Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例147

中止すべきバイアスピリンを患者が誤って服用

ヒヤリした!ハットした!

患者は、11/27に処方せん(バイアスピリン錠100mg<アスピリン>を含む)を薬局に預けて、翌日11/28の昼に一包化された薬を取りに来た。実は、内視鏡検査のために11/28の朝からバイアスピリン錠を中止する指示が出ていたが、患者は11/28の朝にバイアスピリン錠を含む手持ちの一包化薬を服用してしまっていた。薬剤師は、11/27に11/28からの中止の指示に関して説明していなかった。

<処方>70歳代の女性。病院の神経内科。11月27日。

バイアスピリン錠100mg 1錠1日1回 朝食後 28日分 11/28~中止
他8種類一包化指示

<効能効果>

●バイアスピリン錠100mg<アスピリン>
○狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞・虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)における血栓・塞栓形成の抑制
○冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制
○川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)

どうした?どうなった?

一包化調剤に時間がかかるため、患者はいつも処方せんを薬局に出した翌日に薬を取りに来ていた。今回は11/27に、<処方>の内容が記載された処方せんと、12/1の内視鏡検査のために中止する薬剤や注意点などが記載された病院からの説明書を薬局で預かった。患者からは、検査前の中止薬があるので、わかるようにしてほしいと口頭で依頼を受けていた。
薬剤師は、11/28~12/1はバイアスピリン錠の中止指示が出ていたので、バイアスピリン錠を含まない一包化薬には日付を入れて中止日がわかるように調剤を行った。

翌日、11/28の昼頃に患者が来局した。薬剤師は薬を交付しようとして、その日の朝の服用分からバイアスピリン錠を抜く必要があったことに気付いたが、患者は既に前回交付した手持ちの朝服用分の一包化薬(バイアスピリン錠を含む)を服用していた。
薬剤師が医師に顛末を連絡したところ、「今回の内視鏡検査では大きな出血はないだろうから、明日からバイアスピリンを中止すればよい」との指示を得た。
医師の回答を患者に伝えが、患者は「説明書を薬局に渡していたにも関わらず、どうしてこんなことになるのか。飲んでしまったものはしょうがないから、医者もそう言うしかないだろう。」と、しばらく怒りが収まらなかった。

なぜ?

調剤および鑑査の段階では、バイアスピリン錠を11/28~12/1の一包化分から外し、日付を記載して、患者が混乱せず服用できるようにすることに意識が集中してしまっていた。そのため、「翌日に薬を取りに来る」患者であったが、翌日の朝分からバイアスピリンを中止することを患者に事前に連絡すべきであることに考えが至らなかった。
また、内視鏡検査のため中止する薬剤や注意点などが記載された病院からの説明書を受け取っていたにもかかわらず、患者と薬剤師はきちんと確認していなかった。

ホットした!

処方せんを薬局へ提出して翌日以降に薬を取りに来る予定の患者に関しては、日付指定や早急に服用すべき臨時薬などがないかを、処方せんを受け取った時点で確認する必要がある。また、今回のように、自宅残薬(当日は服用してはいけない薬)を服用してしまってから来局する可能性もあるので、前日に服用しないように注意喚起する必要がある。
患者から預かった医療機関からの書類は必ず確認し、必要に応じて適切な対応を行わなければならない。

もう一言

内視鏡施行時における抗血小板薬・抗凝固薬の休薬について表にまとめた。

表.内視鏡施行時における抗血小板薬・抗凝固薬の休薬(単独投与時)

観察 生検 出血低リスク 出血高リスク
アスピリン ▲なら○
▼なら3-5日休薬
▲なら○
▼なら3-5日休薬
▲なら○
▼なら3-5日休薬
チエノピリジン ▲なら○
▼なら5-7日休薬
▲なら○
▼なら5-7日休薬
▲ならASA,CLZ置換
▼なら5-7日休薬
チエノピリジン
以外の抗血小板薬
1日休薬
ワルファリン □なら○
△なら内視鏡禁
□なら○
△なら内視鏡禁
ヘパリン置換
ダビガトラン ヘパリン置換

◎:休薬不要 ASA:アスピリン
○:休薬不要で可能 CLZ:シロスタゾール
▲:血栓症高リスク □:PT-INR治療域内
▼:血栓症低リスク △:PT-INR治療域超

ポケット医薬品集2021年版より引用

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2021年10月14日

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