前回処方年月日を見誤り、的外れな服薬指導
薬剤師は、前回(薬歴の月日だけを見ると1ヶ月程前)はネリプロクト軟膏<ジフルコルトロン吉草酸エステル・リドカイン>が処方されていたので、今回は処方が強力ポステリザン軟膏<大腸菌死菌・ヒドロコルチゾン>に変更になっていると思った。しかし、前回は3年前であり、変更になったのではなかったのにも関わらず、不適な服薬指導を行ってしまった。
<処方>40歳の男性。病院の消化器内科。処方オーダリング。6月25日。
強力ポステリザン(軟膏)56g | 1回2g 1日2回 肛門部に塗布 |
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<効能効果>
●強力ポステリザン(軟膏)<大腸菌死菌・ヒドロコルチゾン>
・痔核・裂肛の症状(出血、疼痛、腫脹、痒感)の緩解、肛門部手術創、肛門周囲の湿疹・皮膚炎、軽度な直腸炎の症状の緩解
投薬時に薬歴を見ると、前回(5月20日)はネリプロクト軟膏が処方されていたので、今回(6月25日)は強力ポステリザン軟膏に処方変更となったのだと思った。そこで、「今回、坐薬が変更になりましたね。症状が軽くなってきたのですか?」と説明したところ、患者は困惑した表情を示した。再度、薬歴をきちんと読むと、当該患者は3年振りの来局であり、薬が変更になったわけではなかった(ネリプロクト軟膏は3年前の処方薬であった)。
投薬時に、薬歴の前回処方の年月日などをきちんと確認せずに投薬しようとした。『年』が違っても月日が比較的近かったため、月日だけを確認し、前回の処方と関連のある薬(今回の事例では痔にかかわる薬)だったことから、つい最近の処方と勘違いしてしまった。
投薬前にきちんと薬歴の基本情報(患者名、年齢、前回以前の処方の年月日、医療機関名、処方医名など)などを確認することを徹底する。
特に、今回の事例からもわかるように、担当者が処方入力する際に、前回来局年月日を必ず確認し、前回来局日から期間があいていれば投薬者に注意を促すことが重要である。しばらく来局していない場合には、他医療機関、他診療科を受診している場合や、併用薬、検査値などに関する情報が変化している可能性がある。
薬歴をよく確認しなかったことでトラブルが発生した事例を以下に示す。
同一日に行われた追加処方の薬歴チェックを行わず併用禁忌を見逃し
<処方1>に<処方2>が追加処方された際に、薬剤師が薬歴チェックを怠り、併用禁忌であるトリプタノール錠とエフピー錠が併用されることとなってしまった。
<処方1>70歳代の女性。病院の内科。処方オーダリング。
トリプタノール錠10 | 3錠 1日3回 毎食後 28日分 |
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ドプスOD錠100mg | 3錠 1日3回 毎食後 28日分 |
塩化ナトリウム | 3g 1日3回 毎食後 28日分 |
パナルジン錠100mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 28日分 |
アダラートL錠10mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 28日分 |
タナトリル錠5 | 0.5錠 1日1回 朝食後 28日分 |
<処方2>
エフピーOD錠2.5mg | 1錠 1日1回 朝食後 28日分 |
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患者は介護施設に入所中の患者であり、施設の看護師が代わりに<処方1>の薬を取りに来た。
看護師に薬を交付した当日の午後8時過ぎに、処方を出した病院から電話があり、エフピーOD錠(<処方2>)を処方し忘れたため、翌日朝に施設へ届けてほしいと依頼があった。
翌日、患者に薬を届けた後、薬局に戻り薬歴を記載しようとしたときに、トリプタノール錠とエフピーOD錠が併用禁忌であることに気づいた。
すぐに施設に電話をしたが、すでに患者はエフピーOD錠を1錠服用済みであった。処方医に電話で報告した結果、残りのエフピーOD錠は回収するよう指示がでたため、患者からエフピーOD錠を回収した。幸いなことに、併用時もその後も、患者の容態に変化は認められなかった。
急いで届けることに気を取られたこともあって、エフピーOD錠が追加された時点で、直前に処方された薬剤(<処方1>)との相互作用を薬歴に基づいてきちんと確認できていなかった。
本処方の後に、時間をおいて同じ医師から追加処方された場合であっても、「追加処方は他施設・複数科診療時に発行される処方と同じ!」という考えをもって、これまでの薬歴をチェックすることによって処方が適正かどうかを確認する必要がある。
また当然のことであるが、同一患者に複数の処方せんが交付された場合(いくつかの診療科を受診した場合、複数施設を受診した場合など)、すべての処方せんを照らし合わせて鑑査するとともに、薬歴も必ず確認するように徹底しなければならない。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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