プラザキサについての継続的な服薬指導と残薬状況の確認不足
プラザキサ<ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩>が自宅に残ってしまったため、患者は自己判断で1日3回服用して残薬がでないように辻褄を合わせようとしていた。
<処方1>70歳代の男性。病院の循環器科。処方オーダリング。
プラザキサカプセル75mg | 4Cap 1日2回 朝夕食後56日分 |
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他6種類 |
<効能効果>
●プラザキサカプセル75mg・110mg<ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩>
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
患者は<処方1>を1年以上継続して服用していた。今回、投薬時に患者がプラザキサカプセルを指差しながら「これは何の薬ですか?」と薬剤師に尋ねた。
薬剤師は「血をサラサラにする薬ですよ。」と回答したが、なぜ急にそのような質問をするのかを疑問に思い、患者に「プラザキサカプセルで何か気になることがあるのですか?」と質問した。
患者は「きちんと服用しているつもりだが、なぜか自宅にプラザキサカプセルの28錠入りの袋(アルミピロー包装と思われる)が4つも残っていて、もったいないから、ここ数日間は1日3回服用しています。」と回答した。
薬剤師は驚き、「1日3回は過量服用になり、重篤な出血等のリスクが高まります。」と患者に注意喚起し、その後、処方通りの正しい服用方法を指導した。幸いにも、患者には過量服用による有害事象は起こっていなかった。
ハイリスク薬であるプラザキサカプセルの薬効について、薬剤師による継続的な説明が不足していた。1年以上前からの服用で、ほぼ2ヵ月に一度受診・来局していたので、これまでに服薬指導する機会が6回以上あったが、薬の説明は最初の1回目だけしかしていなかった。
その後は、あらためて本剤の注意すべきポイントなどの指導は行っておらず、患者がプラザキサの薬効を十分に認識していなかった。また、薬剤師による自宅残薬の確認が不十分であり、患者は医師や薬剤師に相談せずに自己判断で過量服用した。
プラザキサカプセルのようなハイリスク薬が処方されている時は、過量服用による副作用、服薬忘れなどの過少量服用による治療の失敗などを、来局の度に懇切丁寧に説明し、理解しているかどうかの確認が必要である。
更に、毎度の来局時に自宅残薬状況を把握し、決められた用量用法以外で服用することのないように指導する。
患者が話しやすいような雰囲気づくりと、信頼関係を築くことによって、残薬の処理などについて相談してもらうようにする。
残薬が出ないように辻褄合わせで薬を服用している患者は少なくないので、十分に注意する必要がある。以下に他の類似例を示す。
ホクナリンテープ2mgを1日4枚貼付している患者
<処方2>60歳代の男性。内科。処方オーダリング。
ホクナリンテープ2mg | 63枚 1日1回 |
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ホクナリンテープ2mgを1日1回貼付のところ、多い時は1日4枚(8mg)貼付していた。
薬剤師は、いつもと同じ<処方2>に従って、ホクナリンテープ2mgを63枚調剤した。調剤薬監査後、薬剤師は使用の状況をインタビューした。
薬剤師:「2ヵ月ぶりですね。この間、呼吸の調子はどうでしたか?」
患者:「調子が悪いです。このテープ、1日1枚と言われていましたが、多い時は1日4枚貼っています。」
薬剤師:「1日4枚も使用しているのですか?それでは薬が足りなくなっていませんか?」
患者:「調子の良い時は使用しないので、足りなくなることはなく、枚数の辻褄はあっていて、結局使い過ぎにはなっていません。だから問題ないですよね。」
ホクナリンテープの医療用添付文書上の用法は1日1回、1回1枚である(適宜増減とはなっていない)。
ホクナリンテープの用法用量:「通常、成人にはツロブテロールとして2mg、小児にはツロブテロールとして0.5~3歳未満には0.5mg、3~9歳未満には1mg、9歳以上には2mgを1日1回、胸部、背部又は上腕部のいずれかに貼付する。」
処方箋に1回の使用枚数やその上限の記載がないが、薬剤師は1日4枚(8mg)の使用は多いと判断し、医師に疑義照会した。医師は4枚も使用していることは認識していなかった。
薬剤師は、ホクナリンテープの適正使用は1日1枚(適宜増減はない)であることを患者に説明して、最終的には納得してもらった。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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