クラビット錠の疑義照会で、偽造処方箋が発覚
患者・家族以外の何者かが偽造処方箋を持って来局していたことが明らかとなった。薬剤の在庫が無いことから一旦帰宅してもらった後、間違った薬名(本来クラビットのところがクラビッド)が印字されており、更に通常の用法用量ではなかったことから医療機関に疑義照会したところ、処方箋に記載された名前の患者への処方は別の薬剤であり、受け取った処方箋は偽造されていることが発覚した。
<処方1>30歳代の男性。病院の内科。処方オーダリング。
クラビッド錠500mg | 3錠 1日3回 毎食後14日分 |
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<効能効果>
●クラビット錠250mg、錠500mg、細粒10%<レボフロキサシン>
〈適応菌種〉本剤に感性のブドウ球菌属、他
〈適応症〉表在性皮膚感染症、他
男性は初来局で、初めて受ける医療機関の処方箋を持って来た。頻用医薬品ではあるがたまたま在庫が無く、取り寄せる必要があったため、事務職員が連絡先を聞き、男性は帰宅した。
その後、「クラビッド」は「クラビット」の入力ミス、「3錠1日3回14日分」は用法用量の間違いではないかと考え、薬剤師は医療機関に疑義照会した。すると、処方箋に記載されていた名前の患者への処方はユニシア配合錠HDのみで「クラビット」は処方されていないこと、手書きでなく印字されているのに字が間違っていることなど、疑わしい点が明らかになった。
処方医は非常勤で確認できなかったため、病院薬剤部の判断で調剤はしないこととなった。この経緯を男性に連絡しようとしたが、不在で留守電にもなっておらず、連絡ができなかった(翌日に来ると言っていたが男性は現れず、結局その後も連絡はつかなかった)。
次の日、処方医がクラビット錠を処方していないこと、さらに処方箋に記載された氏名の本来の患者はリュックサックごと荷物を紛失してしまっていたことも判明した。来局した男性が保険証を含む荷物の入ったリュックサックを拾った人だったのかは不明だが、何者かが本物の処方箋に上記処方を記載(印字)した紙を貼り付けて、カラーコピーした疑いがあった。
初めて受けた医療機関の処方箋であった。また、処方箋を持参した男性は保険証(被害を受けた患者のものと思われる)を持っており、保険証の番号などが処方箋記載どおりで不備はなかったことなども重なり、病院から指摘されるまで偽造だと全く疑っていなかった。処方内容(用法用量など)が通常と相違していることは処方箋受付時には判明しておらず、男性が薬局を去ってしばらくしてから明らかとなった。
また、処方量が通常使用する範囲であり、他に疑わしい点がなれれば、そのまま調剤してしまったかもしれない。
可能ならば、処方箋受付時に不審な処方を発見して、処方箋を持ってきた者にインタビューする必要がある。
細かく処方箋をチェックし、疑わしい点は徹底的に調べる必要がある。
以下に偽造処方箋の事例を示す。
<処方2>20歳代の女性。3月11日。
リタリン錠10mg | 1回1錠 不穏時7回分 |
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<処方3>3月16日。
リタリン錠10mg | 1回1錠 不穏時14回分 |
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患者が作成した偽造処方箋に気付かず、リタリンを交付してしまった。
3月11日、患者が精神科から発行された<処方2>を持って来局した。その際、患者は、リタリン錠の他に、デパス、デプロメール、パキシル、ドラール、サイレース、ハルシオンを併用しており、リタリンは服用経験もあり、気分がすぐれないときに服用していると述べた。薬剤師は、患者が述べたことに何の疑いも持たず、リタリンを交付した。
3月16日、患者は<処方3>を持って再び来局した。その日は、リタリンの在庫を切らしていたため、患者には一旦帰宅してもらい、在庫を手配し入荷してから患者に連絡することとなった。
すると、在庫を手配している間に、地域薬剤師会から通達が回ってきた。その通達には、当該患者が処方箋を精巧に偽造したことが、偽造した処方箋とともに記されていた。しかも、偽造処方箋の内容は、<処方3>と交付年月日以外が全く同じであった。当該患者は、交付年月日の異なる偽造処方箋を当該薬局とは別の薬局にも持っていっており、その偽造処方箋の交付年月日が発行元の精神科診療所の休診日であったため、不正が発覚したことが記されていた。
薬剤師会からの通達を見て、処方箋の発行元である精神科診療所に確認をとったところ、<処方3>だけでなく<処方2>も患者が作成した偽造処方箋であったことが発覚した。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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