Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例122

腎機能が悪くない患者にケイキサレート散が処方

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、ケイキサレート散<ポリスチレンスルホン酸ナトリウム>の用法(バナナを食べるとき)を奇異に感じた。医師は、バナナに含まれるカリウムによって血清カリウム値が上昇する可能性があることを懸念し、処方したと思われる。

<処方>60代の女性。病院の内科。処方オーダリング。

ミカルディス錠40mg 1錠 1日1回 朝食後28日分
アルダクトンA錠50mg 1錠 1日1回 朝食後28日分
アマリール錠1mg 4錠 1日2回 朝夕食後28日分
ケイキサレート散 10g(2包) バナナを食べるとき20回分

<効能効果>

●ケイキサレート散<ポリスチレンスルホン酸ナトリウム>
急性および慢性腎不全による高カリウム血症

どうした?どうなった?

患者は、糖尿病(アマリール錠が処方)のコントロールが悪く、血圧も高いことからミカルディス錠、アルダクトンA錠が処方されていた。血清クレアチニン値は0.53mg/dLであり、腎機能が悪いわけではない。しかし、ケイキサレート散が処方され、それも「バナナを食べるとき」の頓用という奇異な処方であった。

患者によると、バナナは体に良いとテレビで見たので朝食としてバナナを食べようと思うと医師に相談したところ、毎日はすすめられないが、食べるのであれば今日から新しく追加する粉薬を水に溶かして飲んでからにするようにと指示されたとのことであった。

以前、当該患者とは別の腎機能は悪くない糖尿病患者で、毎日バナナジュース(1本に相当)を飲んで、1ヵ月後に救急入院した患者がいたので、医師が心配しており、定期的に腎機能等なども検査するとのことであった。

なぜ?

薬剤師は、腎機能が悪くない患者にケイキサレート散が処方されることなど無いと考えていた。しかし、バナナ1本に含まれるカリウム値は400-500mgと多いことから、医師は高カリウム血症のリスクが高まることを懸念したものと思われる。
医師は、バナナの摂取を禁止するのではなく、当該患者にとってバナナの摂取は必要であると判断したと思われる(理由は不明)。
更に、アルダクトンA錠やミカルディス錠などのARBを服用しており、これらの薬剤によって高カリウム血症となる可能性もあることから、処方された可能性がある。

ホットした!

薬剤師として、食品中のカリウム値なども把握しておく必要がある。更に、ARBやスピロノラクトンなどが処方(併用を含む)されている患者の血清カリウム値のチェックも必要であるとともに、カリウム含量が多い食品の摂取には注意する必要がある。

もう一言

■アルダクトンA錠<スピロノラクトン>
○禁忌
高カリウム血症の患者:高カリウム血症を増悪させるおそれがある。
○重大な副作用
電解質異常(高カリウム血症、低ナトリウム血症、代謝性アシドーシス等):高カリウム血症、低ナトリウム血症、代謝性アシドーシス等の電解質異常があらわれることがあるので、異常が認められた場合には、減量又は休薬等の適切な処置を行うこと。また、電解質異常に伴い、不整脈、全身倦怠感、脱力等があらわれることがあるので、このような場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。

■ミカルディス錠<テルミサルタン>
○重大な副作用
高カリウム血症
○特定の背景を有する患者に関する注意
高カリウム血症の患者:治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。高カリウム血症を増悪させるおそれがある。また、腎機能障害、コントロール不良の糖尿病等により血清カリウム値が高くなりやすい患者では、血清カリウム値に注意すること。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年9月14日

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