Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例126

フランドルテープの服薬指導時に、患者の理解度の確認不足

ヒヤリした!ハットした!

患者は、フランドルテープ<硝酸イソソルビド>を毎日、「胸部→上腹部→背部」の順番に貼付しなければいけないと思っていた。その影響で、『背部』に貼付する日に、いつもサポートしてくれている妻が不在であったために貼付できなかった(胸部・上腹部は自分で貼付していた)。

<処方1>70歳代の男性。病院の循環器科。処方オーダリング。

フランドルテープ40mg 56枚 1日1回 1回1枚貼付
他、内服薬7種類

<効能効果>

●フランドルテープ40mg<硝酸イソソルビド>
狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他の虚血性心疾患

どうした?どうなった?

患者はフランドルテープ(処方1)を初めて交付された時に、薬剤師から添付の説明書を用いて、『胸部・上腹部・背部など毎日貼る場所を変えるように』と指示を受けた。
患者はとても律儀な性格で、薬剤師の指示通りに「胸部→上腹部→背部」の順番に毎日貼りかえており、背中は、いつも妻に貼ってもらっていた。

ところが、今回、背中に貼る日に、妻が自宅に不在であったため、自分で貼ろうとしたが、背中に手が届かなかったため、フランドルテープを貼ることができなかった。
患者は困ってしまい薬剤師である娘に電話したところ、娘は「次に貼るところは今貼っているところでなければ、胸かお腹のどこでも構わず、また貼る場所を左右にずらすだけでも問題ない。かぶれないように毎日貼る場所をかえればいいので、順番は関係無い。」といった旨を答えた。

しかし、患者は、当該薬局の薬剤師は懇切丁寧に説明してくれたことをその通りに守っていて安心できていたので、自分の娘の言葉はとても適当に思えて、受け入れることができなかった。
最終的には、『本日貼付予定であった背中を飛ばして、翌日貼付予定である胸に貼る』ことを娘が提案し、患者はやっと納得し自分で胸に貼ることができた。

なぜ?

患者は、薬剤交付時に薬剤師から受けた説明で、『体の3か所を順番通り交互に貼る事でフランドルテープの効果が一定に保たれる』と勘違いして理解していた。なお、きちんと貼付部位の順番を守るように薬剤師が指示したわけではない。
しかし、当該薬局の薬剤師が、「毎日貼る場所を変える」ことを強調して説明しすぎ、「かぶれないために貼る場所を変える必要がある」という説明が不十分であったかもしれない。

ホットした!

薬剤師が服薬指導する際に、患者がどう理解したのか、誤解していないかなどのチェックを十分に行う必要がある。
服薬指導としては「貼る部位は、毎日、胸部・上腹部・背部などどこでも良いです。かぶれを避けるために、連日同じ場所にはらないようにしてください。例えば、胸部・上腹部・背部を順番に変えて貼ってもいいですが、同じ部位で位置をずらして貼ってもいいです。例えば胸部であれば、上の部分、真ん中の部分、下の部分、左横の部分、右横の部分です。」

参考:フランドルテープの患者指導箋。
https://med.toaeiyo.co.jp/products/frandoltape/pdf/pi-ftp.pdf

もう一言

貼付剤が関係したヒヤリ・ハット・ホット事例を以下に示す。

気管支の位置に貼らないと効かないとホクナリンテープの使用法を誤解

<処方2>60歳代の男性。気管支喘息。

ホクナリンテープ2mg 14枚 1日1回 1回1枚貼付

胸部、背部または上腕部のいずれかに貼付

薬剤師:「テープは胸か背中、腕のどこかに貼ってください。」
患者:「気管支はどこにありますか?」
患者は、ホクナリンテープ(一般名:ツロブテロール)を、気管支が位置する表皮に隙間なく貼らないと、意味がないと思っており、1回に5枚は貼っていたようだ。幸いなことに有害事象は起こっていない。患者は、薬が皮膚から透過して、肺、気管支に直接透過するものと思い込んでいた。

ホクナリンテープをはがさずに何枚も使用

<処方3>70歳代の女性。気管支喘息。

ホクナリンテープ2mg 14枚 1日1回 1回1枚貼付

患者:「まだ効果が残っていそうで、はがしてしまうのはもったいない。」
薬剤師:「副作用が心配ですので、必ず前のものをはがしてください。」
この患者は、「まだ効果が残っていそうでもったいない」と1日貼っていたホクナリンテープ(一般名:ツロブテロール)をはがさなかった。1日に1枚ずつ増えていき、何枚も体に貼ったままになっていた。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年11月19日

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