Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例148

患者が残薬のセフゾンカプセルを今回の処方薬と勘違いし服用

ヒヤリした!ハットした!

患者は、今回処方されたセフカペンピボキシル塩酸塩錠を服用せず、以前に処方されて残薬となっていたセフゾンカプセル<セフジニル>を同じ薬と思い込み、服用してしまった。その後、赤色尿を呈したと薬剤師に報告した。

<処方1>50歳代の女性。病院の内科。今回の処方。

【般】セフカペンピボキシル塩酸塩錠100mg 3錠 1日3回 毎食後4日分

<処方2>1ヵ月前の処方。

セフゾンカプセル100mg 3Cap 1日3回 毎食後7日分

<効能効果>

●セフゾンカプセル50mg・100mg<セフジニル>
<適応症>
・表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、麦粒腫、瞼板腺炎、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎

●セフカペンピボキシル塩酸塩錠75mg・100mg「サワイ」<セフカペンピボキシル塩酸塩>
<適応症>
・表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎、子宮頸管炎、胆嚢炎、胆管炎、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎

どうした?どうなった?

扁桃炎のため受診した患者に<処方1>が処方された。服用終了後に、患者は来局し、「この間もらった薬で尿が赤くなった。」と訴えた。
セフカペンピボキシル塩酸塩ではそのような副作用は見られないため、薬剤師は返答できなかった。しかし薬歴を遡って見ると、約1ヵ月前に<処方2>の通りセフゾンカプセルが処方されていたことがわかったため、薬剤師は患者に「もしかして、1ヵ月前に処方されていたセフゾンという薬を飲まれたのではないですか?」と尋ねたところ、患者は驚いたように「今回のもセフゾンでしょ。同じ薬だから古い方から飲まなければと思って、残っていた3日分を飲んだのよ。」と答えた。
そこで薬剤師は、今回の処方はセフゾンではないことと、残薬のセフゾンでは尿が赤くなることを説明した。また、抗菌薬は処方日数をきちんと服用し、残薬を服用しないように伝えた。

なぜ?

詳細に話を聞くと、患者は処方せんの一般名の頭二文字「セフ」の部分を見て、1ヵ月前に処方されていたセフゾンだと思い込んだ。このとき患者は錠剤とカプセルの違いも記憶していなかった。
セフェム系抗生物質の一般名、先発名は良く似ている場合(特に「セフ」で始まるもの)が多いので、薬剤師でも処方鑑査や計数調剤などの場面でよく間違うことがある。しかし、患者も同様の薬名類似に基づく服薬ミスを起こすことは想定していなかった。

ホットした!

一般名処方(特にセフェム系抗生物質)が出された場合には、薬歴を遡り患者が間違う可能性の高い薬名の医薬品が過去に処方されていないかのチェックを行うことも必要であろう。
残薬を生じさせないように、特に急性疾患で短期間だけ処方されているような薬剤に関しては残数のチェックを行い、患者の同意を得て回収することも考える。

もう一言

セフゾンカプセル<セフジニル>の使用上の注意に以下の記載がある。

(1)粉ミルク、経腸栄養剤など鉄添加製品との併用により、便が赤色調を呈することがある。
(2)尿が赤色調を呈することがある。

他に赤色尿となる薬剤には以下が知られている。

・チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン)
本剤の代謝物により、赤味がかった着色尿がみられることがある。
・チメピジウムヒベンズ酸塩(セスデン)
本剤の代謝物により、赤味がかった着色尿があらわれることがあるので、ウロビリノーゲン等の尿検査には注意すること。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2021年10月14日

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