください。なお、活性型ビタミンDを投与している骨粗鬆症患者において、天然型ビタミンDを含有するデノタス等の製剤を用いて補充することは、相加作用による高カルシウム血症が発現する可能性があることから推奨できません。
また、投与開始後早期及びその後も定期的に血清カルシウム値を測定し、血清補正カルシウム値の変動や、痙攣、しびれ、失見当識等の症状に注意してください。
[参考文献]
ランマーク®皮下注120mg による 重篤な低カルシウム血症について
2012年9月、第一三共株式会社より
デノタスチュアブル配合錠の医薬品インタビューフォーム
2017年4月改訂(第5版)、第一三共株式会社より
プラリア皮下注60mgシリンジ」のよくある質問
第一三共株式会社より
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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