患者からの申告がなく緑内障既往歴を把握せずに投薬
ポララミン錠2mg<d-クロルフェニラミンマレイン酸塩>とセレスタミン配合錠<ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩>が処方された患者は、自身が緑内障であると処方医に伝えていなかった。翌日に薬局へ来局し、「夕食時に薬情を見て怖くなり、処方された薬は飲めなかった」と、薬剤師に申し出た。投薬時、患者は緑内障治療の点眼薬を使用していることは医師や薬剤師に申告する必要はないと思い込んでいた。
<処方1>60歳代の女性。病院の内科。処方オーダリング。
ポララミン錠2mg | 2錠1日2回 朝夕食後 3日分 |
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セレスタミン配合錠 | 2錠1日2回 朝夕食後 3日分 |
アンテベート軟膏0.05% 10g | 1日3~4回塗布 |
<効能効果>
●ポララミン錠2mg<d-クロルフェニラミンマレイン酸塩>
蕁麻疹、血管運動性浮腫、枯草熱、皮膚疾患に伴う瘙痒(湿疹・皮膚炎、皮膚瘙痒症、薬疹)、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、感冒等上気道炎に伴うくしゃみ・鼻汁・咳嗽
●セレスタミン配合錠<ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩>
蕁麻疹(慢性例を除く)、湿疹・皮膚炎群の急性期及び急性増悪期、薬疹、アレルギー性鼻炎
患者は、毛虫に刺されたために<処方1>の薬剤が処方された。投薬時、薬剤師が他の医療施設などからの薬剤を使用しているかどうかをチェックしたが、特に使用している薬剤はないとの返答であった。
薬剤を交付した翌日、患者が来局し、薬情を見て、自分が緑内障を患っていたため怖くなり、処方薬を服用できなかったとの申し出があった。
薬情には以下のように記載されていた。
「緑内障、前立腺肥大など(下部)尿路に閉塞性疾患のある方は使う前に必ず担当の医師と薬剤師に伝えてください。」
薬剤師が処方した内科医に服用可能かどうか確認したところ、「短期間なので服用しても問題ないのではないか。」とのことであった。念のため眼科医へ確認するようにとの指示があったため、眼科医に連絡したところ、薬の服薬に関して制限がないことを確認した。
もともと訴えの多いタイプであった当該患者が、今回の投薬時に、「症状が強く、一刻も早く薬が欲しい。」と述べていたため、薬情を用いるなどしての十分な服薬指導が行えていなかった。
当時は薬剤師が一名で患者が何人か待っており、薬剤師は混乱していた。薬剤師は、薬歴を数回前までしか確認しておらず、それ以前はチェックしなかった。後でわかったことであるが、1年以上前の薬歴の併用チェック欄に『チモプトール点眼薬使用中(他薬局で交付)』とあったが、最近の薬歴では、理由は不明であるが『併用なし』と記録されていた。そのため、他院での緑内障の治療経過を把握していなかった薬剤師は、緑内障治療のための点眼薬を使用中であることに気づかなかった。
患者の話によると、「目薬程度あれば、医師や薬剤師には伝える必要がないだろう。」と思っていたとのことであった。
他医療施設で処方され、他薬局で交付されて使用している点眼薬などの外用薬のチェックは見逃すことが多いので、使用している薬があるかどうか投薬時にしっかりと確認する。
患者が急いでいる、薬局が混み合っているなど、服薬指導に十分な時間がとれない状況であっても、特にクロルフェニラミンマレイン酸塩が処方された場合には、最低限、口頭で『緑内障の既往歴はないか』などの確認を行う必要がある。
患者の中には、「たかが点眼薬」、「緑内障患者に禁忌となる飲み薬などはない」と考え、緑内障で点眼薬を使用していることを申告しない人が存在することを認識する。
類似のパターンとして、「たかが点眼薬」、「点眼薬で全身系の副作用が起こることはない」と考える患者が存在した、という事例を以下に示す。
緑内障患者が徐脈の副作用を点眼薬によるものと思わず放置
<処方2>60歳代の女性。
ミケランLA点眼液1% | 全1本 1日1回 1回1滴右目に点眼 |
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患者は、最近受けた人間ドックで高眼圧を指摘され、精密検査の結果、緑内障と診断された。ミケランLA点眼液(カルテオロール塩酸塩、β遮断薬)を使用して1ヵ月ほどしたとき、患者は朝の点眼後、脈の間隔が長くなるような気がしたという。
しかし、まさか点眼薬が徐脈の原因ではないだろうと思い、医師や薬剤師に話していなかった。
ある時、患者が眼科医院での診察を終えて薬局を訪れた際、薬剤師が患者へ服薬指導する中で徐脈の自覚症状が判明した。処方医に連絡したところ、副作用回避の観点からミケラン点眼液は中止となった。その代わりにトルソプト点眼液0.5%(ドルゾラミド塩酸塩、炭酸脱水酵素阻害薬)が処方された。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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