患者の認識と処方内容に違和感を覚え疑義照会
今回、大幅な処方変更になっていたため患者に確認したところ、患者の認識と処方変更内容、処方日数に相違があった。疑義照会したところ、医師による処方の誤りと患者による認識の誤りがあることが発覚した。原因としては、病院側の処方オーダリングシステムの新規導入と患者の物忘れ(記憶障害)の可能性が考えられた。
<処方1>60歳代の男性。総合病院の内科。処方オーダリング。10月1日
グリミクロン錠40mg | 2錠 1日2回 朝夕食後28日分 |
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クレストール錠2.5mg | 1錠 1日1回 朝食後28日分 |
アムロジン錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後28日分 |
メトグルコ錠250mg | 2錠 1日2回 朝夕食後28日分 |
ベザトールSR錠200mg | 1錠 1日1回 朝食後28日分 |
<処方2>10月30日(変更前)
グリミクロンHA錠20mg | 2錠 1日2回 朝夕食後6日分 |
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クレストール錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後6日分 |
アムロジン錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後6日分 |
<処方3>10月30日(変更後)
グリミクロン錠40mg | 2錠 1日2回 朝夕食後6日分 |
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クレストール錠2.5mg | 1錠 1日1回 朝食後6日分 |
アムロジン錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後6日分 |
<効能効果>
●メトグルコ錠250mg・500mg<メトホルミン塩酸塩>
2型糖尿病
ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る。
(1)食事療法・運動療法のみ
(2)食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用
患者は慢性疾患で内科、脳外科を受診していた。今回、<処方1>から<処方2>に変更になっていた。鑑査を担当した薬剤師は、今回の急激な処方変更を不自然に感じて、患者に確認したところ、患者は「今度、造影剤を使うので中止する薬があると聞いており、グリミクロンやクレストールの増減は聞いていない。血糖値が高いから糖尿病の注射をして、頸動脈が狭いからその手術をする。11月11日の午前中に入院して、その日の午後から手術する。自宅に薬がほとんど残っていないので、6日分だと足りないが、入院前に受診はしない。」と回答した。
患者の話から、処方内容に不明瞭な点があったため、以下の3点を疑義照会した。
1)今回はメトグルコとベザトールSRの2剤の処方中止で問題ないか?
2)規格単位が変更されておりグリミクロンが減量、クレストールが増量になっているが問題ないか?
3)11月11日の入院まで6日分だと薬が足りないが問題ないか?
外来診療の事務職員を介して、メトグルコとベザトールSRは今回処方中止でよいこと(メトグルコの中止については[もう一言]を参照、ベザトールSRが中止された理由や患者の腎機能は不明)、グリミクロンとクレストールは増減せずにこれまでと同じ用量であることを確認した(<処方3>)。さらに、まず11/5に内科に入院してインスリンで血糖コントロールをしてから、11/11に脳外科で手術をするので、今夜から服用すれば入院する11/5の朝分まで6日分で足りるはずである、と回答があった。
当該病院は、最近新たにオーダリングシステムを導入したため、処方内容はすべて医師が改めて入力している。その際に、グリミクロンおよびクレストールの規格単位を選び誤った可能性がある。
患者に、入院は11/11ではなく11/5であるため、今回の処方は6日分あれば足りることを伝えたが、患者は11/5に入院することを全く認識していなかった。病院では11/5に内科で入院することを患者に詳しく説明しており、患者は入院予約票(入院は11/5と記載)も持参していた。患者は前回投薬時にも、直前に病院で受けた説明を失念していたため薬局から確認した経緯があり、認知症等の記憶障害の可能性も疑われた。
不自然な処方変更があった場合には、気づいた段階で患者および処方医に照会する。患者の話のみを鵜呑みにせず、処方医に確認することが大切である。特に、薬歴などに患者の物忘れなどの記載がある場合には注意する必要がある。
メトグルコの服用とヨード造影剤を用いた検査について、添付文書の重要な基本的注意および併用注意の欄に以下の記載がある。
重要な基本的注意
ヨード造影剤を用いて検査を行う患者においては、本剤の併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあるので、検査前は本剤の投与を一時的に中止すること(ただし、緊急に検査を行う必要がある場合を除く)。ヨード造影剤投与後48時間は本剤の投与を再開しないこと。なお、投与再開時には、患者の状態に注意すること。 |
併用注意
薬剤名等 | ヨード造影剤 |
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臨床症状・措置方法 | 併用により乳酸アシドーシスを起こすことがある。ヨード造影剤を用いて検査を行う場合には、本剤の投与を一時的に中止すること。 |
機序・危険因子 | 腎機能が低下し、本剤の排泄が低下することが考えられている。 |
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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