セルニルトン服用が花粉症に効くという仮説
服薬指導時に、疾患の症状などについて色々と聴取していたが、薬剤師は、患者が述べたことの意味が理解できなかった。
患者:「医師から、セルニルトンを飲んでいるから、今年は花粉症の症状が軽い可能性があると言われた。」
<処方1>60歳代の男性。病院の泌尿器科。処方オーダリング。
セルニルトン錠 | 6錠 1日3回 毎食後28日分 |
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<効能効果>
●セルニルトン錠<セルニチンポーレンエキス>
・慢性前立腺炎
・初期前立腺肥大症による次の諸症状:排尿困難、頻尿、残尿及び残尿感、排尿痛、尿線細小、会陰部不快感
患者は前立腺炎で、昨年末からセルニルトン錠<セルニチンポーレンエキ>を服用していた。毎年、花粉症の症状が強く出ていたが、今年は症状が軽いと医師に伝えたところ、医師は次の様に述べたとのことであった。
医師:「セルニルトンを服用しているせいではないか?セルニルトンは花粉が原料の薬だから。これは大発見かもしれない。」
投薬時に患者からその話を聞いた薬剤師は、セルニルトン錠は植物エキスが原料であることは知っていたが、花粉からできていることを知らず、更に花粉症を軽減する作用があるのかどうかの知識もなかったため、何も答えることができなかった。
投薬後にメーカーに確認したところ、セルニルトン錠に花粉症を軽減するような効果に関する確実な情報はなく、そのような作用はないと思われるとの回答であった。
医師は、セルニルトン錠が花粉エキス製剤であることから、スギ花粉症の減感作療法(アレルゲン免疫療法)に用いるシダキュアスギ花粉舌下錠<スギ花粉エキス>のことをイメージした可能性がある。
一方、薬剤師はセルニルトン錠を調剤する機会がそれほど多くなく、薬剤の知識が不足していた。
薬剤の効能効果や用法用量のみではなく、製剤特性なども把握する必要がある。可能ならば、製剤特性から、人はどの様な思いを巡らすかを推測することも必要かもしれない。
花粉は、古来スウェーデンにおいて栄養剤、抗感冒剤、強壮剤などに用いられていたが、1960年にAsk-Upmarkは、ABセルネレ社の花粉製剤セルニルトン錠を前立腺炎の治療に用い、その有効性を発表した。続いて1962年にLeanderは、セルニルトン錠の有効性を二重盲検法によって確認し、本剤の効果は明らかなものとなった。
セルニルトン錠の1錠中には、セルニチンポーレンエキスが63mg含まれる。セルニチンポーレンエキスは、南スウェーデンのスカニヤ地方北西部に産する8種類の植物(チモシイ、トウモロコシ、ライムギ、ヘーゼル、ネコヤナギ、ハコヤナギ、フランスギク、マツ)の花粉の混合物を微生物消化した後、水で抽出して得た粉末エキス(セルニチンT-60)と、有機溶媒抽出の軟エキス(セルニチンGBX)を、20:1の比率で含む。セルニチンポーレンエキスが花粉症に効果があるといった確実なデータは無い。
セルニルトン錠、インタビューフォームを一部改変
[文献]
セルニルトン錠の医薬品インタビューフォーム
2010 年 1 月改訂(改訂第 6 版)、東菱薬品工業株式会社より
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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