最高容量を超えて処方されていたエスシタロプラムを疑義照会
レクサプロ錠<エスシタロプラム>が40mg/日で処方されており、医師の但し書きがあった。本剤の用法用量は『通常、成人にはエスシタロプラムとして10mgを1日1回夕食後に経口投与する。なお、年齢・症状により適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて行い、1日最高用量は20mgを超えないこととする。』であり、最高用量を超えていた。
<処方>50歳代の女性。病院の心療内科・神経科。処方オーダリング。
レクサプロ錠10mg | 4錠 1日1回 朝食後 14日分 |
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<効能効果>
●レクサプロ錠10mg・20mg<エスシタロプラム>
うつ病・うつ状態、社会不安障害
患者は海外在住だが現在は一時帰国しており、初めての来局であった。レクサプロ錠の日本における1日最大量は20mgであるが、それを超える40mg/日で処方されていた。患者にこれまで本剤を服用した経験があるかどうかを尋ねたところ、海外では本剤を40mg/日で服用していたとのこと。また、日本最高用量の20mg/日だと急激な減量となるので、それを避けることを医師と話し合ったとのことであった。
海外の情報を調査したところ、米国やEUにおいてもエスシタロプラムの最大量は20mg/日であり、一方、ラセミ体であるシタロプラム(日本未発売)の最大量は40mg/日であった。
エスシタロプラムとシタロプラムは等価である、或いは、エスシタロプラムとシタロプラムは同じもの(日本と海外での名称違い)であると、医師が勘違いしている可能性も考えられたので、疑義照会を行った。
その結果、患者が海外で服用していたのはシタロプラムであり、医師はエスシタロプラムとシタロプラムが等価だと思っていたことが判明した。そこで、シタロプラムはラセミ体であり、エスシタロプラムはその活性本体であるエナンチオマーのS体であることを説明し、当該患者にシタロプラム40mg/日と等価になる処方はエスシタロプラム20mg/日であることを伝えたところ、レクサプロ錠は20mg/日へ変更になった。
医師が、エスシタロプラムとシタロプラムの化学構造と各エナンチオマーの活性を良く理解していなかった。更に、エスシタロプラムとシタロプラムは、日本と海外で薬名が相違しているもので、同じ成分であると思い込んでいた。
薬剤特性まで十分に把握していない医師もいるので、薬剤師が責任を持って医師の医薬品適正使用をチェックしなければいけない。
特に、光学分割されたエナンチオマーが成分となっている医薬品については、誤解を生まないように、薬剤師からの説明が必要となる場合があるかもしれない。
エスシタロプラム(S-体)は、シタロプラム(ラセミ体)の活性本体である。エスシタロプラム20mgとシタロプラム40mgを健常者(n=24)に単回経口投与した時のエスシタロプラムの血中濃度推移が同じであったことから、体内でのS-体からR-体への変換はないと考えられている1)。
[引用文献]
1)Rao,N.,:ClinPharmacokinet.46(4):281-290(2007)
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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